第63話 騎士団長vs英雄
ジャンハイブと向かい合ったハルザードは二本の剣を構え駆け抜ける。
目前まで迫ると速度を保ったまま左手の剣を振り下ろした。
ジャンハイブは軽く受け止めるが透かさずハルザードは右手の剣で隙を狙う。
しかし、ジャンハイブはハルザードの追撃が当たる直前で後方に飛び難なく躱した。
だが、ハルザードの攻撃は終わらない。
むしろ、これからが本番だ。
「それは甘くないか? 英雄!!」
ハルザードは左手に持っていた剣を強く握りしめて肩から思い切り一直線に投げつけた。
「速い!」
ジャンハイブは即座に避けることが不可能だと判断すると聖剣を振り下ろして飛来した剣を受け止める。
だが、ハルザードの投げつけた剣の勢いは凄まじく聖剣は火花を散らしジャンハイブ自身も地面を引きずり後ろに下がって行く。
しばらくジャンハイブは力を入れ続けていたがついに勢いを殺すことは諦め聖剣に込めていた力を抜いた。
剣が身体を貫く前にジャンハイブは聖剣でハルザードの剣の軌道をずらし打ち上げる。
打ち上げられた剣は遙か上空を突き抜けその姿は消失してしまった。
まさに英雄と呼ぶに相応しい神業と言って恥ずかしくない動作だった。
一歩遅ければ自分の身体に風穴が開いていたはずだがジャンハイブには一切の冷や汗すらなく平然としている。
「今のは危なかったぞ……!?」
しかし、ジャンハイブが見た先にはハルザードの姿はなかった。
ハルザードはそのときにはジャンハイブのすぐ真横まで移動しており両手で握った剣に全力を込めて横に振り抜く。
間一髪でジャンハイブは聖剣を間に入れ致命傷は避けたが踏ん張りが足りなく後方に吹き飛ばされる。
吹き飛ばされたジャンハイブはそのまま岩にぶつかり瓦礫の中に埋まってしまった。
だが、ハルザードの攻撃はそれで終わることはなく三本目の剣を引き抜き瓦礫の中に目掛けて一直線に投げつける。
その剣が瓦礫の中に潜っていった後、すぐに甲高い金属音がなり瓦礫の中からハルザードが投げた剣が真上に飛んでいった。
それと同時に聖剣を片手で持ったジャンハイブは瓦礫の中から飛び上がり静かに着地した。
「俺が押され続けるなんて初めてだ。ふふ、ハッハッハ! 噂に違わぬ実力だ」
「これを全て耐えられた相手なんて久々だ。だがな英雄。そもそもこの程度でお前を倒すことができるなんて思ってない。油断しすぎじゃないか?」
ハルザードが睨み付けるとジャンハイブは危機感が襲ったのか後ろに飛び退く。
すると、ジャンハイブがいた位置に打ち上げたはずの剣が先程と衰えていない勢いで降り落ちてきた。
そしてもう一本、それはジャンハイブのすぐ真上に迫っていた。
ジャンハイブは聖剣の腹でそれを受け止めるが威力が強すぎて足下の地面が罅入る。
「くっ」
ジャンハイブは初めて顔をしかめる。
そして、剣と身体の向きを巧みに変えその剣の軌道をずらし横に飛ばした。
ジャンハイブは大袈裟に息を吐いた後、前を向くと目を見開いた。
「なるほど。それがお前の技か」
最初に降り落ちたハルザードの剣は地面に突き刺さってはいなくすれすれのところで止まっていた。
そして、その剣は独りでに動きハルザードの左肩近くに移動し宙に浮いている。
さらに先程ジャンハイブに真横に飛ばされた剣も遅れて右肩の近くに位置取った。
「ああ、これが
ハルザードは持っていた剣を手放して見せるとその剣は宙に浮いた。
「これは厄介だな」
ジャンハイブは笑みを浮かべているが目は笑っていなかった。
「行くぞ! 第二ラウンドだ!!」
ハルザードがそう叫ぶと右側に浮いていた剣の切っ先がジャンハイブに向き高速で飛んでいく。
ジャンハイブは今度は難なく躱すが飛んできた剣は直角に曲がりジャンハイブを追跡する。
「嘘だろ!? ……しかし!!」
ジャンハイブは聖剣を振り抜きそれを打ち落とした。
「やはり投げたときより威力はない」
「だが、手数の煩わしさは威力を越える」
続けてハルザードはジャンハイブに向けて真っ直ぐに剣を放つ。
ジャンハイブは首を傾けてぎりぎりで躱し飛んできた剣はジャンハイブの背後に飛んでいく。
透かさずハルザードは最後の一本の剣にカーブをかけてジャンハイブの脇腹に目掛けて飛ばした。
それと同時にハルザードは走り始める。
ジャンハイブは飛んできた剣を躱そうとするが最初に打ち落とした剣が宙に浮いており逆の脇腹に目掛けて加速する。
たとえ打ち払ったとしてもこのように予備動作なしに襲いかかってくるのだ。
左右から挟むように剣が飛来してきたことにジャンハイブは堪らず舌打ちする。
反射的にジャンハイブは飛び上がることで二本の剣を避ける。
だが、ハルザードの追撃はまだ終わらずジャンハイブの背後から三本目の剣が首を狙って突貫してきていた。
「!!」
それをジャンハイブは直感で頭を下げて躱す。
だが、すぐ目の前には手ぶらのハルザードの姿があった。
「誘い込まれた!?」
「吹き飛べ」
ハルザードはジャンハイブが躱した剣の柄を掴み勢いを殺さずにそのままジャンハイブ目掛けて横に薙いだ。
防御が間に合わずジャンハイブはその攻撃を鎧で包んだ身体に直撃してしまい横に吹き飛ばされる。
ジャンハイブが飛ばされた先は両軍が争っている場であった。
地面に着地したハルザードは一息もつかずに飛んでいったジャンハイブを追いかける。
(やつには反撃、対処方法の考える暇など与えない)
移動している最中にハルザードは地面に落ちている剣や槍を触れていく。
ジャンハイブが飛ばされた場所は争いが止み静寂に包まれていた。
まるでそこだけが時間が止まっているように感じる。
両軍の兵士たちは争いを忘れハルザードたちに見入って動きが止まってしまっているからだ。
ジャンハイブは立ち上がり聖剣を構える。
「タフだな。思い切り振ったはずだが」
「俺は頑丈なんだ。さて、お前の技は厄介だが三本までが限界と見える。同じ手が通用すると思うな」
ハルザードの眉が僅かに動く。
「ご名答、三本までが限界だ。だがな、動きを単純にすればそれなりの量を持ってこれるぞ」
その言葉と同時にハルザードは片手を上げる。
すると、地面に散らばっていた数百本の剣や槍が犇めきやがて浮き始めた。
そして、瞬く間にジャンハイブを取り囲んだ。
四方、それに真上でさえも取り囲んでおり逃げ場はどこにもない。
ジャンハイブにとって絶体絶命の状況である。
「これで終わりか!? どうする! 英雄!!」
ハルザードの怒号とともに全ての剣と槍の切っ先はジャンハイブに狙いを定めて突き刺しに行く。
数多の武器が襲いかかりジャンハイブの姿は剣で覆い尽くし隠れてしまった。
ジャンハイブに直撃した後、その武器は力をなくして地面に落ちていく。
それと殆ど同時にジャンハイブが握りしめていた聖剣も地面に落ちた。
ハルザードはそれを見て勝利を確信した。
だが、ふとジャンハイブにぶつけた剣を見てそれは大きな間違いだとハルザードは思い知らされる。
なぜなら全ての剣の刀身は罅入り割れてしまいジャンハイブを貫いた剣は一つもなかったからだ。
ジャンハイブの身体を貫いていると思っていた剣は力尽きたようにジャンハイブの身体から地面に落ち始めた。
そして、そこには無傷のジャンハイブは直立に立っており口元には笑みを浮かべていた。
「まさか、全てを防いだのか!? どうやって!?」
ハルザードの顔に一筋の嫌な汗が流れる。
ジャンハイブが身につけている鎧には穴がいくつも開いており確実に直撃しているはずなのだが流血している様子は微塵もない。
ハルザードは冷静に考え一つの結論が浮かび上がった。
「そうか、何かは分からんがそれがお前だけに与えられた紋章の力か」
そう言うとジャンハイブは上半身に身につけていた防具を全て脱ぎ捨て半裸になった。
「その通りだ。これが俺の紋章の力」
すると、ジャンハイブの左手の甲が赤く光り出した。
そのときジャンハイブの身体から何かが重なっていくように浮き上がり徐々に鋼色に染まっていく。
それは顔にまで及びハルザードは直感でそれが何か分かった。
「鱗? ……か?」
「そうだ。これが俺の最大の力“
ハルザードは口元を釣り上げて答える。
「それは……もう壊すまで叩きつけるしかないだろ」
空笑いをしながらハルザードは答える。
「それもそうか。ハッハッハ!!」
ジャンハイブは地面に落とした聖剣を拾い両手で握りしめて構える。
「精々足掻くといい!!」
ジャンハイブは言い終わると同時に地面を蹴り一瞬で間合いを詰めて斬りかかる。
ハルザードはジャンハイブの変化に対する動揺を心の奥底に追いやり宙に浮かした自分の剣二本を聖剣にぶつける。
その反動でジャンハイブは大きく仰け反りハルザードはすぐさま手で握った剣をジャンハイブの脇腹に全力で振り抜いた。
とても生身と剣がぶつかった音だとは思えない轟音が鳴り響く。
衝撃で地面を引きずってジャンハイブは横にずれてしまうが上げた顔には余裕な表情を崩してはいない。
「ちっ! 全力でも効いていないのか!!」
ジャンハイブが余りに頑丈であり剣から両手へと衝撃が伝わり僅かな時間であったが手が痺れてしまう。
むしろ攻撃を行ったハルザードの方がダメージを受けてしまっている。
ハルザードは浮かせた二本の剣をジャンハイブ目掛けて飛ばす。
剣が豪速で飛んできているのにもかかわらずジャンハイブは避けることもなくむしろ自分から当たりに行くように走り始めた。
右手で聖剣を地面に引きずりながらハルザードに向かって突撃を続けるジャンハイブに二本の剣が襲いかかる。
ハルザードは聖剣で軌道をずらそうとするだろうと考えたがそれは甘い考えだった。
ジャンハイブは左手の前腕を向かってきている剣の方向に向けて衝突した瞬間に大きく手を振る。
すると、甲高い音を鳴らして突撃した剣たちは進路を変えてあらぬ方向に飛んで行ってしまった。
ハルザードはすぐさま剣を操り再びジャンハイブに目掛けて飛ばす。
しかし、今回ジャンハイブは背後から迫り来る剣に気が付いているはずだが一切目もくれずに走り続けついに間合いに入った。
ジャンハイブは力を乗せ続けてきた聖剣をハルザードに振り下ろす。
それをハルザードが剣で防ぐと同時に飛んでいた剣二本がジャンハイブの左右の脇腹に直撃するが鱗の鎧の前にはあっけなく弾き飛ばされてしまう。
しかし、そのときにジャンハイブがほんの些細だったが顔をしかめたことに気が付いた。
お互いの剣を交差し合っている中、ハルザードは思考を巡らせる。
(どうやら衝撃までは消せないようだな。それならばひたすら打ち続けるまでだ。……これは耐久戦だな。俺の力が尽きるのが先か鱗が剥がれるのが先か)
ハルザードは再度二本の剣を浮かせるとジャンハイブの背後に移動させる。
そして、狙いを定め勢いよく飛ばす。
それがジャンハイブに衝突すると聖剣に込められている力が弱まった。
それを好機と感じたハルザードは剣に全力の力を込めて聖剣を上に弾く。
それでがら空きとなった脇腹に全力で剣をぶつける。
しかし、振り抜いた剣がジャンハイブにぶつけた瞬間にハルザードの頬に衝撃が走る。
ハルザードは理解が追いつかずにいつの間にか大きく吹き飛ばされ宙に舞っていた。
背中から地面を転がりハルザードは持っていた剣を手放し両手を地に着けブレーキをかけることでようやく勢いを全て殺すことができた。
だが、ダメージが酷く脳が揺さぶられたようで視界がぼやけてしまう。
「何だったんだ……今のは」
その答えはジャンハイブの姿にあった。
ジャンハイブは拳を振り抜いた姿で固まっていた。
その拳は大量の鱗が浮き出るように積み重なり拳の原型がなくなっている。
ジャンハイブの視線はハルザードをしっかりと捉えており油断は微塵も感じられない。
「そうか、武器を捨てることで体勢が崩れるのを防いだか。そして、拳を振るったってとこだな。ふっ、防御は考えないか。いや、俺としたことが思いつかなかった。今のやつには防御は必要ない。そうか、やつは最初から捨て身で向かってきていたのだな」
鱗で纏われた拳は鉄よりも強固さを誇っているが驚異なのはそれを防御ではなく攻撃に回したときだ。
それでできる裂傷は侮ることができない。
一つ一つの鱗は鋭く尖っておりそこらのナイフと比べても切れ味は比べものにならなく見えた。
頬から血が溢れるほど流れ落ち止まる気配は全くない。
そして、ジワジワとくる痛みから骨は砕けているとハルザードは即座に判断した。
頬は腫れ上がり片目の視界が狭まってしまっている。
「鎧にもなり武器にもなる。想像以上に恐ろしい。……英雄と呼ばれるわけだ」
三本の剣を手元まで近づけその一つを手で掴み他は左右の肩の近くに浮かせる。
ハルザードは静かに息を吐き全身の感覚を研ぎ澄まして剣を構える。
それに合わせるようにジャンハイブも落とした剣を拾って構えた。
お互いの距離は剣で戦うには離れすぎているが視線はぶつかり隙の探り合いが続く。
先に動いたのはハルザードだった。
肩近くに浮かせた剣を引き連れて瞬く間に距離を詰めていく。
遅れてジャンハイブが動き始める。
ジャンハイブは既に聖剣を振り上げており無防備な身体を晒しているがそれは攻撃を誘っているのかもしくは己の能力の信頼によるものかはハルザードには分からない。
(だが、狙わない理由はない!! 罠だったときはそのときだ!)
ハルザードは二本の剣を飛ばしてジャンハイブの脇腹にぶつける。
だが、簡単に弾き返されてしまう。
そして、ハルザードとジャンハイブは衝突した。
幾度にも渡る剣の交差が続いていく。
浮かした二本の剣を誘導に用いてその隙に脇腹に攻撃を与える。
捨て身の攻撃をできるだけさせないようにするため突っ込んでくる進路方向に立ち塞がるように剣を移動させジャンハイブが嫌がるような立ち回りをする。
やはり、手数の有利があるハルザードの方が一見してみると押しているように見える。
だが、ジャンハイブにその攻撃の全ては意味をなしていなく逆に手数の多いハルザードの方が体力の減りは早い。
ジャンハイブの鱗も傷つけたり、ようやく剥がすことができたりするがその努力を嘲笑うかのようにすぐに生え替わってしまう。
落ちた古い鱗は地面に触れる直前で音もなく光となって消え去っていくのを見て魔力でできたものだと実感させられる。
ジャンハイブの鱗はすぐに生え替わるのに対してハルザードはかすり傷などの些細な傷でさえも治療をしなければ治りはしない。
それも即時回復なんて尚更無理だ。
(これでどうだ!?)
ハルザードが後ろに下がると浮かしていた二本の剣が突然脱力したように下に落ちる。
それも束の間、辺りに落ちている武器の数々が素早く宙に浮き波を描くようにジャンハイブに襲いかかった。
ハルザードの飛操剣は武器に自身の魔力が残っているうちは操作ができる。
だが、武器の数が三つを超えると数が増えるごとに精密な操作ができなくなり単純な攻撃になってしまうが防御を捨てたジャンハイブに対しては好都合。
(質の攻撃で駄目なら数で攻めるのみだ。これならやつは近づくことさえ難しいはずだ)
ジャンハイブの視界を埋め尽くす量の武器が次々と雪崩れ込む。
特に脇腹に集中狙いをし続ける。
自分の姿を無数の剣で隠しているうちに素早く動きジャンハイブの背後に回る。
背後をとったハルザードは脇腹に全力の一撃を叩き込もうとするがそれを待っていたかのようにジャンハイブは身体を回転させた。
「読まれた!?」
既にジャンハイブは剣を振り下ろしている。
「あの攻撃も無視するのか!?」
「騎士団長相手には虚を突くしかないだろう」
お互いの攻撃がお互いの身体にぶつかった。
ハルザードの攻撃はジャンハイブの脇腹に命中しそのまま大きく吹き飛ばした。
ジャンハイブの攻撃はハルザードが苦し紛れに身体を捻ったのが功を奏し致命傷を避けることができたが左肩から血が噴出しており下手をすれば腕を切断されていたかと思われる重傷だ。
ジャンハイブは顔を下に向けたまま聖剣を落とす。
そして、勢いよく頭をあげその表情は狂気に満ちていた。
「ふ、ふふふふ。はっはっはっは!! 俺の勝ちだ! 騎士団長!! その傷ではもう動けまい!! その澄ました顔が続けられる胆力は褒めておこう!」
そう言いながらジャンハイブは聖剣を拾い直さずに歩き始める。
確かにハルザードの左腕は力なくぶら下がりもう使い物にはならない。
剣も手放して右手で左肩を押さえている状況だ。
だが、ハルザードは口元に笑みを浮かべながら視線だけを移動させジャンハイブの言葉を一蹴する。
「お前の勝ちだと? 客観的に見ると引き分けだと思うが……」
「負け惜しみはよせ。お前らしくもない」
そのとき、歩いていたジャンハイブの片足がガクッと下がった。
「!?」
何が起こったか分からない様子のジャンハイブにハルザードは言葉を投げかける。
「まさか、気が付いていないのか? 脇腹を見てみろ」
ジャンハイブがその言葉通りに自分の脇腹を見るとそこから夥しい量の血が流れていた。
「な……んだと?」
それに気が付いたと同時にジャンハイブは濁流のような吐血をした。
「どうやらお前は気が付いていないようだがお前の能力は魔力の消費量が激しいようだな」
「そ、そんなはずはない! 今までもこの能力を使ったまま十分に戦えていた!」
「俺の感覚だが鱗が生え替わる度、最初は強度、さらに生え替わる速度が落ちていた。おそらく発動する度に魔力を消費する魔法なのだろう」
それを聞いたジャンハイブは目を見開いていた。
「……盲点だった。この力にそんな欠点があったとはな。さすがだ騎士団長! 面白くなってきた!!」
ハルザードは剣を再び構え直す。
「さて、始めるか」
「ああ」
ジャンハイブは全身に力を入れたと同時に左手にある紋章が赤く光り始め瞬く間に体中が再び鱗の鎧に包まれた。
傷口も鱗で塞ぎ止血を済ませている。
だが、傷が治ったわけではないため足はふらついているが闘志は耐えていない。
ハルザードも意識を保つのに精一杯で気力だけでなんとか持ち堪えている状態だ。
それに加えて頬が腫れ上がっているせいで片目の視界は悪く、左腕が使い物にならない。
もう既に共に限界は訪れている。
だが、それでもお互い退く気はさらさらない。
そして、二人がぶつかろうとしたときそれを立ち塞がるように二人の前に人影が舞い降りた。
その人影はジャンハイブの身体を支えて一緒に飛び退く。
そのためハルザードの振り下ろした剣は空を斬ってしまう。
「ブエル!! 邪魔をするな!!」
ジャンハイブはブエルに目も向けずにハルザードを睨み付けている。
ブエルはその言葉を聞き大きく溜め息をつく。
「はぁ……やっぱりこうなっているじゃないですか。約束忘れたのですか?」
「うるさい!! 引っ込んでろ!!」
ジャンハイブはブエルを手で押し退けようとするがブエルが放った一言により思い留まった。
「ジャンハイブさん。あなたが命を賭ける場所は本当にここなのですか?」
「……」
それを聞いて冷静になったジャンハイブは力を抜いた。
ジャンハイブは紋章の力を解除すると纏った鱗が剥がれ落ちていく。
「騎士団長! 悪いが決着はまた今度だ」
そう言って不承不承にジャンハイブは背を向けて立ち去っていく。
「と言うことなんで次の機会にしてください。それか良ければ俺が相手しますけど?」
しかし、ブエルは返答を待たずに疲労しきったハルザードに剣を振り抜く。
だが、それはハルザードの前にさらに現われた第三者によって防がれる。
「不意打ちか。意外とそういう手を使うのか」
「やっぱりそう上手くはいきませんか。今の騎士団長なら俺でも倒せると思ったのですがこうなると話が別ですね」
「安心しろ。私はお前と戦うためにここに来たわけではない。お前も退け」
すると突如数回の衝撃が生まれブエルの剣は折れてしまいさらに衝撃が続きブエルは後方へと吹っ飛ばされてしまった。
それを見届け帰ってくる気配がないことを悟るとリュースはハルザードに歩み寄る。
「結構派手にやられたな。どうだった? あの英雄は」
「ああ、想像以上だ。全く厄介な能力だった。正直言うとお前の方が相性は良いんじゃないか?」
「お前がそこまでやられているのに私がか? ふっ冗談は止してくれ。さて、私から振っておいて悪いが感想は後だ。敵が引き下がり始めた。こちらも退くとしよう。手当ても急いだ方が良い」
「ああ、わかった」
陣に戻ったハルザードは傷の手当てを受けながらリュースから報告を受ける。
「左軍、右軍ともに被害は最小限。順調に事が進んでいる」
「それは結構なことだ」
「それと先程報告があったが先日、デンルーエリ砦でジャリムと戦闘が始まったそうだ」
「あのドリューガとイリーフィアに任せている。万が一もないだろう」
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