第36話 本当のご褒美

 吸血鬼討伐の翌日、ロームルス城。

 謁見の間には、数多くの貴族や大臣、騎士が集まっていた。


 玉座に座り、穏やかな笑みを浮かべるゼノン王。

 視線の先では、三人の少女が膝をついている。

 シャルロット、オリヴィア、ナターシャの三人だ。


「シャルロット、オリヴィア、ナターシャ。今回の吸血鬼討伐、大儀であった」


 厳粛な雰囲気の中、響き渡るゼノン王の声。


「お前達のおかげで、ロームルスの町に平穏が戻った。国を代表して感謝の意を伝えよう」


 玉座から立ちあがり、三人の前へと歩み寄るゼノン王。


「頑張ったなシャルロット。オリヴィアとナターシャも、娘を助けてくれて感謝する」


「お父様……」


 顔をあげるシャルロット、目にはうっすらと涙を浮かべている。

 しかし、直ぐに涙をぬぐい、キリッと表情を引き締める。


「国王陛下より仰せつかった大役、無事に果たしましたことを報告します。ここにいるナターシャとオリヴィア、そしてウルリカのおかげです」


 立派な態度のシャルロットに、惜しみない賞賛と拍手が送られる。

 ゼノン王も満足そうにうなずいている。


「シャルロット、本当に成長したな。ところで……」


 ゼノン王はキョロキョロと辺りを見回す。


「ウルリカはどうしたのだ?」


「えっと……」


 言い辛そうに顔を伏せるシャルロット。

 オリヴィアとナターシャもそっと視線をそらしている。


「ウルリカは……寝坊ですわ……」


 シンッと静まり返る謁見の間。


「ね……寝坊だと……?」


「はい……何度も起こしたのですが……まったく起きるそぶりを見せなくて……」


 小刻みに肩を震わせて、顔をうつむけるゼノン王。

 次の瞬間、ゼノン王は大きな声をあげる。


「ハッハッハッ! 寝坊? 褒美を取らそうという日に寝坊だと? 信じられんな! 流石はウルリカだ!!」


 お腹を抱えて身をよじるゼノン王、人目もはばからず大爆笑だ。

 しばらく爆笑した後、ようやく落ちつきを取り戻す。


「はぁ……久しぶりに笑わせてもらった」


「お父様……笑いすぎですわ……」


「すまんすまん。さてシャルロットよ。いや、太陽の天使様と呼んだ方がよいか?」


「お父様! からかわないで!!」


「いい呼び名ではないか、国民からの感謝の証だ」


 顔を真っ赤にするシャルロット。

 太陽の天使の名は、王城にもしっかり届いているのである。


「シャルロット、オリヴィア、ナターシャ。お前達に褒美を取らそうと思うのだが、なにか希望はあるか?」


 ゼノン王からの問いに、三人は同時に答える。


「「「ありません!」」」


「……なに? 褒美はいらないのか?」


「すでにご褒美はもらいましたわ。ナターシャとオリヴィア、そしてウルリカから」


 シャルロットからナターシャ、そしてオリヴィアへ。

 順番に互いに、三人は視線をあわせる。

 そして、三人揃って大きくうなずく。


「四人で一緒に特訓したこと、一緒に作戦を練ったこと、一緒に戦ったこと。そうして絆を深められたこと、それ以上のご褒美はありませんわ!」


「はい! シャルロット様ともサーシャとも、とても仲よくなれました。これ以上のご褒美はないです!!」


「私も同じです! それに、ウルリカさんとも仲よくなれました! もう十分にご褒美はもらっています!!」


 立ちあがった三人は、まっすぐな瞳でゼノン王を見つめる。

 美しい三人の姿に、自然と拍手が沸き起こる


「そうか……分かった!」


 大きくうなずくゼノン王。


「では褒美は用意しない。しかし、感謝していることに変わりはないぞ」


「ええ、理解していますわ」


「うむ、お前達に心から感謝する! そして、三人とも本当によく頑張ったな!!」


「「「はい!!」」」


 こうして、ウルリカ様不在のまま、吸血鬼討伐は幕を閉じるのだった。

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