【第二章】妖刀と魔王
第54話 ムラサメちゃん
俺は頭が真っ白になった。
妖刀? ムラサメが? 人間化?
わけがわからない。どうして目の前に裸の女の子がいるのだろう。
動揺したまま、とりあえず女の子を上からどかして起き上がる。
昨夜、フィオナと交わり合ったあとにそのまま眠ってしまったので、俺は全裸だった。
朝なので男の大事な部分が膨張している。ムラサメと名乗った女の子はニコニコとそれを見ていた。
「わー、マスターのここすごいです!」
「凝視するんじゃない」
俺は布団のそばに脱ぎ散らかしていた服を取って、静かに身に付ける。
フィオナは未だにすやすやと気持ちよさそうに寝ている。都合が良かった。
「おい、ムラサメ。ちょっとお前、こっちにこい」
「どうしたんですかマスター? そんなに慌てて」
「とにかく、お前に服を着させる。話はそれからだ」
「あー、服ですか! ムラサメ、数百年ぶりに顕現したので忘れてました!」
ムラサメは「てへっ」と舌を出して頭にこつんと自分の拳をぶつけた。
そして、その場でくるりと身体を横に一回転させる。
すると全裸の身体を薄い布地が包み込んでいた。
白い薄膜のような服で、腰から下にかけてふんわりとスカート状に広がっている。そのサマードレスのような服の下には何も身につけていないようだった。
「どうです? 似合いますか?」
「ああ、似合う。とても可愛い。でも下着はきちんと身に付けろ」
「あー、下着ですか! ムラサメ、数百年ぶりに顕現したので――」
「それはさっき聞いた。いいからさっさとしろ」
早くしないとフィオナが起きてしまう。
もしフィオナが起きて、目の前に裸みたいな格好の幼女がいたら、きっとびっくりする。そして俺を睨みつける。その視線はいつものじっとりとしたそれとは違い、洒落になってないほうの視線だ。端的に言えば、フィオナがブチ切れた時の視線である。
「下着は何色がいいです? マスターの好きな色を選んでください!」
「なんで俺の好きな色なんだ。お前が勝手に決めろ」
「えー、だってムラサメはマスターのモノなんですよ? 所有者がモノの色を決めるのは当然でしょう?」
「じゃあ、白だ。俺は白色の下着が清純っぽくて好きだ」
「りょうかいでーす!」
またもやムラサメがくるりと一回転する。
下半身に白色の下着がうっすらと透けて見えた。
上半身の下着は……まあ、いいか。膨らみかけのムラサメには必要ないだろう。
俺はムラサメの腰に腕を回して抱き上げる。
持ち上げられてきゃっきゃっと騒ぐムラサメを居間に連れていく。
「昨日置いていたはずの妖刀が……ないだと」
昨夜まで居間のすみに置かれていたはずの妖刀が、鞘ごと消え失せている。
ならばやはり、腕に抱えているこの幼女がムラサメなのか。
「おい、ムラサメ。お前なんで人間化した?」
「それはですね、マスターとムラサメの愛のパワーです!」
「冗談はやめろ、本当のことを言うんだ」
「あながち冗談でもないのですよ? だってマスターとムラサメは一心同体の領域にまで同調しているのです。だからこうやって肉体を得るまでに至っているのですよ?」
「つまり、お前は所有者と相性が良すぎると幼女になるのか」
「そーゆーことです!」
ムラサメを床に下ろしてやれば、彼女は得意げに胸を張った。膨らみかけの乳房が薄い服を押し上げて、ぷっくりとしたピンク色の蕾が透けて見えた。
「そうか……とりあえず、フィオナと相談しなければ」
「マスターの奥さんですよね? 昨日の夜、マスターと激しく性交していた――」
「幼女が性交とか言うな」
拳を軽くつむじに落としてやると、ムラサメは悪ガキの如く舌をぺろりと出した。
寝所に戻って、フィオナの肩を揺らす。
「フィオナ、起きてくれ」
「……ん……朝ですか」
フィオナは瞼を開いて、とろんとした目つきで俺を見る。
ゆっくり上体を起こした全裸の妻に、俺は服を着せてやった。
そして華奢な両肩に手を置いて、しっかりと彼女の碧眼を見つめる。
「いいか、フィオナ。よく聞いてくれ」
「なんですか? そんなに真剣な目をして」
「あの妖刀ムラサメがだな……幼女になった」
「は?」
フィオナはぽかんと口を丸の形に開けて、固まった。
事態が飲み込めていない妻の目の前に、ひょっこりと姿を現したムラサメ。
「フィオナさま! おはようございますです!」
「……どなた?」
「ムラサメは妖刀ムラサメです! 昨夜はマスターとお楽しみでしたね!」
「……む、むらさめ」
ぽつりと呟いたフィオナは、説明を乞い願うように俺へと視線を向けた。
俺はフィオナに、ムラサメと一心同体の領域まで同調していること、それゆえにムラサメが肉体を得てしまった事実を伝える。
「な、なんですかそれ。なんで一心同体にまで同調すると、刀が幼女になるんですか」
「俺もそれは分からん。だけど、この幼女がムラサメであることは間違いないらしい」
「はあ……じゃあ、これからはムラサメと一緒の生活を?」
「まあ、そうなるだろうな。ムラサメを俺と引き離せばどうなるか分からないと昨日クレアさんが言っていたからな」
「突然過ぎて、心の準備ができていません」
「それは俺もだ」
俺とフィオナは二人揃って、深く溜息を吐き出した。
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