追放された魔導剣士のリスタート

夜見真音

【第一章】魔導剣士リオン

第1話 器用貧乏な魔導剣士は不要

「というわけだ、リオン。今日でお前は俺たちのパーティから抜けてもらう」


 パーティのリーダーであるカイルが、木造りの椅子に腰掛けながら宣言する。

 ここは拠点の一室。

 俺はカイルから呼び出されたと思ったら、突然パーティからの脱退を申し付けられていた。


 彼の言い分はこうだ。


 俺たち冒険者パーティには、前衛で敵を斬り払う剣士のカイル、強力な攻撃魔法が得意な魔導士のセシリア、傷を一瞬で治癒できる回復魔導士のエミィという優秀な人材が揃っている。


 それらに対して、俺は魔導剣士。

 魔導剣士は魔法と剣技を両立させている。


 だが、魔法にはセシリアやエミィに匹敵するほどの力はなく、剣技に関しては幼少時から剣の道を歩んできたカイルには及ばない。


 要するに、魔導剣士は中途半端な器用貧乏なのだ。

 実際、冒険の中で俺が活躍する機会は少なかった。

 ほとんどの敵はカイルやセシリアが圧倒してしまうし、二人が負傷してしまった場合でも、エミィがすぐに回復してくれる。


 戦闘で俺がやったことといえば、水の魔法で敵を足止めしたり、魔導具の閃光弾で目眩ましする程度だ。

 そんな小技を使わなくても、カイルならば一瞬で敵の数体を斬れるし、カイルが斬り損ねた敵はセシリアが消し飛ばしてくれる。


 基本的にいなくてもいい存在なのだ、俺は。


 冒険者パーティの報酬は公平に分配される。

 大した活躍をしない魔導剣士の俺にも、三人と同額の金が分け与えられるのだ。

 これにカイルは不満を持っていたのだろう。


 常識的に考えて、役に立たない俺をパーティから抜けさせれば、一人分の報酬が残った三人に分配されるわけだ。

 

「俺が言っていることは、賢いお前なら分かるだろう、リオン」

「ああ、分かっている。来るべき時が来たって感じだな」

「その様子だと、パーティのお荷物だという自覚はあったんだな」

「もちろん。少なくとも、俺はあんたやセシリア、そしてエミィと対等になれるような存在じゃない。だからこそ、あんたが言わなくても近々、俺から言い出そうと思っていた」

「パーティから抜けさせてくれ、と?」

「ああ」


 俺は頷いて、椅子から立ち上がった。

 腕を組んだカイルの目を見つめて、軽く頭を下げる。


「今までお世話になった」

「……言っておくが、俺はお前のことを嫌っているわけじゃない。ただ、パーティ全体から考えればお前を脱退させるほうが益になるんだ」

「分かってるよ、カイル」


 それ以上は言わなくてもいい、と差し出した手のひらでカイルを制して、一室を出た。

 部屋の外では、セシリアが壁に背を預けていた。

 どうやらリーダーと俺の話を聴いていたらしい。


「本当に出ていっちゃうのね、リオン」

「ああ、お前にも世話になったな。今までありがとう」

「あたしは別にあんたがどこに行こうがどうでもいいけどさ。エミィが黙っちゃいないわよ? きっとあんたの脱退を撤回しろとカイルに言うはず」

「その時は、お前がエミィを納得させてくれないか?」

「はあ。やっぱりそうなるのね」


 ため息を吐いたセシリアは、ポニーテールに結われた白き長髪をなびかせて、俺に背を向ける。

 そして手を上げて、軽く振った。


「決まったんなら、さっさと荷造りして出ていきなさいよね」


 俺は自室で荷造りを終えてから外に出て、拠点である大きな建造物を眺めた。

 しばし未練がましく拠点を見上げていたが、買い出しに出掛けているエミィが帰ってこないうちに、その場を去る。


 見慣れた街を出る頃には、俺は故郷の村に帰ろうと決断していた。

 他の冒険者パーティに入れてもらうことも視野にあったが、どうせそこでも大した活躍はできないだろう。魔導剣士とは基本的に不遇なのだ。


「おじさん、馬車に乗せてもらっていいですか」


 市壁前で停まっていた馬車の御者に頼んで、故郷のセロル村へと乗せてもらう。

 ガタガタと揺れる馬車の中で俺は、今までの出来事を思い出していた。


 約五年前、俺は魔王討伐のために結成される勇者パーティの一員を目指して、セロル村を出た。

 そして運良く勇者パーティに加入できた。

 だがしかし、俺がパーティで研鑽を積んでいるうちに魔王が倒されてしまったのだ。


 魔王が倒された後の時勢は駆け巡るように変わっていった。

 大陸各地で複数結成されていた勇者パーティは冒険者パーティという呼称になり。

 魔王にトドメを刺した女勇者の名は瞬く間に大陸中へと広がった。


 その勇者の名は――アイネ・ユーティア。

 

 彼女は他ならぬ、セロル村出身の英雄である。


「まさか俺の故郷に住んでいたあの人が、世界を救った英雄になるなんてな」


 俺は彼女と多少の面識はあった。

 別段仲が良かったわけじゃないが、彼女が英雄になった事実は素直に称賛している。


 そういえば、幼馴染のあいつらは元気にしているかな。

 今でもはっきりと思い出せる二人の顔を脳内に浮かべていると、自然に頬が緩んだ。

 二人とも、昔はやんちゃな女の子だったが、今はどんなレディに育っているだろうか。


「あいつらに会うのが楽しみだ」


 馬車に揺られながら、静かに呟いた。




・あとがき


作品を開いてくださりありがとうございます。

数奇な運命に巻き込まれた魔導剣士の物語。長い話になると思いますが、読んでいただけると嬉しいです。

また、面白いと思ったら☆評価して下さるとモチベに繋がりますので、よろしくお願いします。

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