第291話 役者は揃った
苛烈を極めるガレウス邪教団との戦い、中でもエリザベスとヴァンナドゥルガは一際激しい戦いを繰り広げていた。
アンデットと化し蘇ったヴァンナドゥルガは、桁違いの凶暴性で何もかもを破壊し尽くす。対するエリザベスは極限の集中状態へ突入、ヴァンナドゥルガを相手に一歩たりとも引かず立ち回り──。
「ハッハッハッ、今度こそ一刀両断だ!」
「ゴオオオッ!?」
なんとヴァンナドゥルガの極太かつ硬質な脚をバッサリと両断したのである。それほど今のエリザベスは研ぎ澄まされた状態にあるのだ、それにしても人間業ではない。
「たった一人でヴァンナドゥルガと渡りあうなんて、信じられないわね……」
「おや、どこを見ているのです?」
「よそ見なんて余裕あるじゃない!」
一方スカーレットとカイウスは、息もつかせぬ連続攻撃でザナロワを抑え込んでいた。
しかしザナロワは全身を水に変化させることで、あらゆる物理攻撃を無効化してしまう。当然ながら斬撃も効かないため、抑えることは出来ても倒すことは出来ない。
「まだ分からないのかしら、私に斬撃は通用しないのよ」
「確かに斬撃は通用しない、でも無意味じゃないわ。なぜなら私達の目的は、エリザベス様の邪魔をさせないことだから!」
「水へと変化している間、明らかに動きが鈍っています。さらには魔法を使えなくなる様子、私達にとっては十分な効果ですよ」
「……ちっ」
カイウスの見立て通り、ザナロワは水に変化している間、身体能力低下と魔法使用不可という大きな制限を受けていた。物理攻撃を無効化する利点はあれど、決して万能な能力というわけではないのだ。
とはいえ斬撃が通用しないことも事実、結果として戦いは膠着状態に突入する、とそこへ──。
「わわわっ、危ないっすー!」
やたらと豪華な馬車が一台、猛烈な勢いで乱入してきたではないか。不思議なことに馬は見当たらず、荷台部分のみでゴロゴロと走り回っている。
どうも前後不覚に陥っているらしく、ヴァンナドゥルガと正面衝突して横転。ようやく停止したものの、すっかりボロボロで大破寸前である。
「おえぇ……やらかしたっす、まあでも到着っす……」
「「「アルテミア様!?」」」
横転した馬車から這い出てくる、フラフラでヨロヨロのアンナマリア。上は袖なし、下は七分丈のダボっとした礼服に身を包み、小さな片手剣を腰に差している。普段の祭服と異なる、戦闘特化の動きやすそうな装いだ。
「ふぅ……お待たせっすエリザベスちゃん、さあ一緒に戦うっす!」
「それは心強……いや色々と待ってくれ、この馬車は一体?」
「これは教主専用の馬車っすよ!」
「ああいや、それは分かっているのだが……ちなみに馬は?」
「こんな危ない所へ馬達を連れてきたくないっす、というわけで魔法で強引に動かしてみたっすよ。でもちょっと暴走しちゃって……てへっす」
「ならば最初から馬車を使わなければよかったのでは……」
「むむっ、エリザベスちゃんは分かってないっす! 颯爽と馬車で現れる私、最高にカッコいいじゃないっすか!」
どうやらアンナマリアは登場に拘るあまり、馬車を暴走させてしまったらしい。
激戦の最中だというのに、相変わらず緊張感のない勇者様である。だが見方を変えれば、実力に裏づけられた余裕の態度とも見てとれよう。
「何事かと思えば教主アルテミア、まったく派手な登場だこと……」
「おや、確か南ディナール王国で戦った魔人っすね?」
「覚えててくれたのね、それにしても遅い登場だわ」
「むむっ、本当は最初からバシバシ戦うつもりでいたっすよ! でも剣を忘れちゃって……それで貸してもらおうと思ったっすけど、どの剣も私には大きすぎたっす!」
「「「そんな理由で遅刻!?」」」
「子供用の剣も用意しててほしいっす、ぷんっ!」
確かにアンナマリアの体格では、普通の剣でも大きすぎて使い辛いだろう。それにしても間の抜けた遅刻理由だ、重ね重ね緊張感のない勇者様である。
「まあまあ、細かいことは気にしないっす」
「ん……そうだな、なんにせよ頼もしい!」
「さあ、役者は揃ったっす! ガレウス邪教団を滅ぼすっすよ!」
ともあれアンナマリアの参戦により、再び戦局は覆るかと思われた矢先──。
「役者は揃った? ふむ、余を忘れているのではないか?」
「「「「!?」」」」
その声は何より薄気味悪く、その気配は何よりも禍々しい。神を名乗る邪悪の権化が、ついに戦場へと降り立つ。
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