第266話 海水浴だ! 女子会だ!
「わーいなのじゃ、海なのじゃ!」
「やっぱり海は最高っすね!」
ガレウス邪教団襲撃から二日経ち、王都デナリウスは日常を取り戻していた。というわけでウルリカ様達は課外授業を再開、海水浴へと訪れているのだ。
「お待ちください、今回こそ日焼け止めを塗っておきましょう」
「平気なのじゃ、もう日焼けなんてしないのじゃ」
「そうっす、一度日焼けすれば耐性がつくっすよ」
一体全体どうなっているのか、ウルリカ様とアンナマリアの日焼け跡は消え去っている。僅か二日という短い間に、すっかり日焼けから回復した模様。
喉元過ぎれば熱さを忘れるというが、まさに二人を指した言葉だ。オリヴィアの忠告を無視して、右へ左へ大はしゃぎである。
「やっほーい、人間界の海だーっ!」
ちびっ子二人に負けず劣らず、ミーアは海に大興奮。長い手足をうんと伸ばし、全身全霊で海を楽しんでいる。
「そんなに喜んでもらえると、ワタクシも嬉しくなりますわ」
「海に連れてきてくれるなんて、嬉しいに決まってるよ。でも一番嬉しかったのは、アタイとの約束を覚えててくれたこと!」
ウルリカ様が魔界へ一時帰省した際、シャルロットとミーアは人間界で遊ぶ約束を交わしていた。その約束を海水浴という形で、果たしているというわけである。
「本当は温泉へ連れていく約束でしたのに、海になっちゃいましたわね」
「気にしないでシャルロット、海だって凄く楽しいから! それに水着まで用意してくれて、もう最高の気分だよ!」
海水浴ということで、もちろんミーアも水着を着ている。燃える炎のように真っ赤な、巨人用に作られた特注の水着だ。
水着から覗く肌は温泉で磨かれた魔界一の美肌、太陽の光を反射してキラキラと輝いている。
「気に入ってくれてよかったわ、町の職人を総動員して用意したのよ!」
「ありがとうエリッサ、とっても気に入った!」
「丈夫に作ってあるから、思い切り遊んでも平気よ」
「うん、それじゃアタイはウルリカ様と遊んでくる!」
「マズいのじゃ、ミーアに捕まると自由に遊べなくなるのじゃ」
「待ってくださいウルリカ様ーっ!」
ミーアはドスドスと足音を響かせ、逃げるウルリカ様を追いかけ回す。巨人の全力疾走である、砂浜はミーアの足跡でボコボコだ。
その様子を見たクリスティーナは、徐に男子達を手招きで呼び寄せる。
「男子……集合して……」
「どうしましたクリスティーナ様、ボク達に何かご用で?」
「あの足跡……整地しておいてね……」
「「「整地!?」」」
クリスティーナの唐突な指令により、男子は炎天下の肉体労働へと駆り出される。特にヘンリーの絶望的な表情ときたら、この世の終わりを目にしたかのよう。
そんな男子の絶望はそっちのけ、ついにミーアはウルリカ様の捕獲に成功する。
「捕まえました、さあ一緒に遊びましょう!」
「ぐええっ、握り潰されるのじゃ……」
「まずは水平線まで泳ぎましょう、いきますよ!」
「誰か助けておくれなのじゃ……」
ミーアは豪快に海へと飛び込み、水平線を目指してザバザバ。片手にはウルリカ様を握り締め、絶対に離そうとしない。そのままミーアは日暮れまで泳ぎ続け、人間界の海を大満喫したのだった。
ちなみにウルリカ様はというと、解放されたころにはグッテリ伸びてしまっていたという。
✡ ✡ ✡ ✡ ✡ ✡
楽しい時間はまだまだ続く、夜は皆で女子会だ。
「待ちに待った女子会だ、アタイ楽しみにしてたんだよ!」
体の大きなミーアのために、デナリウス宮殿の礼拝堂を女子会仕様に大改造。ミーアと一緒にゴロゴロ出来るよう、特大の寝具を設置して準備万端である。
参加者はウルリカ様、アンナマリア、オリヴィア、シャルロット、ナターシャ、エリッサ、そしてミーアの総勢七名、可愛らしい女の子達による女子会の開幕だ。
「ミーアさんの寝間着、とっても可愛いですね!」
「その寝間着も水着と同じように、町の職人を総動員して作ったのよ」
「水着に加えて寝間着まで用意してくれるなんて、アタイ嬉しすぎて泣いちゃいそう!」
ミーアの寝間着は赤と橙を基調とした、燃える炎柄の寝間着である。炎帝の二つ名を持つミーアに相応しい、特大の爆熱寝間着だ。
「ねえエリッサ、この寝間着と昼間の水着って魔界へ持って帰っちゃダメかな?」
「ぜひ持って帰って、魔界でも着てくれると嬉しいわ!」
「やった! ありがとうエリッサ、大切に着るね!」
ミーアとエリッサはすっかり仲よしだ、ゴロゴロ転がりじゃれあっている。体の大きさや種族の違いなど、二人にとっては些細な問題なのである。
一方そのころ──。
「ぐええぇ、ヒリヒリするのじゃ……」
「あううぅ、ヒリヒリするっす……」
「追加の氷をお持ちしました、すぐに冷やしますね」
案の定というべきか、ウルリカ様とアンナマリアは再び日焼け地獄に落ちていた。お世話をするオリヴィアは大変そうだ、女子会を楽しむ余裕はない様子。
「太陽なんて大嫌いなのじゃ……」
「日焼けしたウルリカ様も可愛らしいです、ツンッ」
「うぎゃ!? これミーアよ、何をするのじゃ!」
「可愛らしいウルリカ様を見てると、ついツンツンしたくなっちゃって」
「でしたらワタクシも、ツンツンッ」
「私もツンツンしちゃいまーす!」
「ウルウルの背中をツンツン、幸せだわ……」
「ぬぎゃあ、誰か助けておくれなのじゃー!?」
ウルリカ様の絶叫と女子達の笑い声、とにかく騒がしい女子会は夜遅くまで続いたのであった。
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楽しかった女子会から一夜明け、いよいよ今日でミーアとお別れだ。
魔界へと帰るミーアを見送るため、フラム王やハミルカル、元老院まで大集合。集まった人々を代表して、フラム王はミーアに感謝を述べる。
「魔界の大公ミーア・ラグナクロス殿、南ディナール王国を代表して礼を言う。我が国を救ってくれて本当にありがとう、心から感謝している!」
「お礼なんていいよ、アタイの方こそ楽しい時間をありがとう! 南ディナール王国はステキな国だね、住んでる人間もステキな人達ばかり!」
「そう言ってもらえると嬉しいよ、ぜひまた遊びにきてくれ」
「うん、必ず遊びにくるからね!」
お別れ間際だというのに、寂しい雰囲気は微塵も感じられない。ミーアから溢れる元気と陽気は、周囲の人々を明るく照らしてしまうのだ。
「それではウルリカ様、時空間魔法をお願いします」
「うむぅ……」
明るいミーアとは対照的に、ウルリカ様の周囲はどんよりと薄暗い。どうやら未だ日焼けのヒリヒリに苦しんでいるよう、全身を氷袋で冷やしている。
「太陽なんて滅ぼしてやるのじゃ……」
「日焼けしたウルリカ様は可愛らしいです、魔界の皆にも見せてあげたいです!」
「もう日焼けは勘弁なのじゃ……しかしそうじゃな、また長い休みがあれば魔界に戻ろうかの」
「絶対ですよ、約束ですからね!」
ミーアはピョンと飛び跳ねて大喜び、その衝撃で修復途中だったデナリウス宮殿は再びボロボロと崩壊してしまう。やはり元気いっぱいなミーアに、人間界は狭すぎるようだ。
「ではミーアよ、魔界の皆によろしくなのじゃ!」
「分かりました、ウルリカ様もお元気で! それじゃ皆、バイバーイッ!」
こうして魔界一の元気っ子は、南の国を明るく照らして魔界へ帰ったのであった。
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