第100話 特別編 ~魔王と大公達の日常~

 ──これはまだウルリカ様が、魔界にいた頃のお話──


 ここは魔王城。

 魔界の中心に建つ、巨大な城である。


 城の中心に位置する広い謁見の間には、六体の強大な魔物が集まっていた。ウルリカ様直属の、魔界を統べる大公達である。


「ゼーファード殿よ、緊急の要件とはなんだ?」


「ボクは研究で忙しいのですよ、急に呼び出されると困ります」


「私だって忙しいのよぉ? 本当に緊急の要件なんでしょうねぇ?」 


 どうやら大公達は、宰相ゼーファードから緊急で呼び出されたらしい。突然の呼び出しをくらって、エミリオやヴァーミリアはイライラと不満を口にしている。


「ふぅ……実はですね……」


 深刻そうな表情を浮かべたゼーファードは、ゆっくりと重い口を開く。


「今朝から……ウルリカ様の元気がありません」


「「「「「ウルリカ様の元気がない!?」」」」」


 ゼーファードの言葉を聞いて、慌てふためく大公達。動揺のあまり溢れ出た魔力は、魔王城をミシミシと軋ませるほどだ。


「ウルリカ様の元気がないだなんて、一大事だよ!」


「ドウイウコトダ! 説明セヨ!!」


「ちょっ……私も事情までは分かっていないのですよ……」


 一斉にゼーファードへと詰め寄る大公達。あまりの勢いと迫力にゼーファードはたじたじである。

 そんな中近くの通路を、偶然ウルリカ様が通りかかる。下を向いてトボトボと歩く姿は、普段のウルリカ様とは別人のようだ。


「大変だわぁ! もの凄くトボトボと歩いてるわよぉ!!」


「落チ込ンデイル! ウルリカ様ハ間違イナク落チ込ンデイルゾ!!」


「なんとかしなくては! これは魔界の滅亡に繋がるかもしれん!!」


「アタイ達の力を結集させて、なんとしてもウルリカ様を元気にしなくちゃ!!」


「ゼーファードさん! 早く事情を聞いてきてください!!」


 元気のなさそうなウルリカ様を見ただけで、大公達は右往左往の大騒ぎである。半狂乱の大公達に急かされて、ゼーファードは意を決してウルリカ様に事情を聞きにいく。


「あの……ウルリカ様……?」


「うむ? みんな揃って、一体どうしたのじゃ?」


「実はですね……元気のなさそうなウルリカ様を心配して集まっているのです。なにか悪いことでもありましたか? 我々で力になれることはありませんか?」


「なんと! それは心配をかけてしまったのじゃ!」


 そう言ってウルリカ様はニコッと明るい笑顔を浮かべる。しかしその笑顔は、どこか陰りのある暗い笑顔だ。


「実はじゃの……楽しみにしていた“魔王城ケーキ”を誰かに食べられてしまったのじゃ……」


「「「「「「魔王城ケーキ?」」」」」」


「魔王城の形をした、特製のケーキだったのじゃ……凄く楽しみにしておったのじゃ……」


 ションボリとするウルリカ様を見て、大公達はとても心配そうだ。そんな中ゼーファードは一人、ダラダラと額から冷汗を流している。ガタガタと体を震わせて、明らかにただ事ではな様子である。


「……ゼーファードさん?」


「ギクリッ……」


「……おや? ゼーファードさんの口元にクリームが……」


「バカな! 口についたクリームは綺麗に拭いたはず……はっ!?」


「なるほどぉ……ウルリカ様のケーキを食べた犯人はゼーファードなのねぇ?」


「ふむ? そうなのかの?」


「いえ……その……っ」


 顔を真っ青に染めたゼーファードは、勢いよくビョンっと空中に飛びあがる。


「申し訳ございませんっ! ウルリカ様のケーキだとは知らなかったのですぅっ!!」


 勢いよく飛びあがったゼーファードは、謝罪の言葉を口にしながら空中でクルクルと回転すると、そのままウルリカ様の足元にビターンッと土下座で着地する。

 なんとも凄まじく勢いの乗った、全身全霊の見事な土下座である。


「食べてしまったのはゼファだったのじゃな!」


 ガタガタと震えながら、ゴンゴンと床に頭を叩きつけるゼーファード。一方のウルリカ様はケロリとした様子で、大して怒ってはいないようだ。

 ホッと一安心したのもつかの間、ゼーファードの背中に凄まじい魔力が圧しかかる。


「ウルリカ様ノ元気ガナイカラト……我々ヲ集メテオイテ……」


「犯人はゼーファードさんだったというわけですか……」


「ウルリカ様の大切なケーキを食べちゃうなんてねぇ……」


「ゼーファード殿……腹を切る覚悟は出来ているのだろうな……?」


 宰相であるゼーファードは、魔界ではウルリカ様に次ぐ実力者だ。しかし大公達の怒りの魔力は、ゼーファードでさえ身の危険を感じるほど凄まじい。


「くうぅ……撤退!」


 土下座の体勢から一瞬で起きあがったゼーファードは、脱兎のごとく謁見の間から飛び出していく。しかし大公達がゼーファードの逃走を許すはずはない。


「逃がすもんか! アタイの神器で消し炭にしてやるんだから!!」


「ゼーファードさんを捕らえます! 第七階梯……牢獄魔法──!」


「我ノ率イルドラゴン軍団デ、地ノ果テマデモ追イ詰メテヤルゾ!!」


 こうして逃走したゼーファードを捕らえるべく、魔王城は大混乱に見舞われるのであった。


 そしてこの数ヶ月後、ウルリカ様の「魔王も真祖も飽きたのじゃ!」という言葉とともに、魔界と人間界は更なる大混乱に見舞われることになる。


 しかしそれは、また別のお話……。



 ✡ ✡ ✡ ✡ ✡ ✡



 セリフの頭にキャラクター名を入れました。

 「誰が喋っているか分からない!」という方は、以下から読んでみてください。



 ✡ ✡ ✡ ✡ ✡ ✡



 ──これはまだウルリカ様が、魔界にいた頃のお話──


 ここは魔王城。

 魔界の中心に建つ、巨大な城である。


 城の中心に位置する広い謁見の間には、六体の強大な魔物が集まっていた。ウルリカ様直属の、魔界を統べる大公達である。


ジュウベエ「ゼーファード殿よ、緊急の要件とはなんだ?」


エミリオ「ボクは研究で忙しいのですよ、急に呼び出されると困ります」


ヴァーミリア「私だって忙しいのよぉ? 本当に緊急の要件なんでしょうねぇ?」 


 どうやら大公達は、宰相ゼーファードから緊急で呼び出されたらしい。突然の呼び出しをくらって、エミリオやヴァーミリアはイライラと不満を口にしている。


ゼーファード「ふぅ……実はですね……」


 深刻そうな表情を浮かべたゼーファードは、ゆっくりと重い口を開く。


ゼーファード「今朝から……ウルリカ様の元気がありません」


ゼーファード以外の大公達「「「「「ウルリカ様の元気がない!?」」」」」


 ゼーファードの言葉を聞いて、慌てふためく大公達。動揺のあまり溢れ出た魔力は、魔王城をミシミシと軋ませるほどだ。


ミーア「ウルリカ様の元気がないだなんて、一大事だよ!」


ドラルグ「ドウイウコトダ! 説明セヨ!!」


ゼーファード「ちょっ……私も事情までは分かっていないのですよ……」


 一斉にゼーファードへと詰め寄る大公達。あまりの勢いと迫力にゼーファードはたじたじである。

 そんな中近くの通路を、偶然ウルリカ様が通りかかる。下を向いてトボトボと歩く姿は、普段のウルリカ様とは別人のようだ。


ヴァーミリア「大変だわぁ! もの凄くトボトボと歩いてるわよぉ!!」


ドラルグ「落チ込ンデイル! ウルリカ様ハ間違イナク落チ込ンデイルゾ!!」


ジュウベエ「なんとかしなくては! これは魔界の滅亡に繋がるかもしれん!!」


ミーア「アタイ達の力を結集させて、なんとしてもウルリカ様を元気にしなくちゃ!!」


エミリオ「ゼーファードさん! 早く事情を聞いてきてください!!」


 元気のなさそうなウルリカ様を見ただけで、大公達は右往左往の大騒ぎである。半狂乱の大公達に急かされて、ゼーファードは意を決してウルリカ様に事情を聞きにいく。


ゼーファード「あの……ウルリカ様……?」


ウルリカ様「うむ? みんな揃って、一体どうしたのじゃ?」


ゼーファード「実はですね……元気のなさそうなウルリカ様を心配して集まっているのです。なにか悪いことでもありましたか? 我々で力になれることはありませんか?」


ウルリカ様「なんと! それは心配をかけてしまったのじゃ!」


 そう言ってウルリカ様はニコッと明るい笑顔を浮かべる。しかしその笑顔は、どこか陰りのある暗い笑顔だ。


ウルリカ様「実はじゃの……楽しみにしていた“魔王城ケーキ”を誰かに食べられてしまったのじゃ……」


大公達「「「「「「魔王城ケーキ?」」」」」」


ウルリカ様「魔王城の形をした、特製のケーキだったのじゃ……凄く楽しみにしておったのじゃ……」


 ションボリとするウルリカ様を見て、大公達はとても心配そうだ。そんな中ゼーファードは一人、ダラダラと額から冷汗を流している。ガタガタと体を震わせて、明らかにただ事ではな様子である。


エミリオ「……ゼーファードさん?」


ゼーファード「ギクリッ……」


エミリオ「……おや? ゼーファードさんの口元にクリームが……」


ゼーファード「バカな! 口についたクリームは綺麗に拭いたはず……はっ!?」


ヴァーミリア「なるほどぉ……ウルリカ様のケーキを食べた犯人はゼーファードなのねぇ?」


ウルリカ様「ふむ? そうなのかの?」


ゼーファード「いえ……その……っ」


 顔を真っ青に染めたゼーファードは、勢いよくビョンっと空中に飛びあがる。


ゼーファード「申し訳ございませんっ! ウルリカ様のケーキだとは知らなかったのですぅっ!!」


 勢いよく飛びあがったゼーファードは、謝罪の言葉を口にしながら空中でクルクルと回転すると、そのままウルリカ様の足元にビターンッと土下座で着地する。

 なんとも凄まじく勢いの乗った、全身全霊の見事な土下座である。


ウルリカ様「食べてしまったのはゼファだったのじゃな!」


 ガタガタと震えながら、ゴンゴンと床に頭を叩きつけるゼーファード。一方のウルリカ様はケロリとした様子で、大して怒ってはいないようだ。

 ホッと一安心したのもつかの間、ゼーファードの背中に凄まじい魔力が圧しかかる。


ドラルグ「ウルリカ様ノ元気ガナイカラト……我々ヲ集メテオイテ……」


エミリオ「犯人はゼーファードさんだったというわけですか……」


ヴァーミリア「ウルリカ様の大切なケーキを食べちゃうなんてねぇ……」


ジュウベエ「ゼーファード殿……腹を切る覚悟は出来ているのだろうな……?」


 宰相であるゼーファードは、魔界ではウルリカ様に次ぐ実力者だ。しかし大公達の怒りの魔力は、ゼーファードでさえ身の危険を感じるほど凄まじい。


ゼーファード「くうぅ……撤退!」


 土下座の体勢から一瞬で起きあがったゼーファードは、脱兎のごとく謁見の間から飛び出していく。しかし大公達がゼーファードの逃走を許すはずはない。


ミーア「逃がすもんか! アタイの神器で消し炭にしてやるんだから!!」


エミリオ「ゼーファードさんを捕らえます! 第七階梯……牢獄魔法──!」


ドラルグ「我ノ率イルドラゴン軍団デ、地ノ果テマデモ追イ詰メテヤルゾ!!」


 こうして逃走したゼーファードを捕らえるべく、魔王城は大混乱に見舞われるのであった。


 そしてこの数ヶ月後、ウルリカ様の「魔王も真祖も飽きたのじゃ!」という言葉とともに、魔界と人間界は更なる大混乱に見舞われることになる。


 しかしそれは、また別のお話……。

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