第65話 フェイの才能

 後日、俺はクレアさんに頼み込んで屋敷の隣の広場を訓練場として使わせてもらうことにした。

 広場の中央付近で俺はフェイに魔法を教える。

 言われた通りに魔法の行使をするフェイ。

 様々な属性の魔法が放たれるたびに、フェイの才能に舌を巻いた。


 九歳でここまで魔法を扱える子なんて見たことがない。才能だけであれば、間違いなく俺よりも上だ。


 天才の部類に立つフェイだが、それでもやはり経験不足のせいで、たまに魔法をあらぬ方向に発動してしまう。


 生成された氷の弾丸の軌道が大幅にずれたのを見て、俺は言った。


「イメージだけではここらが限界だな」

「……はぁ」


 フェイは息を吐いて、その場に座り込む。


「疲れたか?」

「うん……」

「次は詠唱の段階に移ろうと思うんだが……その前に飯を食うか」


 朝から訓練を始め、今は昼に入った頃だ。

 ここまでぶっ続けで訓練をしていたため、フェイはお疲れのようだった。身を包むワンピースのスカートが汚れるのも気にせず、地面に座っている。


 俺がフェイの手を取って立ち上がらせていると、広場にフィオナがやってきた。


「二人とも、お疲れ様です。お弁当持ってきましたよ」

「ありがとう。さっそく頂こう」


 昼食の間、フェイは無表情でフィオナの作った魚の燻製をもぐもぐと食っていた。

 

「美味いか、フェイ」

「うん」


 表情を変えずにこくりと頷くフェイの姿を見て、フィオナが微笑む。


「こうしていると、私達は家族みたいですね」

「かぞく?」

「そうです。あなたが娘で、リオンと私が親です」

「……そっか」


 フェイは短く呟いて、燻製を咀嚼しながらしばらく黙り込んでいたが、ごくりと口の中のものを飲み込んでから言った。


「ほんとうにそうだったらいいのに」


 フェイは顔を上げて、晴れ渡る青空を眺めた。

 彼女の両親は二年前に死んでいる。賊に殺されたのだとエリーゼから聞いた。


 両親を亡くしたフェイが孤児院に連れられた時、彼女は失意のうちに沈み込んで誰とも会話したがらなかったという。


 俺も両親を亡くしているから、フェイがどれだけ悲しかったのか、少しは理解できる。


「家族か。そうなるのもいいだろうな」

「リオン……いいの?」

「ああ、全然構わないよ。お前は良い子だからな」


 フェイの頭を撫でると、彼女は気持ちよさげに目を細める。

 以前からフェイが養子になってくれたらと考えていた。いつかエリーゼに相談してみようか。


「まあ、今は魔法の訓練だ。まだまだ教えていないことがたくさんある」

「フェイちゃんも大変ですね。私もそろそろセンリさんのもとに戻ります」


 フィオナは今、センリのもとでボウガンの扱い方を習っている。

 守られるだけの女になりたくないフィオナが選んだ選択肢。それは女子供でも扱えて、なお殺傷力もあるボウガンを極めることだった。初めは弓と迷ったが、なんとなくボウガンの方が"かっこいいから"だそうで。女もまたロマンに憧れるものなのだろうか。


「それではリオン、フェイちゃん」


 フィオナが広場を後にする。

 俺とフェイは再び、魔法の訓練を始めるのであった。

 

 

 


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