第276話 内紛
果てのない闇の眺望、明滅する魔法陣、禍々しく聳える祭壇。何処かの地底に存在する巨大施設、ここはガレウス邪教団の本拠地である。
「……なるほど、ウルリカは魔界へと戻るのか」
「ロームルス学園は卒業式後、しばらく休暇となるようです。その間に魔界へ戻るとのこと、確かな情報でございます」
虚無感漂うがらんどうに、低く暗然とした声が響いていた。声の主は邪神ガレウス、そして土の魔人ラドックスだ。
「余の復活にあたり最大の障壁はウルリカだ、魔界へ戻るとなれば千載一遇の好機である」
「しかしながらガレウス様、好機は一時的なものでございます」
「一時的で構わん、その間にヨグソードを手に入れればよい」
どこから情報を入手しているのやら、ラドックスはウルリカ様の情報を正確に把握していた。
精神侵食により他者を操作することで、あらゆる場所への侵入を可能とする。極めて高い諜報能力は、まったくもって恐るべきものである。
「必ずやヨグソードを入手し、ウルリカ不在の間に余の元へ届けよ。これは至上命令である、失敗は許されぬぞ」
「かしこまりました、必ずや成し遂げます!」
ラドックスの言葉を最後に、会話はプツリと途切れてしまう。どうやらガレウスは意識を閉ざし、ラドックスを残して去った模様。
「ヨグソードの奪取……障害はやはり……」
ガレウスの気配は消え去るも、ラドックスは動こうとしない。ひたすらに思考を巡らせ、ヨグソード奪取の算段を立てているのだ。
「アルテミアの存在は厄介ですね、可能な限り事を荒立てずに入手するべき……。警戒されないよう接近し、秘密裏にヨグソードを奪う方法……。ならばやはり私の精神侵食で……ん?」
やにわにラドックスは思考を切りあげ、背後へと鋭い視線を向ける。そこには禍々しい異形の祭壇、その影から小さな顔が覗いていた。
「あっ、えっと……」
「おやおや、リィアンではありませんか」
「ごめんねラドックス、邪魔しちゃったかな?」
「お気になさらず、ところで私に何か用でも?」
「ううん、通りかかっただけ」
リィアンは気まずそうにしながら、そそくさと闇の彼方へ去ろとする。ラドックスの邪魔をしてしまったと、申し訳なく思っているよう。
一方のラドックスは、立ち去ろうとするリィアンを呼び止め、「クフフッ」と不気味に笑いながら手招きする。
「どうしたの……?」
「私の記憶が正しければ、リィアンはロームルス学園の人間と親しくしていましたね?」
「ひぇ、そんな別に!?」
かつてリィアンはウルリカ様と遭遇し、成り行きで下級クラスと友達になってしまった。しかしガレウス邪教団内では、そのことを打ち明けていないのだ。
片や諜報活動に長けたラドックスは、当然のようにリィアンの秘事を把握していた。
そんなこととはつゆ知らず、リィアンは取り繕おうと必死である。
「実は次の作戦で、とある人間に近づきたいのですが……協力してもらえませんかね?」
「リィは向いてないと思うな、だって人間のこと大っ嫌いだから!」
「そうなのですか? リィアンは人間と仲よしだと思っていましたが、私の勘違いでしたかね?」
「そうそうラドックスの勘違い、リィは人間と仲よしじゃないよ!」
「そうですか、クフフッ……」
「ふぅ、それじゃリィは……あっちにいくね!」
誤魔化しきれた雰囲気にリィアンはホッと一安心、しかし──。
「「「「「残念、逃がしませんよ」」」」」
「なっ!?」
思わず気を緩めた瞬間、背後から幾本もの手が伸びてきたのである。
リィアンは慌てて回避するも、逃げ道を塞がれたことに気づく。いつの間にやら無数の人影に、グルリと包囲されていたのだ
一糸乱れぬ挙動から察するに、ラドックスの魔法で操られているのだろう。
「これは……っ」
「「「「「クフフッ……ガレウス様復活のため、強引にでも協力してもらいますよ」」」」」
「くっ……もう怒った、そんなのお断りなんだから!」
ガレウス邪教団内で勃発した、リィアンとラドックスの戦い。果たして勝負の行方は、そしてリィアンの命運は──。
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