第134話 異常事態
戦いから一夜明け、ロアーナ高原は地獄絵図の様相を呈していた。
いたる所に魔物の死体が散乱し、それを狙った肉食の魔物がウロウロとうろついているのだ。巨大なタイラントドラゴンの死体は、広範囲に強烈な死臭を撒き散らす。美しかったロアーナ高原の景色は、死体と死臭で塗り潰されてしまっている。
「それじゃあロアーナ軍のみんな……魔物の死体調査をはじめるわ……」
「「「「「はっ!」」」」」
散乱する魔物の死体を前に、ズラリと並ぶロアーナ軍の兵士達。指揮を執っているのはクリスティーナだ。
「昨日襲ってきた魔物達……とても凶暴だった……、そして異常なほど強かったわ……」
魔物の死体を指差しながら、クリスティーナは兵士達に指示を飛ばす。
「魔物の死体を調べて……異常の原因を発見するのよ……、各班に分かれて調査をお願い……。だけど死体は……危険な病気を持っているかもしれないわ……、誤って血を浴びたりしないよう……慎重に調査をお願いね……」
「「「「「はっ!」」」」」
兵士達は口と鼻を布で覆い、魔物の死体を調べて回る。
その様子を遠巻きに見守るクリスティーナ。そこへゴーヴァンが現れ、クリスティーナの耳元に口を寄せる。
「周辺を調査してきました、怪しい人影は見当たりません……」
「そう……ご苦労だったわね……」
兵士達に聞こえないよう、クリスティーナとゴーヴァンは小さな声で会話を続ける。
「昨夜ロアーナ高原で……怪しい人影が目撃されたらしい……、ガレウス邪教団の者かと思ったけど……」
「すでにロアーナ高原から立ち去ったか、あるいはどこかに潜んでいるのかもしれません……」
「そうね……ゴーヴァンは引き続き、例の人影を捜索して……、私は魔物の死体調査を続けるわ……」
ゴーヴァンは「はっ」と短く返事をし、再び調査に戻ろうとする。その時、兵士達から異常を知らせる声があがる。
「おい見てくれ! 魔物の死体がおかしいぞ!」
「こっちも様子が変だ! 早く死体から離れろ!」
なんと死んでいたはずの魔物から、ブシュブシュと血が噴き出しているのだ。赤黒く濁った体は、どす黒く変色していく。明らかな異常事態である。
「これは……一体なにが起こっているの……!?」
「クリスティーナ様! タイラントドラゴンの死体を見てください!」
「どうしたのゴー……ヴァン……」
クリスティーナが言葉を失うのも無理はない。
真っ二つに切り裂かれていたタイラントドラゴンの死体が、グジュグジュと音を立てながら繋がっていくのである。
「なんだあれは……死体が蘇っていく……」
現実離れした光景を前に、ゴーヴァンも動くことが出来ない。
その間に体を繋ぎ合わせたタイラントドラゴンは、腐った体液を撒き散らしながら、ゆっくりと起きあがる。そして──。
「ジュルルウゥ……」
どす黒く体を染め、蘇ったタイラントドラゴン。
暴虐の竜が、再びクリスティーナ達の前に立ちはだかる。
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