第53話 シャルロットと下級クラス

 教室塔、二階。

 並んで椅子に座る、ナターシャ、ベッポ、ヘンリー、シャルル、オリヴィアの五人。

 そして、教室の隅でポリポリとクッキーを食べているウルリカ様。


 教卓に立つシャルロットは、全員に向けて事態の説明をする。


「──というわけですの。恐らく明日は、魔物との大規模な戦いになりますわ」


 シンと静まり返る教室。

 そんな中、ヘンリーは疑問を口にする。


「事情は理解しました。しかしシャルロット様、どうしてボク達に詳しい事情を説明したのですか?」


「……それは……」


「確かに、俺達は寮で待機していればいいはずですよね。わざわざ集まってまで、事情を知らされる必要はないと思います」


 ヘンリーとベッポの質問に、言葉を詰まらせるシャルロット。

 表情を曇らせながら、なんとか言葉を絞り出す。


「その……みんなの力を……ワタクシに貸してほしいのですわ……」


「ボク達の力を貸す? どういうことですか?」


「……魔物との戦いに……参加してほしいのです……」


「「えっ?」」


 ベッポとヘンリーは揃って驚きの声をあげる。

 他の三人も驚いた表情だ。


「騎士団と学園で合同作戦を行うのですよね? どうしてボク達まで戦いに……?」


「俺達なんて作戦の邪魔になるんじゃ……」


「実は……騎士団も学園も、それぞれ単独で戦いに挑むつもりなのですわ……」


「「「「「えぇっ!?」」」」」


 今度は五人揃って驚きの声をあげる。

 驚く五人へと、シャルロットは詳しい説明をする。


「会議のあとで、それぞれに話を聞きましたのよ。すると両方から『自分達で魔物を倒す、相手方には後方支援を頼む、これで合同作戦は成立だ』と言われてしまいましたの……」


「そんな……子供のヘリクツじゃないですか……」


 話を聞いた五人は、呆気にとられた様子だ。


「ワタクシもお父様から、作戦に協力するよう言われておりますのよ。ただ両陣営ともそんな風で……どうしていいか分からなくて……」


 教室の中に、重苦しい空気が流れる。


「騎士団や学園の単独行動で勝てるのなら、それでも構いませんの。でも万が一危機に陥った時は、ワタクシも加勢する準備をしておきたいのですわ。だけど……」


 思いつめたような表情で、話を続けるシャルロット。


「だけどワタクシには、なんの力もなくて……誰かを頼ることしか出来なくて……頼れる相手はみんなしかいなくて……」


 静かな教室に、細々とした声が響く。


「王族なのに、国民を守る力もありませんのよ……逆にみんなを危険にさらそうとしていますの……」


 床を見つめながら、一生懸命に思いを口にする。


「それでも、ワタクシは出来ることをしたいのです! だからお願い、ワタクシに力を──」


 そして、顔をあげるシャルロット。

 と同時に、五人は一斉に立ちあがる。


「分かりました! 父の商会では冒険者向けの道具を扱っています。それを使えば、魔物との戦いを有利に進められるかもしれない」


「ではベッポ、どんな道具かボクに教えてください。それを元に作戦を考えてみます。幸い“研究書大量教室”に行けば、参考になる兵法書も魔物図鑑も大量にありますからね」


「ならば自分は戦闘の準備をしよう! いざ戦いになった時に、動ける者は必要だろう!」


「それは私の役目でもありますね! 吸血鬼とだって戦えたのです、どんな魔物も、このヨグソードでやっつけてやりますよ!」


「私は……えっと……えっと……そうだ! 私にしか出来ないことがありました!」


「ではベッポは商会へ急いでください! シャルルとナターシャさんは戦闘の準備! オリヴィアさんは……よく分かりませんが、オリヴィアさんにしか出来ないことを! ボクは作戦を立てます! シャルロット様、それでいいですね?」


「え……ええ……」


「では行動を開始しましょう!」


 ヘンリーの号令で、五人はあっという間に教室を出て行ってしまう。

 唖然とするシャルロット、その瞳からウルウルと涙が溢れてくる。


「みんな……ありがとう……」


「ロティよ、いい仲間を持ったのう」


「ええ……最高の友達ですわ……」


「もちろん妾も、ロティの友達じゃ!」


 ウルリカ様は小さな胸をトンッと叩く。


「最善を尽くして、それでも失敗したら、その時は妾に任せておくのじゃ!」


「ウルリカ……」


「なにも心配はいらん、思うままにやってやるのじゃ!」


 魔王様からの頼もしすぎる言葉をもらって、グッと拳を握るシャルロット。


「ええ、もちろんですわ!」


 こうして、下級クラスは密かに行動を開始するのだった。



 ✡ ✡ ✡ ✡ ✡ ✡



「ところで、ふと思ったのじゃが……」


 誰もいなくなった教室で、ウルリカ様はシャルロットに質問をする。


「妾の滅亡魔法か煉獄魔法を使えば、魔物など森ごと跡形もなく──」


 「ひっ」と悲鳴をあげるシャルロット。

 大慌てでウルリカ様の口にクッキーを押し込む。


「ほらウルリカ、クッキーですわよ!」


「なんじゃ? むぐっ……むぐむぐ……」


 口いっぱいにクッキーをほおばって、大人しくなるウルリカ様。


 シャルロットは冷や汗をぬぐい、「ふぅ」と息を吐くのだった。

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