第41話 警護と散歩

 

「それでどこに向かうのですか」

「そんなものは決めていません。決める必要はありません。思うがまま進むのです!」


 意気揚々にとことこと歩いて行くフレイシアを追いかけて後ろに付き従う。


「少しだけですからね」

「驚きました。止めないのですね。爺ならすぐに帰ろうとうるさかったのですが」


 デルフにはフレイシアが外に出たがる気持ちがなんとなく理解できた。

 豪華で何一つ不自由のない部屋だが一日中あそこから出ずに閉じこもっていると気が滅入ってしまうだろう。


 まるで籠の中の鳥だ。


 それならば少しは気晴らしに外に出るのは良いと思えた。


 それにもし何かあれば自分が守れば良いと考えていた。


 しかし、デルフは強くなった自分の力に傲っているわけではない。


 むしろ自分はまだまだ未熟だと考えている。


 だが、それでも自分が命を賭けて守ればどのような相手でもフレイシアが逃げる時間を稼ぐことができるとは自負している。


 デルフは陛下から頼まれたこの役目を必ずや成し遂げてみせると意気込みする。


「私はフレイシア様の盾であり剣であ……」

「デルフ? 今の私はフーレです!」

「あっ」


 デルフは辺りを見渡して人がいないことを確認するとほっと胸をなで下ろした。


(何をやっているんだ。せっかく変装をしているというのにわざわざばらす馬鹿がいるか! ……油断、というより気が抜けているのは俺か……)


 デルフはしっかりしろと頬を挟むように叩く。


「さぁ、早く進みますよ」


 そしてフレイシアとデルフは大通りまで進んでいく。




「デルフ、デルフ! お店です! それに人がこんなにたくさん!」


 デルフははしゃいでいるフレイシアを眺めて微笑ましく思っていたがそれを振り払い周りに注意を向ける。


「フーレ様。勝手に次々と行かないでください」

「デルフ、敬称はいりません。私はあなたの友人であるフーレなのです。敬語も不自然です。これは命令ですよ」


 命令と言われれば仕方がない。

 だが、そう割り切ったとしてもため口で話すのは抵抗がある。


「わか……った。フーレさ……フーレ」

「ぎこちないですが……今はまだよしとしましょう。次第に慣れていってくださいね」


 そう言った後、フレイシアは再びあちらこちら店を眺めては移動を繰り返していった。


「む? デルフではないか! いや、隊長と言った方がいいか?」


 フレイシアに置いて行かれないように必死について行っている途中で目立つ大剣を背中に背負っているアクルガと出会った。

 鎧を配給されたはずなのに私服のままだ。


 この姿だと騎士とは誰も思わないだろう。


 大剣が悪目立ちするのでは考えたがそれは杞憂だった。


 アクルガはもうこの王都内で良い噂で広まっている。

 怯えどころか結構人気な存在だ。


 アクルガが通ったところではしばらく悪事は誰も起こさないと言われているほどに。


 もう目的である正義の味方になっているのではないかと思ってしまうがそれを言ってもアクルガは否定するだろう。


「いや、デルフでいい。お前に敬称で呼ばれるのはなんだかむず痒い」

「そうか。ならば遠慮なくそう呼ぶとする」


 アクルガはふと店に並んでいる品物を見て目を輝かせているフレイシアの姿を発見した。


「あれは……フーレか。なんだ、お前たちデート中であったか。まさかそれほどの仲だったとはな。ハッハッハ」

「ぶふぅぅぅぅ!!」


 それに反応したのはデルフではなくフレイシアだった。


「で、ででデートだなんて」


 一人でもじもじと上の空でフレイシアは何か呟いているがデルフまで聞こえてこない。


「ところで、デルフ。お前は王女殿下の御側付きではなかったか?」

「ああ、今そのさい……んごっ!?」

「あ、あははは。その王女様におつかいを頼まれたのですよ。私、王女様の下で働いててデルフさんにお手伝いを頼んだのです」

「なるほど……どうやらしっかりと役目を果たしているのだな。てっきりすっぽかしていちゃいちゃしているかと勘違いするところだったぞ!」

「そ、そんなわけないだろ……」


 デルフは引き攣った顔で目を逸らしながらそう答える。


「姉御~~~!! アクルガの姉御~~~!!!」


 少し離れたところからアクルガを呼ぶ声がだんだんと近づいてきた。


「げぇ!! あいつらもう追ってきたのか!! そ、それではなデルフ、急ぎの用ができた!」


 アクルガはそう言い残してピューンと思い切り走って去ってしまった。


 既にその後ろ姿すらなくまるで嵐のようなやつだと思わず笑ってしまう。


 それにしてもどうしたらあんな重い大剣を持ってこんなに早く走れるのだろうか。


「おお、デルフの兄貴!!」

「あ、兄貴!?」

「アクルガの姉御の同僚に加えて隊長となった人に兄貴と呼ぶのは当然だ! それよりも!! アクルガの姉御はどちらに!?」

「……あっち」


 デルフは考えるのを止めて素直にアクルガが走り去った方向に指さす。


「ありがとうございます! おう。お前ら行くぞ!!」

「「おおおぉぉぉ!!」」


 暑苦しい男の集団が大通りを走り抜けていく。

 堪らず通り道にいたものは皆が隅によって通り道をあけてしまっているほどだ。


「これは俺でも逃げるな……」


 アクルガが無事に逃げ切れますようにと面白半分で祈っているとフレイシアがとんとんと肩を叩いた。


「次、行きますよ」


 またしばらくフレイシアと歩いていると目の前に見知った顔を見つけ思わず立ち止まってしまった。


(うーん。どうしてこんな時に限って知り合いと出会うのだろうか)


 いつの間にか目の先でフレイシアとヴィールが談笑している。

 そして、デルフの隣にはガンテツがいた。


 二人はフレイシアとヴィールを眺めながら言葉を交わす。


「ガンテツ、お前も付き添いか?」

「ヴィールが非番の時ぐらいしか遊べないと無理矢理……。自分は鍛練を積みたかったのでござるが」

「それはお気の毒。まぁ俺も同じだ……な」

「お互い苦労するでござるな」


 苦労人の二人は空笑いをする。


「ところで、ガンテツも刀を使っていたんだな」


 デルフはガンテツが腰にぶら下げている刀を指さした。

 ガンテツは鞘ごと目の前まで持ち上げて懐かしそうに眺める。


「刀は故郷の国の伝わる武器でござる。これは家を出るときに親からもらったのでござる」

「どうしてこの国で騎士になったんだ? 自分の国でも似たようなものがあればなれるだろう」


 ガンテツはゆっくりと首を振った。


「それではそこに止まり続けるという意味。世界を知らなければ自分の力はそこで停滞するだけ。それならばと国を飛び出しこの国で騎士になったほうが世界をしれると考えた。しかし、友好関係であるこの国を選んだのは自分にまだ甘えがある。自分はまだまだ未熟でござる」

「いや、知らないことに挑戦するだけでも相当な勇気が必要だと思うぞ。俺だって……きっかけがなかったら騎士にはなってなかった。それでもお前は自分から行動した。十分に凄いと思う」

「かたじけないでござる。それでカルスト隊長」


 まだ慣れない敬称を付けられるとむず痒くなってしまう。

 いつか慣れるものなのだろうかと頭を悩ますが言った方が早いだろうと考えた。


「隊長は止してくれ。今まで通りでいい」


 ガンテツは不満を露わにして顔をしかめる。


「隊長とは隊にとって威信でござる。隊長が軽く見られれば三番隊そのものが軽く見られるのと同意。こればかりは譲れないでござるよ」

「そう言うものか……」


 これはもう未来の自分が慣れることに期待するしかない。


「デルフく~ん!!」


 話が終わったらしくヴィールとフレイシアがデルフたちの下まで歩いてきた。


(ヴィールは変わらないな)


 隊長になったからと言ってもこうやって皆も気楽に話しかけてほしいものだとデルフは息を吐く。


「ふぅ~有意義な話ができました」

「フーレちゃんとのお話楽しかったー。また、しようね!」

「はい! 是非!!」


 そして、ヴィールは「そろそろ行くね~」とガンテツを連れて去って行った。


 その後ろ姿を少しの間、見てみるとガンテツはどうやら荷物持ちらしい。


 次第にガンテツの両腕が埋まっていった。


 楽しそうなヴィールの笑顔に対して苦痛にまみれたガンテツの顰めっ面。


 デルフは耐えきれずに笑ってしまう。


「それでは私たちも行くのです! ヴィールさんから美味しい食べ物のお店を聞きました。さぁ早く!!」


 目が本気になったフレイシアに押されて行く。


(あ……これは俺も同じ目に……)


 その際に寄り道をしてフレイシアが欲しそうに見ていた食べ物や小物などをひっきりなしに買って行く。


 次第にデルフの両手が塞がり財布の中身が底を尽きそうになっていた。


 なぜ奢りだ、なんてせこいことは言わない。


 ただこうなるのならもう少し金を持ってこれば良かったと後悔した。


「おう。デルフ! いや、隊長殿~~!! ……なんだデートかよ! けっ! ん? おいおいフーレちゃんじゃないか」


 デルフはまた説明をしなくてはならないと思うと億劫になり無視することを即断した。


(それよりこいつの言い方が腹立たしい。酒飲んでいるんじゃないだろうな……)


 面倒くさいやつの一番の対処法は目を合わせてはいけないということだ。


 デルフはフレイシアに顔を向ける。


「フーレ。そろそろ行こうか」

「ほぉうでふね」


 デルフと串焼きを頬張りながらのフレイシアは喋りかけてきた者などいないことにして歩き始める。


 後ろから無視をするなと怒鳴り声が聞こえるが聞こえない。


(俺は見なかった。頭に剃り込みを入れて背中に物騒な斧槍を背負っている怖いお兄さんなんて見なかった)


 たとえ後で何か言われようが知らぬ存ぜぬでやり過ごすとデルフは決めた。



 そろそろ城に戻ろうかと思っていたとき、偶然買い物終わりのナーシャと出会った。


(おいおい。いくら皆、王都にいると言っても会いすぎだろ。本当に偶然か……?)


 ナーシャはデルフたちに目を向けてぱっと花が咲いたような笑顔になった。


「あれ? デルフじゃない。それと……フーレちゃん!」

「お姉様。お久しぶりです!」


 ナーシャはぽかーんとデルフとナーシャを交互に見る。


「ふぅ~ん」


 ナーシャの目つきはいたずらになって何か察したようないたずらな目つきになっていた。


(姉さん、その目は何だ……)


 デルフは嫌な予感を感じられずにはいられなかった。


「そうだ! 今からご飯なのだけどフーレちゃんもどう?」


 フレイシアはナーシャの提案に目を泳がせていたがナーシャの目を見て愛らしくこう言った。


「いいのですか?」

「もちろんよ~~!! デルフの恋び…ゴホン! 友達ならいつでも大歓迎だわ!!」


 ナーシャは荷物を地面に落としてフレイシアを抱擁する。


(何か言葉が詰まっていたが、いやそんなことよりも)


 もうそろそろ時間が迫っているのでこれは断らないといけないと思いデルフは割り込んで口を開く。


「悪いが……」


 デルフがそう言いかけたときフレイシアの鋭い視線がデルフに突き刺さる。


 背筋に悪寒が走り死を予感したためそれ以上何も言わなかった。

 いや、何も言えなかった。


「それではお言葉に甘えてご馳走になります!」

「本当に!? それじゃ思いっきり腕を振るわないとね!! あーデルフこれ持って。さぁ行くわよ!!」


 ナーシャが既に荷物を持っているデルフにさらにどっさりと中に物が入った紙袋を押し付けて意気揚々にフレイシアと歩いて行った。


(ガンテツ……俺も荷物持ちになったぞ。って待てよ……家って王都の外だよな。はぁ……ばれたら大目玉か……最悪……クビを超えて牢獄行き!?)


 デルフの頭が項垂れるが前を歩くナーシャたちは気付くことはなかった。


 

「さぁ。できたわよ!! お代わりもたくさんあるから。いっぱい食べていってね!!」


 フレイシアは目の前に並んだご馳走を見て目を輝かせる。


「おいしいです! こんな美味しい食事、初めてです」


 王城の食事の方が豪華であるがそれでも家庭のご馳走というものには今まで触れることができなかったのだろう。


 それに聞いた話だと毒味とか諸々で冷めた食事しか取れなかったらしいので出来たての温かい食事はフレイシアにとっては新鮮に感じるのは当然だ。


 あと、王城を出てこんなにもはしゃいだことも初めてなのだろう。

 外に出てからというものずっと目が輝き続けている。


 ナーシャも褒められて嬉しそうに柔らかな表情になってフレイシアを見詰めている。


 フレイシアはパンを掴み小皿にあるタレを付けてかぶりつく。


「このタレも本当においしいです。まろやかな味で酸味がほどほどなのが素晴らしいです」


 愉悦に満ちた表情をしながらフレイシアはどんどんと平らげていく。


「そうでしょ! これ私の自信作なんだから!!」


 食事が終わりフレイシアとナーシャは湯飲みに入れたお茶を啜って談話を始めた。


 外を覗くと既に太陽は沈み切り辺りは静かな暗闇になっているためデルフに焦りが出てくる。


 話の邪魔をしないようにゆっくりと近づきフレイシアの耳元に顔を近づけ小声で囁く。


「フレイシア様。そろそろ」

「むぅ~。もうそんな時間ですか。楽しい時間とはこのように過ぎるのは早いのですね……」


 フレイシアは残念そうにそう呟いた後、ナーシャの方に顔を向ける。


「お姉様。名残惜しいですがそろそろ門限が近づいてきました」


 ナーシャは時計をチラッと見る。


「あら、本当だわ。もうこんな時間。ごめんなさいね。お話に付き合わせてしまって」

「いえ、そんなことは。とても有意義でした」


 ナーシャはフレイシアに微笑みを返したあとデルフに視線を向ける。


「ところで、デルフって今日非番なの? デートなんかしちゃって。まさか、サボったなんてことは……」


 ナーシャの目がギラリと鋭くなりデルフを視線で刺す。


 デルフはなんて言ったらいいか分からず目を泳がせて苦笑いして固まってしまう。


(冷たい汗が背中に伝うのを感じる。でもどう言えばいいんだ……。フーレの正体は言うわけにはいかないし。……ならもう覚悟してサボりましたと告白するしか、ないな)


 デルフはこれから来る拳を覚悟して口を開こうとするがその前に別の声が遮った。


「そうですね。お姉様には本当のことを言ってもいいでしょう」

「フ、フーレ……」

「構いません」


 デルフは止めようとしたのだがそれをフレイシアは手で制した。


 ナーシャの視線は不思議そうにデルフからフレイシアに移った。


 フレイシアは編んで首元までしか届いてなかった髪をほどき背中まで白い髪が垂れていく。


 それだけでもナーシャは驚いていたがなにより急激に変化したのはその纏っていた雰囲気だ。


 お淑やかさや気品、その他諸々が滲み出て同姓であるナーシャをもほっと見惚れさせるほどだった。


「デルフはサボっていません。今もお務めの最中です」


 ナーシャは何も言えず口をパクパクさせている。


 そして一回深呼吸して口を開く。


「ま、ままままさか!?」


 深呼吸は意味をなさず動揺が全く隠れていない。


 フレイシアはにっこりと笑い答える。


「はい。私の名前はフレイシアと言います」

「お、おおおおお王女様ぁぁぁーーーー!?」


 驚きに満ちたナーシャの奇声を浴びてもフレイシアは笑顔を欠かさない。


「し、失礼ひましは……コホン、失礼しまひた!!」


 ナーシャはすぐさま頭を下げようとするが慌ててフレイシアは止めにかかる。


「そんなかしこまらないで結構ですよ。今まで通りに接してください。お姉様」


 最後の「お姉様」と呼ぶ声はフレイシアの口調ではなくフーレの口調だ。


「は、はぁ……」


 ナーシャは未だフーレがフレイシアだと呑み込めておらず戸惑ってそう零すだけだった。


「では、そろそろ時間ですのでお暇させていただきます。デルフ」

「ハッ! じゃ、じゃあ姉さん。また、ハハハ」


 ナーシャは「なんで言ってくれなかったの!?」と言っているような視線を送ってきていたがデルフには笑って誤魔化す。


 フレイシアはぺこりと頭を下げて扉の前に立ったところで急に動きを止めた。

 片手で頭を触り後からもう片方の手でも触り撫でている。


「デルフ。どうしましょう。変装が解けてしまいました」


 困った顔をするフレイシア。


(自分で解いたのでしょうに……)


 デルフは何とか考えようとする。

 幸い外は暗く人通りもそんなにないと思うので大丈夫だと考える。


「くすっ」


 そのとき後ろから漏れたような笑い声が聞こえてきた。


「こっちに来て、フーレ。いや、フレイシア」


 ナーシャのその言葉には敬語なんてなくフーレと接するのときと同じ態度だった。


 フレイシアも驚いたようにナーシャの顔を見ていたが満面の笑みに変わってとことことナーシャのところまで小走りで向かう。


 フレイシアは椅子に座りナーシャがその純白の髪を編んでいる。


「難しいことを考えるのは止めにしたわ。あなたはあなただもの。私の可愛い妹よ」

「お姉様……」


 フレイシアはうるっと瞳を潤わせる。


 デルフは気が付いた。

 フレイシアはこのように気兼ねなく接してくれる人を求めていたのだと。


 しかし、デルフはそれを気が付いたとしてもそうすることはできない。


(俺はフレイシア様の騎士であるのだから。その役割は表と裏を知った姉さんに任せるしかないな)


 次々とフレイシアがフーレにへと変わっていく。


「はい。これでおしまい」


 そして、フレイシアはフーレにへと変わった。


 よくも再現できたものだとデルフは感心しているともじもじしているフレイシアがナーシャを見詰めている。


「お姉様? また来てもいいですか?」

「もちろんよ!! あなたの家だと思っていつでもいらっしゃい」


 ナーシャはにっこりと微笑んでそう答えた。




 帰り道。


 静まり返った大通りを歩いているとまだ一つだけ開いていた店があった。


 フレイシアは走ってその場に立ち寄り覗いていた。


 デルフもフレイシアの隣に立って覗いてみるとどうやら小物が売っている店らしい。


 髪飾りや櫛、その他にも綺麗な指輪やネックレスにペンダントなど金属でできたものなどが複数あった。


 フレイシアはその中で一つのペンダントをしきりに眺めていた。


 小さな鎖に繋がれた先には縦に長い楕円形の容器がありそこに大きい白い宝石がすっぽりと嵌まっているペンダントだ。


「それを気に入り……ったのか?」

「はい」


 うっとりとしながら見惚れているフレイシアは心ここにあらずといった感じで漏らすように言った。


「店主、これを」

「毎度~~!!」


 驚いたようにフレイシアはデルフの顔を見たがこう言うしかない。


「今更です」


 心の中では家に帰ったついでに財布にお金入れ直しておいてよかったと安堵した。


「ふふふ」


 店から離れて帰り道に戻ったフレイシアは嬉しそうに買ったペンダントを眺めている。


 ふいにその身を翻しデルフの前に立った。

 そして、抱きつくように腕を回す。


 何事かとデルフは焦ったがその手はすぐにほどけた。


 だが、首が何かおもりがのしかかったように少しだけ重い。


 見てみると先程フレイシアに買ってあげたペンダントがデルフの首に巻かれていた。


「やはり思った通りです。似合ってますよ♪」

「これを俺に?」

「はい。プレゼントです!」


 満面の笑みで答えるフレイシア。


(俺が買ったのだが……まぁ嬉しそうだからいいか)


 その笑顔を見たデルフは素直に嬉しい気持ちになる。


「ありがとうございます」


 フレイシアはにっこりと笑い、気品さを漂わせた声でこう言う。


「これからも頼みますよ」


 デルフはゆっくりと頭を下げた。

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