第15話 リオンVS冒険者パーティ
俺は村から少し離れた草原で、元パーティのメンバーと向かい合っていた。
「意外だった。まさかお前がエミィのワガママに付き合ってくれるとはな」
木刀を持ったカイルの言葉に、俺もまた肩慣らしに木刀を振りながら応えた。
「いい加減、付きまとわれるのも面倒だからな。ここで決着を付けさせてもらう」
「でも、いいのか? 俺達に負けたら、パーティに逆戻りなんだぞ?」
「構わない。また村を離れるのは心苦しいが、約束は約束。負けた時は大人しくパーティに戻る」
いまこの場にいるのは、俺と冒険者パーティの三人、そして審判を務めてくれるセンリと、応援役として駆けつけてくれたフィオナとユーノだ。
「頑張ってくださいね、あなたー!」
フィオナが手を振りながら声援を送ってくれる。
ユーノはフィオナの隣で丸まって寝ていた。応援してくれるんじゃなかったのか。
「それで、どんな形で模擬戦をするんだ?」
カイルの問いに、エミィがウサギのようにぴょんぴょん飛び跳ねながら言った。
「わたし達三人でリオンくんをぼっこぼこ――と言いたいところだけど」
「勝負のルールは俺が決めさせてもらった」
俺はエミィの言葉を継いで、ルールを説明する。
「まず基本として、一対一で戦う。さすがにお前ら三人に同時に襲いかかられると勝負にならないからな」
「ふむ、妥当だな」
「俺がお前らと一人ずつ対戦していく。膝をついたほうが負けだ。そして、一度でも俺が勝ったらその時点で俺の勝利だ」
「分かった。それでいこう。セシリアもこのルールで構わないな?」
「ええ、いいわよ」
異論はないようで、素直に頷いたセシリア。
俺は審判役のセンリに目配せする。
「リオン殿、健闘を祈る」
「ありがとう、センリ。審判役は任せたからな」
「うむ。正当な審判を下そう」
俺の初戦はカイルである。
フィオナとユーノから距離を取った場所で、長身の剣士と相対する。
屈強な肉体を持ったカイルは、その身体能力もまた驚異だが、一番に警戒すべきは長きにわたる訓練によって得た剣技だろう。
カイルは木刀を構え、切っ先を俺に向けた。
「悪いがリオン、模擬戦だからといって手加減はしてやれねぇ」
「ああ、全力で来い。迎え討ってやる」
俺とカイルの視線がぶつかるなか、センリの鋭い声が響いた。
「勝負、始めッ!」
「――はッ!」
その瞬間、カイルが踏み込んでくる。
巨体に似合わない瞬発力でまたたく間に眼前へと突っ込んできたカイルの木刀を打ち返す。
初撃はなんとか防いだ。
しかし、二撃、三撃と繰り返し振られる木刀。
「ぐッ……!」
「どうしたリオン! さっきの威勢の良さはただの虚勢だったか!?」
猛撃を繰り返しながら挑発してくるカイル。
しかし俺は何も返さず、ただ木刀を防ぐのみだった。
振られた木刀を弾き返し、攻勢に出るが。
「はぁッ!」
弾かれた衝撃を逆に利用して、力任せの横薙ぎを放つカイル。
痛烈な一撃をなんとか受け止める。
その瞬間、両腕に走る強烈な痺れ。
カイルの攻撃は続く。
次に放たれたのは両肩と脚を狙う三連撃。
一撃目、防ぐ。
二撃目、弾いた。
刹那、これまでとは次元の違う速度の三撃目が振り抜かれ。
俺は瞬時に左脚へと魔法障壁を張る。
カイルの木刀が障壁に衝突する。
「おらッ!」
膂力の込められた一撃に、魔法障壁は砕け散った。
そのまま木刀で脚を撃ち抜かれ、俺はたまらずその場に膝をついた。
「勝負、終わりッ! 勝者、カイル!」
センリの声が響き、俺は額の汗を拭って立ち上がった。
カイルは納得いかないといった、微妙な表情で俺を見つめる。
「リオン、どうした? やけに歯ごたえがなかったが……いつものお前なら、もっと粘れたはずだ」
「そうか? 俺の実力なんてこんなものだぞ」
「いいや、違う……ああ、そうか」
カイルは違和感の正体に気づいたのだろう。
ははっと快活に笑って、俺の肩に手を置いた。
そして俺以外の誰にも聴こえない小さな声で呟く。
「お前、相変わらず策士だな」
「なにせ俺は弱いんでね。策を弄さないといけないんだ」
「なに言ってやがる、お前が弱いわけないだろ」
カイルはそう言って、セシリアのほうを向いた。
「次はお前の番だ、セシリア」
「はいはい、分かったわよ」
セシリアは若干面倒そうに眉をしかめて、俺の前に立つ。
そして先程のカイルと同じような台詞を吐いた。
「言っとくけど、あたしも手加減しないわよ、リオン」
「ああ、全力で来てくれ」
「ねえ、リオン。なにか企んでるでしょ?」
「それはどうかな。さあ、構えろよ、セシリア」
やれやれと首を横に振ったセシリアは、両腕を大きく開いて手のひらを真上に向ける、魔導士特有の構えを取った。
「勝負、始めッ!」
センリの合図が響き渡った瞬間、俺は大地を蹴った。
一つ瞬きするうちに距離を詰めた俺は、セシリアの肩に向けて木刀の一撃を放つ。
「甘いわよ」
だがセシリアは俺の行動を見切っていた。
彼女の華奢な全身を覆う、半透明の魔法障壁。
「悪いけど、あたしはあんたのようにいちいち局所的な障壁なんて張らない」
「そうだな。お前には身体の全体を防ぐだけの魔力がある」
俺は手のひらに意識を集中させ、得物の刀身に指を滑らせる。
魔力が木刀に宿った。
「――だが、全身を覆う障壁は、一箇所を集中的に斬れば容易に破壊できる」
俺は木刀の三連撃を、セシリアを覆っている魔法障壁の一部に叩き込んだ。
卵にひびが入る用に、魔法障壁の一部から亀裂が走り、それは全体に広がった。
次の瞬間、魔法障壁が微塵に砕け散り――。
「だから甘いと言ってるのよ、リオン」
刹那、凝縮した魔力によって創造された光の槍が頭上から降り注いだ。
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