第287話 先制攻撃

 ロムルス王国北方の平野にて、両軍ついに衝突する。

 押し寄せる魔物の大津波、対するはクリスティーナとエリザベスだ。片や漆黒の杖を構え、片や輝く大剣を抜き放ち、真っ向から迎え撃つ。


「第七階梯……、翠撃魔法、シュトラミネールシュトルム……!」


「さらに必殺の! 姉妹合体、魔法剣!!」


 天災と見まごう巨大旋風、にエリザベスは自ら飛び込む。グルグルと気流に揉まれながらも、体勢を整え大剣を一振り。巨大旋風を斬撃に乗せ、直線上の魔物を悉く葬り去る。


「やはり姉妹合体は最強だな!」


「ふぅ……それじゃあ私は……後方で休む……、後はエリザベス……頼んだわね……」


「敵本陣までの道は開けた! 狙いは短期決戦だ、一気に攻め落とせ!」


「「「「「オオオオォッ!!」」」」」


 二人を最前線に配置した理由は、大規模先制攻撃を仕掛けるため。

 時刻は既に正午過ぎ、つまり数時間後には日没だ。暗中での戦闘となれば、吸血鬼や悪魔を擁するガレウス邪教団が有利である。加えてガレウス邪教団の魔物はアンデットと化している、持久戦においてもガレウス邪教団有利なのだ。

 故に狙いは先制攻撃からの短期決戦、ところがそう簡単に事は運ばない。


「「「「「グルオオオォ!!」」」」」


 地上の魔物は壊滅状態だが、上空の魔物はピンピンしているのだ。広く展開し各所で編隊を組みつつある、制空権を握った後に地上を攻める算段なのだろう。

 狙いは立体戦による制圧、しかしこちらもそう簡単に事は運ばない。


「撃てぇ!!」


 野戦砲による一斉砲撃、しかも砲弾は魔法を付与された特別製だ。直撃せずとも爆散し、周囲に大規模な破壊をもたらす。そこへ巨大陸上戦艦からの艦砲射撃も加わり、爆炎と衝撃波の障壁を形成する。巻き込まれた魔物は生き残るどころか、原型を留めることすら難しいだろう。


「南ディナール王国の誇る決戦兵器“陸上艦ロイヤルエリッサ”の力を見よ! 主砲発射準備、残りの魔物も消し飛ばせ!」


 陸上戦艦の艦橋では、騎士ハミルカルが誇らし気に指揮を飛ばしていた。

 どうやらこの戦艦、陸上艦ロイヤルエリッサという名前らしい。間違いなくフラム王の命名だろう、なんとも親バカ全開である。ともかく陸上艦ロイヤルエリッサの活躍で、上空の魔物は手も足も翼も出せない。

 一方そのころ地上では、壮絶な迫撃戦闘が繰り広げられていた。武装したオークの突撃部隊と、アルテミア正教会の神官騎士団による激突である。


「「「「「ヴォオオオッ!」」」」」


「「「「「ぬうおおおっ!」」」」」


 オークと人間の対格差は数倍にも及ぶ、膂力においても差は大きい。にもかかわらず神官騎士団は、オークの突撃を完璧に食い止めていた。密集陣形を構築し、集団の力でオークに対抗しているのだ。


「ぬあああっ、我らが勇者アルテミア様!」


「「「「「ふんぬぁ!」」」」」


「ぬうううっ、どうか我らに勇猛なる力を!」


「「「「「ふんがぁ!」」」」」


「ぬおおおっ、そして我らに輝かしき勝利を!!」


「「「「「ふんはぁー!!」」」」」


「「「「「ヴォ、ヴオオ……ッ!?」」」」」


 対抗するどころではない、むしろグイグイと押し返している。勇者アルテミアへの、アンナマリアへの信仰心が彼らを何倍にも強くしているのだ。

 上空の敵は南ディナール王国が、地上の敵はアルテミア正教国が、それぞれ見事に迎撃を成功させ──。


「一点突破だ、突き進め!」


 この好機を逃すはずもなく、エリザベス率いる六名の聖騎士は敵本陣へと果敢に切り込む。群がる魔物をバッサバッサと切り捨て、瞬く間にヴァンナドゥルガの麓へ到達。


「ゴオォ、ゴオオオオッ!」


「ハッハッハッ、相手にとって不足なし! 総員散開、ヴァンナドゥルガを討ち取るぞ!」


「「「「「オオオッ!!」」」」」


 そして激突する聖騎士と兇獣、戦いは一層激しさを増す。

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