第56話 波乱の開戦

 ついに訪れた決戦当日

 ロームルス学園の校庭には、王国騎士団、および学園の教師と生徒が集まっていた。


 騎士団側を率いているのは、聖騎士ゴーヴァン。

 そして学園側を率いているのは、生徒会長ハインリヒだ。


 それぞれの陣営に向かって、二人は指示を飛ばしていく。


「王国騎士団! 速やかに陣形を敷き、魔物の襲撃に備えろ!」


「誇り高きロームルス学園の諸君! 騎士団を後方に下がらせ、私達で陣形を敷くぞ!」


「おいっ、なにを言っている!? 最前線は騎士団に任せておくんだ」


「結構です! 最前線は私達に任せて、騎士団は後方に下がってください!」


 どこに陣形を敷くかで揉める、ゴーヴァンとハインリヒ。

 戦いを前にして、早くも不穏な雰囲気だ。


「待ってくれ、冷静になろう。ここはお互いに協力関係を──」


「そう言って私達を後方に追いやるつもりなのでしょう? 騙されないぞ! ロームルス学園は私達の手で守る!!」


 ゴーヴァンは落ちついて話をしようとする。

 しかしハインリヒは、まったく話を聞こうとしない。

 二人のいざこざをきっかけに、さらなる言い争いも生まれてしまう。


「おいガキ! ゴーヴァン聖騎士に向かって、生意気な口を利いてんじゃねえ!」


「そちらこそ、ハインリヒ生徒会長に向かって、なんて失礼な物言いなんだ! 許せないぞ!」


「待てお前達! いいから少し落ちつけ!」


 慌てて仲裁に入るゴーヴァン。

 しかし、言い争いは次から次へと発生する。


「戦いは騎士に任せておけばいいのです! 素人は後ろに下がりなさい!!」


「素人だと!? 剣術しか能のない連中のくせに!」


「ああもう! とにかく一回冷静になれよっ!!」


 ガックリと膝をつき、頭を抱えてしまうゴーヴァン。

 諦めの表情で、ボーっと空を仰ぎ見る。


「はぁ……エリザベス様はさっさと森へ入ってしまうし……俺一人では収められん……」


 そこへ、一人の女性が声をかけてくる。


「お困りのようですね、聖騎士ゴーヴァン」


「ん? あなたは?」


「副学長のラヴレスです、どうぞお見知りおきを」


「おお! いいところに来てくれた!」


 副学長と聞き、ゴーヴァンは喜んで立ちあがる。


「騎士団と学園のいざこざを収めたいのだ、副学長も手を貸してくれないか?」


「ええ、もちろんですよ」


 ラヴレス副学長はニッコリと笑顔で応える。


「では騎士団の方々を、後方へと下げてもらいましょう」


「なっ、副学長までなにを言うんだ!? それでは騎士団は魔物と戦えないではないか!」


「戦っていただく必要はありません、魔物はすべて我々学園の者で処理しますので」


 ニコニコと笑顔で話し続けるラヴレス副学長。

 しかし、その目はまったく笑ってはいない。


「副学長までこの調子かよ……はぁ……勘弁してくれ……」


 ゴーヴァンはズーンと項垂れてしまう。

 その時──。


「出たぞ! 魔物だ!!」


 パラテノ森林の方向で、にわかに騒ぎが起こる。

 一人の声をきっかけに、騒ぎは一気に広がっていく。


「オークだ! グリフォンもいるぞ!」


「それだけじゃない、あれは……レッサードラゴンも出た!」


「元から森に棲んでいた魔物もいる、凄い数だ!」


 木々の暗がりを抜けて、姿を現す魔物の群れ。

 どの魔物も体中に血管を浮かせ、目を真っ赤に染めている。


 高まる緊張感の中、さらなる脅威が姿を現す。


 真紅のうろこに、巨大な体。

 他の魔物とは明らかに別格の気配。

 僅かに開いた口からは、チラチラと炎の息が漏れている。


「アレはまさか、サラマンダーか!?」


「討伐難易度Bの魔物だぞ!」


「シュルロオォッ!」


 鋭い鳴き声をあげるサラマンダー。

 あまりの威圧感に、騎士団にも学園にも動揺が走る。


 そんな中、ハインリヒは大声で号令をかける。


「こうなったら騎士団は無視だ! 私達の手で学園を守るのだ!!」


「おい待て! 危険だ──」


「「「「「うおおぉぉ~っ!!」」」」」


 ゴーヴァンの制止の声も、湧きあがる雄叫びにかき消されてしまう。


 こうして、波乱の戦いが幕を開ける。

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