第224話 戦い終わってお祭り騒ぎ

 王座争奪戦はウルリカ様の大勝利で幕を閉じ、そして時刻は宵の口。

 戦いの舞台となった城下町外れ一帯は、未だ熱気に包まれていた。


「それにしても素晴らしい戦いだった、ネレイドの気合いと根性は凄まじかったな」


「あの深淵魔法には度肝を抜かれたぜ、リヴァイアサンって凄いんだな!」


「その通り、吾輩達は凄いのだ! ゴハハハッ!」


「「「「「ゴハハハハッ!」」」」」


 集まった魔物達による大盛りあがりのお祭り騒ぎ、なんと敗北したネレイドやリヴァイアサンの大群まで参加している。ちなみに王座争奪戦で負ったケガや火傷は完全に癒えている模様、呆れるほど凄まじい回復力だ。


「あの魔物はウルリカと戦って負けましたわよね、どうして楽しそうにしていますの?」


 敗者も参加してのお祭り騒ぎをシャルロットは不思議そうに眺めている。だがミーアやヴァーミリアにとっては当たり前の光景らしい。


「お祭りなんだから楽しむのは当たり前だよ?」


「そうよぉ、普通のことだと思うわぁ」


「でも戦いに負けていますのよ? ウルリカへの恨みとかはありませんの?」


「ネレイドは魔王の座を欲していただけよぉ、ウルリカ様のことを嫌いなわけではないわぁ」


「そもそも魔界の民は皆、ウルリカ様のこと大好きだからね!」


「大好きなウルリカ様と闘い、終わったら皆で大盛りあがり。お祭り騒ぎまで含めて王座争奪戦ってことねぇ」


 戦う時は全力で戦い、楽しむ時はとことん楽しむ。なんとも魔界らしい明るく豪快な文化である。


「それよりシャルロット、一緒に出店を回ろうよ!」


「あっちの出店はどうかしらぁ、凄くおいしそうよぉ」


「そう……ですわね、お祭りを楽しみますわ!」


 郷に入っては郷に従え、細かいことは考えずお祭りを楽しむことにしたシャルロットなのであった。



 ✡ ✡ ✡ ✡ ✡ ✡



「ウルリカ様の勝利を祝ってーっ!」


「乾杯だーっ!」


 一方そのころゼノン王とゼーファードは、お祭り騒ぎの中心で肩を組み踊り回っていた。

 グビグビと酒を呷りまくるべろんべろんの酔っ払い達。よく見ると揃いの法被を羽織っている、ウルリカ様柄の黒い法被だ。


「やはり祭りは楽しいな! ところでゼーファードよ、この法被は一体なんだ?」


「これはウルリカ様親衛隊の正装ですよ。ウルリカ様の勝利の祝う際は、この法被を羽織る習わしなのです!」


 周囲で踊る魔物達も同じ法被を羽織っている、ウルリカ様親衛隊に属する魔物達なのであろう。それにしてもウルリカ様の人気っぷりは凄まじいものだ。


「その法被はゼノンに差し上げますよ、これで今日からゼノンもウルリカ様親衛隊の一員ですね!」


「そうかそうか……俺も一員? まあいいか、ハッハッハッ!」


「「ハッハッハッ!」」


 細かいことは気にしない、ゲラゲラと笑いながら大いに祭りを盛りあげる酔っ払い達なのであった。



 ✡ ✡ ✡ ✡ ✡ ✡



「おい人間、少し落ちつけ──」


「急いでください、売り切れてしまいます!」


「む……仕方のないやつだ」


 そのころナターシャはというと、ジュウベエの手を引き次々と出店を回っていた。どうやらジュウベエも満更ではなさそう、一体いつの間に仲よくなったのやら。


「あっちのお料理も食べてみたいです!」


「いや待て、流石に食べすぎだろう」


「ダメですか……?」


「う……っ」


 ナターシャの丸い瞳に見つめられ、ジュウベエは思わず言葉を詰まらせてしまう。


「わ、分かった……」


「わあ、ありがとうございます!」


 悪鬼といえども少女の純真な瞳には敵わない、傍から見ると娘に甘々なお父さんのようである。


「さあ、いきましょう!」


「だから落ちつけと言っているだろう」


 鬼であるジュウベエの手をナターシャは遠慮なしに引っ張りまくる、まったくもって恐れ知らずな少女である。

 余談ではあるが後日、ジュウベエに隠し子がいるとまことしやかに囁かれたらしい。



 ✡ ✡ ✡ ✡ ✡ ✡



 同じころウルリカ様とオリヴィアは、ドラルグの背で仲よくクッキーを頬張っていた。


「勝利のお祝いクッキーなのじゃー!」


「たくさん用意しましたから、いっぱい食べてくださいね」


「ザクザクザク……ッ、むぐぐ!? ゴクンッ、ザクザクザク……!」


 ウルリカ様は山盛りのクッキーに顔を埋め、獣のようにガツガツと貪っている。窒息しそうになりながらも顔をあげようとはしない、クッキー大好きにもほどがある。


「ウルリカ様ヲ背ニ乗セラレルトハ感無量ダ……ポリポリ」


 ドラルグの食べているクッキーは、なんとドラゴン用に作られたオリヴィアお手製の巨大クッキー。ついにオリヴィアはドラゴン用のクッキーまで作れるようになったらしい、お菓子作りの技術はどこまで上達するのだろうか。


「ぷはぁ、おいしすぎるのじゃー!」


「ふふっ、顔中クッキー塗れですよ?」


「顔についたクッキーもおいしいのじゃ……ところでリヴィよ、魔界は楽しいかの?」


「はい、とっても楽しいです」


「それは何よりじゃ、連れてきてよかったのじゃ!」


「ふふっ、ありがとうございます」


 ニッコリと微笑みあう魔王と従者、こうして楽しいお祭りの夜は更けていく。

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