第151話 教主と国王 その二
深夜。
吸血鬼もすやすや眠りについている時刻。
薄暗いロームルス城の通路を抜け、ゼノン王は執務室へと向かっていた。
「ロアーナ地方で発生した魔物の襲撃は、やはりガレウス邪教団の仕業だったか……」
ゼノン王はゆっくりと歩を進めながら、クリスティーナとエリザベスからの報告内容を反芻する。
「悪魔に吸血鬼……魔物をアンデット化する薬……そして邪神ガレウス復活……、ロクな話は一つもない……」
執務室に到着したゼノン王は「はぁ」と大きくため息をついて扉を開ける、そしてピタリと動きを止める。
「うーん……届かないっすー……」
白銀に輝く幼い少女が、棚に飾られた酒瓶へと手を伸ばしているのだ。しかし如何せん身長が足りない、必死に背伸びをしているが酒瓶は遥か遠くである。
「アンナマリア!?」
「ゼノン君、丁度いいところに! あのお酒を取ってほしいっす!」
ゼノン王は再び「はぁ」とため息をつき、アンナマリアをヒョイと抱えあげる。
「以前も言ったはずだ、子供に酒は飲ませられん」
「少しくらいいいじゃないっすか、むぅーっ」
アンナマリアは不満そうに、ほっぺたをプクッと膨らませる。ずいぶんと可愛らしい仕草ではあるが、残念ながらゼノン王には通用しない。
「それで? 要件はなんだ?」
「それはもちろん、ゼノン君秘蔵のお酒を吟味に──」
「あん?」
「──というのは冗談っす、ガレウス邪教団のことっすよ」
「ああ、なるほど」
アンナマリアをソファに座らせると、ゼノン王も向かい側のソファに腰かける。
「ウルリカから聞いたっす、ロアーナ地方でガレウス邪教団と戦ったらしいっすね?」
「アンデット化した魔物の群れと吸血鬼の大群による襲撃だ。ロアーナ要塞、ロアーナ高原、そしてロアーナの町を同時に襲撃してきた」
アンナマリアは足をパタパタさせながら、静かにゼノン王の話を聞いている。見た目通りの子供っぽい仕草、しかし表情は真剣そのものだ。
「クリスティーナとエリザベスからの報告によると、奴等は謎の薬品を用いて魔物をアンデット化するらしい。やはり目的は邪神ガレウス復活だそうでな、なんとも頭の痛い話だ……」
「そうっすか……」
「それと今回はウルリカから手土産をもらった」
「知ってるっす、ガレウス邪教団の団員を捕まえたらしいっすね?」
「捕まえたというよりは、黒こげの死に損ないを拾ってきたという感じだったな」
「黒こげ……とにかくガレウス邪教団の情報を聞き出せるかもしれないっすね、私も話を聞いてみたいっす!」
「明日の早朝から尋問するつもりだ、アンナマリアも立ち会うか?」
早朝と聞いたアンナマリアは「えぇー」と露骨に嫌そうな態度を示す。
「朝はゆっくり寝てたいっすよ……でも仕方ないっすね、少しでも情報を欲しいっす。それじゃあ今日は早く寝て、明日の朝に備えるっす」
そう言って立ちあがったアンナマリアは、どういうわけかピタリと動きを止めてしまう。
「ところで話は変わるっす……」
「ん? どうしたアンナマリア?」
「どうしてウルリカ達は私を誘ってくれなかったんすかね?」
「なに?」
「課外授業の話っすよ! 私も遊びにいきたかったっす!」
プンプンとほっぺたを膨らませバタバタと地団駄を踏む。先ほどまでの真剣な雰囲気はどこへやら、年相応にずいぶんと可愛らしい。
「仲間外れは寂しいっす!」
「それはまあ……残念だったな……」
「ゼノン君秘蔵のお酒でも飲まないとやってられないっすよ、というわけで──」
「明日に備えて早く寝るのだろう? そもそも子供に酒は飲ませられんぞ?」
「むむぅーっ!」
執務室に響くアンナマリアの悔しそうな声。
こうしてロームルス城の夜は更けていく。
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