第51話 異変

 授業中止の知らせから数時間後。

 ウルリカ様とシャルロットは、ロームルス城の会議室を訪れていた。

 ルードルフを先頭に、三人は会議室へと足を踏み入れる。


「お待たせしました陛下、シャルロット様とウルリカをお連れいたしました」


「ご苦労、オリヴィアとナターシャはどうした?」


「二人は寮に帰しております」


 会議室の中で待っていたのは、ゼノン王とヴィクトリア女王、聖騎士ゴーヴァン、生徒会長ハインリヒ。

 そして、黒いローブを着た中年の女だ。


「生徒会長? それと……ラヴレス副学長ですの?」


「お久しぶりね、シャルロット様」


 立ちあがり、ローブを脱いで挨拶をする中年の女。

 彼女こそ、ロームルス学園の副学長、ラヴレスである。


「久しぶりですわね、ラヴレス副学長」


 シャルロットとラヴレス副学長は、互いに礼をして挨拶を交わす。


 一方ウルリカ様はというと、黙ってうつむいたままだ。

 そんなウルリカ様を心配して、ヴィクトリア女王は声をかける。


「ウルリカちゃん、なんだか元気ないわね?」


「授業をな……中止にされてしまったのじゃ……」


「あぁ……それは落ち込んじゃうわよね……そうだわ!」


 ポンッと手を叩いて、机の下に手を入れるヴィクトリア女王。

 とり出したのは、色鮮やかなマカロンである。


「美味しいマカロンはどうかしら?」


「マカロンじゃと! 食べるのじゃ!!」


 パァッと笑顔を浮かべるウルリカ様。

 マカロンを貰って、ちょっとだけ元気をとり戻したようだ。


「パムパム……美味しいのじゃ!」


「フフフッ、よかったわ」


「コホンッ……そろそろ本題に入ってもいいか?」


 ゼノン王の言葉を合図に、ウルリカ様とシャルロットは席に座る。

 注目の集まる中、ゼノン王は口を開く。


「実は昨夜、パラテノ森林の警備隊が全滅した」


「全滅!? 本当ですの?」


 ガタンッと立ちあがるシャルロット。

 突然の悪い知らせに、動揺を隠すことが出来ない。


「間違いない、ゴーヴァンに調査をしてもらったからな」


 ゼノン王はゴーヴァンへと視線を送る。


「ゴーヴァンよ、改めて調査結果を報告してくれ」


「かしこまりました。では、パラテノ森林での調査結果を報告します」


 ゼノン王からゴーヴァンへと、全員の視線が移る。


「順を追って報告しましょう。今朝早く、陛下から命令を受けた俺は、パラテノ森林の調査に向かいました」


「警備隊全滅の一報を受けてな、即座にルードルフへと調査命令を出したのだ」


「森では明らかな異変が起きていました。生息する魔物はどれも凶暴化しており、討伐難易度EやFの魔物とは思えないほど強力になっていました」


 静かな会議室に、ゴーヴァンの声が響く。


「また、パラテノ森林には生息していないはずの、大型の魔物も発生しておりました。確認出来たのは、オーク、グリフォン、そしてレッサードラゴンです」


 レッサードラゴンと聞いて、顔を青くするシャルロット。


「体は赤黒く変色しており、普通ではない様子でしたね。周りには警備隊の死体が散乱していましたよ……」


 シンっと静まり返る会議室。


「魔物の位置からして、明日にはパラテノ森林を抜けてロームルス学園に現れると思われます。現時点での調査結果はここまでです」


 そう言ってゴーヴァンは報告を終える。

 重苦しい雰囲気の中、再び口を開くゼノン王。


「魔物の凶暴化、そして強力な魔物の出現、これは明らかな緊急事態だ。国家として慎重に、かつ早急に対処しなければならない」


「授業の中止もこのためなのよ。ロームルス学園はパラテノ森林から近いでしょう? だから生徒の安全を守るために、急いで授業を中止してもらったの」


 ゼノン王とヴィクトリア女王の説明を聞いて、ウルリカ様はコクコクと頷く。


「ふむ、そういうことじゃったか……パムパム……つまりその魔物を滅ぼせば、学校は再開するのじゃな? ならば滅亡魔法で森ごと消滅──」


「待てウルリカ! 早まるな!!」


 ウルリカ様の物騒な発言に、顔を青くするゼノン王。

 シャルロットは大慌てで、ウルリカ様の口にマカロンを押し込む。


「ほらウルリカ、マカロンですわよ!」


「なんじゃ? むぐぐっ……むぐむぐ……むぅ……」


 口いっぱいにマカロンをほおばって、大人しくなるウルリカ様。

 ゼノン王は冷や汗をぬぐい、「ふぅ」と息を吐く。


「さて、話を戻そう……とにかく例の魔物達を討伐しなければならない。そこで今回は、王国騎士団とロームルス学園で合同作戦を立てる」


 再び緊張感に包まれる会議室。

 その時、勢いよく扉が開かれる。


「父上! 遅くなりました!」


 凛々しい声とともに、一人の女性が飛び込んでくる。

 純白の鎧に身を包んだ、美しい女騎士だ。


 全員の注目を集めながら、女騎士は大きな声で名乗りをあげる。


「聖騎士、エリザベス・メイ・ランス・ロムルス! ここに推参!!」

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