第288話 二度目
エリザベス率いる六名の聖騎士は、大胆にも敵陣を中央突破。襲いくる魔物を悉く退け、勢いそのままにヴァンナドゥルガを強襲する。
「先手必勝!!」
先陣を切ったのはスカーレットだ、瞬きの間にヴァンナドゥルガへ飛びつき、剣を突き立て一気に登攀。目にも止まらぬ剣捌きで、嵐のような斬撃を浴びせる。
しかしヴァンナドゥルガは体表を分厚い岩石で覆っている。極めて堅固な岩の鎧で、あらゆる攻撃を防いでしまうのだ。
「くっ……硬すぎる、私の剣じゃ貫けない!」
「ならば私の出番です、せいっ! せいっ! せえええいっ!!」
技の貫通力においてカイウスの右に出る者はいない。息もつかせぬ乱れ突きで、岩の鎧を見事に打ち貫く。
とはいえヴァンナドゥルガからすれば、小さく穴を開けられた程度でしかない。とてもではないが致命傷には至っていない。
「ゴオオッ、ゴォアアアアッ!」
「「──っ!?」」
チクリと刺されて興奮したのか、ヴァンナドゥルガは激しく頭部を振り乱す。
凄まじい衝撃と風圧で、スカーレットとカイウスは呆気なく吹き飛ばされてしまう。
「痛たたっ、やっぱり手強い……っ」
「さて困りました、どう倒したものでしょう……」
「問題ない、私に任せろ!」
どうやら先の攻防から、エリザベスは勝ち筋を見出したらしい。大剣を収めて身を屈める、明らかな突撃の構えだ。
「敵の懐に潜り込む、援護は任せたぞ!」
「「承知っ!」」
「ゴオオッ? ゴオオッ!」
エリザベスの突撃を援護するべく、スカーレットとカイウスはヴァンナドゥルガを左右から挟撃。やはり致命傷は与えられない、だが今回は致命傷を与える必要はない。なぜなら二人の役目は陽動、ヴァンナドゥルガの注意を引ければそれでよいのだ。
その間にガーランド、パルチヴァール、トーレスは縦一列に構え、トーレスを先頭にヴァンナドゥルガへと攻めかかる。
「ぬぅおおおお──ぐほっ!?」
「ゴゥオオオオ──ゴオォ!?」
トーレス渾身の一撃は小細工なしの体当たり、圧倒的巨体に怯むことなく真正面からぶちかましだ。流石に弾き飛ばされたものの、なんとヴァンナドゥルガの巨体を揺らがすことに成功。
「見事ですトーレス、せぃやあああっ!」
体勢を崩したヴァンナドゥルガを、パルチヴァールは間髪入れずに追撃。うねる蛇腹剣を巧みに操り、左右の眼球を深々と切りつける。
思わぬ損傷にヴァンナドゥルガは堪らず後退り、その隙をガーランドは待っていた。弧を描くように大剣を振るい、無防備となった顎を下から叩き割る。
「ふんっ! 所詮は獣、俺達の敵ではない!」
「ゴォオアアア……ッ」
「よし、上出来だ!」
エリザベスは疾風の如く、叩き割られた顎の下へと潜り込む。目指すは露わになった喉元、岩石に覆われていない唯一の部位だ。駆けながら大剣を抜き放ち、頸部に向かって渾身の一振り。
「さらば兇獣、一刀両断!」
「ゴオオオッ、ゴホッ……!?」
信じ難いことにエリザベスは、極太の頸部を中ほどまで切り裂いたのである。
兇獣ヴァンナドゥルガといえども、頸部を裂かれた状態では生きていられない。ドバドバと大量の血を噴き出し、ついにはその場に崩れ落ちる。
「ふぅ……ハッハッハッ! 兇獣ヴァンナドゥルガ、討ち取ったぞ!」
「やった、やりましたねエリザベス様!」
「ああ、お前達の援護も見事だった! しかしな……」
「おや、何か気になることでも?」
「……一刀両断は失敗か、残念だ」
「「「「「残念!?」」」」」
どうやらエリザベスは本気でヴァンナドゥルガを一刀両断するつもりだったらしい。不服そうに顔をしかめている、まったく欲張りで豪快なお姫様だ。
「まあいい、ともかく私達の勝利だ! これより内部へ侵入する、邪神や魔人との会敵を想定して動け!」
勢いを落とすことなく、一気にヴァンナドゥルガの内部へ。このまま攻め落として完全勝利か、と思われたその時──。
──ズズンッ──。
──駆け抜ける禍々しい衝撃、それは二度目となる時空間魔法発動の知らせ。
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