第301話 絶望の光景

「グルオオオオッ!」


 真紅の翼で風を切り、アグニスはグングンと高度をあげる。シャルロット、ナターシャ、シャルル、ヘンリー、ヴィクトリア女王、ヴィエーラ、ゴーヴァン、そしてオリヴィアとベッポ、九人もの大所帯を乗せて。


「いいぞアグニス、このまま一気に脱出だ!」


「グルルルンッ!」


 遡ること数分前、捕らわれていた三人を救出し、ヨグソードを取り返した直後のこと。脱出するのみとなった矢先、アグニスが飛んで現れたのである。

 空を飛べるアグニスは、脱出するにあたって渡りに船。といった経緯からアグニスに乗って、ヴァンナドゥルガからの脱出を試みているのだ。


「ところでベッポ、ここは屋内か坑内か……いずれにせよアグニスの大きさでは入ってこられないはずです。一体どのような方法で、ここまで助けにきてくれたのでしょう?」


「いやいや、先に俺から質問させてくれ。あのなお前達……五時間以上も何やってたんだよ、死ぬほど心配したんだぞ!」


「私は何がなんだか……えっと、ここは一体どこなのでしょう? あっ、そういえばリィアンさんは?」


「はいそこまで、少し冷静になりましょう」


 次から次へと質問は尽きない、そんな質問合戦を見かねて、ヴィクトリア女王は待ったをかける。


「色々と聞きたいわよね、でも今は時間が限られているわ。だから質問を絞るわよ、まずは今の状況を確認させて」


「だったら俺とオリヴィアだ、アグニスに乗って外の状況を見てたからな」


 非常時こそ状況確認は重要である、ヴィクトリア女王の判断は的確だ。

 その上で状況を把握しているのは、ヴァンナドゥルガの外にいたオリヴィアとベッポ、加えて二匹の魔物のみ。


「では……どこから話しましょう」


「ニャアニャア!」


「はい、そうですねカーミラちゃん。まず時刻は日没直後、場所は王都ロームルス北方の平野です。外では数時間前から、大規模な戦闘が続いています」


「グルルッ、グルルッ?」


「そうだなアグニス、あれは間違いなくガレウス邪教団だった。数えきれないほどの魔物、吸血鬼、それに悪魔だ。もう片方はロムルス王国、アルテミア正教国、南ディナール王国の連合軍だな」


「グルルルッ!」


 なぜかカーミラとアグニスも一緒に、状況を説明してくれているよう。だが「ニャア」と「グルルッ」では人間に伝わらない、と思いきやなぜかオリヴィアとベッポには伝わっている。

 それにしてもカーミラは、一体どこに潜んでいたのやら。


「そう……なんとなく状況は分かったわ、ちなみに戦況はどうだったかしら?」


「最初こそ優勢でした、でも四本腕の怪物が現れてからは押され気味です。アンナマリア様と互角に戦う、恐ろしく手強い怪物です」


「ニャニャンッ」


「この魔物、山みたいな大きさだったろ? 表面は硬い岩石に覆われてるんだ、それを剣の一振りでザックリだぜ。切り口は谷みたいだった、アグニスの大きさでも余裕で入れ……おっ」


「グルオオオオッ!」


「おい見ろ、出口だ!」


 ヴァンナドゥルガの胴体は、アンナマリアとガレウスの激突、その余波によって大きく切り裂かれている。

 外郭から最深部、ガレウス邪教団の本拠地まで達する巨大な裂け目。その裂け目からアグニスは侵入し、救出に駆けつけたのだ。そして今まさにスルスルと、裂け目を抜けて大空へと飛び出す。


「やりましたわ、ついに脱出……えっ」


 目に飛び込んできた光景は、あまりにも衝撃的なものだった。

 地上を埋め尽くす魔物の群れ、吸血鬼、悪魔の大軍勢。空を支配する六羽の怪鳥は、アンデットと化し蘇った兇鳥ギュエ―ルだ。アブドゥーラは未だ健在、対する陸上艦ロイヤルエリッサは半壊している。


「こ……んな……」


「グルオオオッ!?」


「おおっ、どうしたアグニ──うわあっ!?」


 絶望の光景を目にした直後、どういうわけかアグニスは姿勢を崩す。

 そのまま地上へ真っ逆さまに──。

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