第34話 破壊魔
避難所でマシロとクロエを両親達に合流させた後、俺はクレアさんから村の状況を聞かされていた。
「悪魔どもは東西南北の全てから襲来している。自警団だけでは対処ができん。貴様も動け、魔導剣士よ」
「了解しました。それで、俺はどちらに行けばいいんですか?」
「自警団の数が足りていないのは東だ。だが、村の中に侵入している悪魔は見つけ次第全て殺せ」
クレアさんの指示に頷いた俺は、避難所を出て東へ走った。
村人達はおおかた避難を終えているようだ。すっかり人気のなくなった道を突き進み、剣と鉤爪の激突する戦乱に飛び込んだ。
俺の接近に気付いた悪魔の数体が、鉤爪をギチギチと鳴らして飛びかかってくる。
長剣を振り払い、一匹の悪魔を両断。残る悪魔を氷の足枷で動けなくさせ、もがいている隙に首を刎ねる。
戦力が少ないとはいえ、訓練されている自警団のメンバーだ。
下級悪魔如きに遅れを取るはずがなく、俺以外の戦士達も次々に悪魔を仕留めていく。
村の中に侵入を果たそうとする悪魔を防ぎ続ける俺達は、違和感に気付いていた。
「なあ、魔導剣士よ。こいつらおかしくねぇか」
そばで悪魔を斬り払った屈強な剣士にそう言われ、俺は頷いた。
依然として襲いかかってくるのは下級悪魔のみで、それらは大した脅威にならない。
現にこちらの負傷者の数は極めて少なかった。
「数だけは多いくせに、一斉に襲いかかってこない。まるで現状を様子見しているみたいだ」
「だな。何が目的かは知らんが――俺達は村を守るために配備された自警団。そう安々と突破させるわけにはいかねぇな」
剣士はそう言って、勇敢に悪魔の群れへと突っ込んでいく。
俺もまた彼の後に続こうとした――その瞬間。
首裏を撫でられるような怖気を感じて、俺は弾かれるように上空を見上げた。
「上だッ! 避けろォォッ!」
俺の発した警告はわずかに遅く。
拳を振り上げながら、上空から流星の如く地面に突き刺さった悪魔。
振り落とされた拳は月面のクレーターのように地面を陥没させ、周囲にいた自警団達をまとめて薙ぎ払っていた。
さながら隕石のように落下した張本人は、大地に突き刺さった腕を上げて、カカッと嗤う。
「真打ち登場だ、待たせたなァ! クハハハハハハッッ!」
呵々大笑した一体の悪魔は、拳を構え、突撃してくる。
他の下級悪魔よりも一回り大きい体躯を持っているにもかかわらず、その動きは俊敏だった。
上空からの強襲を間一髪で避けた自警団達が剣を構え直すも――。
「遅ぇ、遅ぇ、遅ぇ――ッ!」
繰り出される拳打に打ちのめされていく。
その拳はあまりにも早く、痛烈で、人体を木の葉か何かのように吹き飛ばす。
突如として現れた暴虐の嵐に、誰一人として敵わない。
だがしかし、負けるわけにはいかず。
「うおおおおおお!」
わずかに残った自警団のメンバーが雄叫びを上げ、驚異を討ち払わんと猛襲する。
対し、拳魔はやはり豪快に笑って。
「いいぞ、来いや人間どもッ! 貴様らの持つ煌めく真価を魅せてみろォッ!」
拳を打って打って打って打ちまくる。
ひとたび拳が放たれた瞬間、巻き起こるのは破壊の嵐だ。
人間が吹き飛ぶ。薙ぎ倒される。破壊されていく。
「クソッ!」
俺は手のひらをヤツに向け、詠唱を開始した。
「吹きすさぶ風よ、千の刃となりて敵を斬り刻め――」
直後、黒の巨体を取り囲むようにして発生したのは風の刃。
凝縮された魔力による鎌鼬に斬り裂かれていく悪魔だが。
「しゃらくせェッ!」
悪魔は覇気の込められた声を吐いて、風の刃を一切いとわずに突撃を繰り返す。
その巨体は風の刃によって確かに削られていく。肩が、腕が、胴体が、脚が――その他あらゆる箇所を抉り取られながらも拳の連打をやめない破壊の化身。
その目眩のするような行動に、俺は辟易の言葉を漏らさずにはいられなかった。
「狂ってやがる……正気かこいつッ!」
魔法に込められた魔力は多量で、威力は人体ならば微塵に斬り刻むほどに強力だった。
だがしかし。
それがどうした、とばかりに暴れ回る悪魔を、風の刃は止められない。
一秒一秒ごとに全身を斬り刻まれているというのに、呵々と嗤いながら自警団を殴り倒していく有様は、まるで悪夢を見ているようで。
「もうやめろォォッ!」
俺はとても見ていられず、長剣を振りかざして巨体に特攻した。
「カカッ! ようやく前線に出る気になったかい、魔導剣士の坊主?」
「当たり前だッ! この狂った悪鬼め、俺が今から殺してやるッ!」
「ヤッてみろやァァァッ!」
気合の咆哮を上げて、気狂いの悪魔と交戦を開始する。
距離を詰めた途端に放たれるのは、とてつもないスピードの拳だ。
一撃一撃があまりにも早く、それでいて威力も絶大。直撃すれば人体を余裕で破壊できるほどの暴虐にさらされながら、俺は全力全開で悪鬼と攻防を繰り返す。
「ぐっ、ガァァッ!」
「おいおい、なかなか粘るじゃねぇか。なら、これはどうだ?」
横薙ぎの剣閃を低くしゃがんで避けた悪魔が放ったのは、肩と腹部と脚を狙った三連撃。
それが
「うおおおおッッ!」
腕が捩じ切れんばかりの勢いで剣を振り戻し、反射神経を極限にまで高めた俺は、奇跡的に剣の腹で三連撃を防御した。
「クハハハハハッ! やるじゃねぇか、お前さん! 今の拳で三回は殺せると思っていたんだがなァ!」
「黙れよ、クソ悪魔ッ! 一体なんなんだ、お前はッ!」
「オレかい? 名はディアブロスってんだ。仲間からは“破壊魔”なんてアダ名で呼ばれてる」
「そうかよ、そりゃ愉快なアダ名だな!」
言葉を交わしながらも剣と拳の応酬は止まらない。
というより、止まったら即座に殺される。
相手は間違いなく最上級の実力を持つ悪魔であり、ここで俺が殺されて村の中に侵入されればどれだけの被害が出るか……想像は容易い。
――ならばこそ。
「ここで死ね、破壊魔!」
俺は全力で、目の前の悪鬼羅刹を相手取るのであった。
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