第175話 邪教の集い
聖騎士達による一触即発の会議が行われていたころ、とある地下施設では怪しげな集会が開かれていた。
床に描かれた無数の魔法陣、各所に設置された不気味な祭壇、そしてフードを被った多数の参加者。
「「「「「ガレウス様のために……ガレウス様のために……」」」」」
響き渡る怪しい囁きを聞くに、参加者はガレウス邪教団に所属する団員のようである。つまりこの集会は世にも恐ろしい邪教の集いということだ。
「「「「「ガレウス様のために……ガレウス様のために……」」」」」
団員達が注目する中、一際大きな祭壇の前に三体の人影が姿を現す。
「団員達よ、よくぞ集まってくれた」
「「「「「おぉ、アブドゥーラ様……っ」」」」」
「今日はとても嬉しいお知らせがあるわよ」
「「「「「おぉ、ザナロワ様……っ」」」」」
筋肉質な長身の男と派手な化粧をした若い女。学園祭を襲撃した二人組の魔人、アブドゥーラとザナロワである。そしてもう一人──。
「はぁ……」
「「「「「おぉ、リィアン様……っ」」」」」
不機嫌そうにため息をつく、三人目の魔人“リィアン”。一見すると幼い顔立ちの小柄な少女だ、腰まで届く長い髪を頭の左右で可愛らしく括っている。
「リィとっても忙しいんだけど、どうして急に呼び出されたわけ?」
「ガレウス様の復活に関する重大な情報を共有するためだ」
「ふーん、ところでラドックスはどこへいったの?」
「知らないわ、また自分勝手に行動しているんでしょう」
「またぁ? どうしてラドックスだけ好き放題してて許されるわけ?」
「落ちつけリィアン、奴には奴の考えがあるのだ」
「意味分かんないんですけど!」
リィアンは駄々をこねるように床を踏み鳴らす、見た目も仕草も子供のようにしか見えない。しかし紛れもなくガレウス邪教団の最高幹部にして、最上位魔人の一角なのである。
「それで? ガレウス様の復活に関する重大な情報ってなに?」
「ああ、実はな……ガレウス様復活のカギとなる神器、ヨグソードの在り処を掴んだ!」
「「「「「おぉっ!」」」」」
アブドゥーラのもたらした情報に団員達は騒めき立つ、リィアンも目を丸くして驚きを隠せない。
「ホントに!? 何十年も探して見つからなかったのに……一体どこにあったの?」
「ロムルス王国のロームルス学園だ、直接この目で確認したから間違いない」
「で? で? 直接確認したってことは奪ってきたんでしょ?」
「いや、残念ながら奪うことは出来なかった」
「はぁ?」
リィアンはキッと目を尖らせてアブドゥーラへと詰め寄る。
「直接確認したのに奪ってない? どういうことよ!」
「落ちつけリィアン、今から説明を──」
「落ちついてられない──あっ」
興奮するリィアンを、ザナロワは後ろからヒョイと持ちあげてしまう。リィアンは足をバタつかせて抵抗するも、脇の下から抱えられているせいで逃れられない。
「ちょっと! 降ろしてよザナロワ!」
「落ちつきなさいリィアン、今はまだヨグソードを手に入れられないのよ」
「どういうことよ!?」
「ヨグソードの周囲には恐ろしい怪物がいるのよ、私達全員で挑んでも敵わないような怪物よ」
「は? 怪物?」
「私達はガレウス様復活の時に備えて力を蓄えておかなくてはならない、だから慎重に行動しなくてはならなのよ」
「……ぷんっ」
「うおっ!?」
ザナロワの説明にもリィアンは納得していないようだ、床に降ろされるとアブドゥーラの脛を蹴っ飛ばす始末である。
「痛いな……とにかくヨグソードの奪取は俺とザナロワで秘密裏に進める、全団員はしばらく王都ロームルスへの接近を禁ずる!」
「「「「「はっ」」」」」
「それでは解散とする、各自計画の進行に戻れ!」
「「「「「邪神ガレウス様のために!」」」」」
団員達は暗闇の中へと溶け消えていき、地下施設は静寂に包まれる。
「リィだったらヨグソードを奪えるもん……」
「ダメよリィアン、ヨグソードのことは私達に任せておきなさい」
「ヨグソードは俺とザナロワで手に入れる、お前は手を出すなよ!」
そう言うとザナロワとアブドゥーラも暗闇の中へと消えていく、残されたリィアンはこの上なく不服そうだ。
「ふんだっ……」
そしてリィアンもまた、静かに暗闇の中へと溶け消えていくのだった。
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