第214話乙女ゲーのヒロインは、ギャルゲの主人公に勝ちたいのです。その60

 美月は、何とか体育祭の準備を終らせて、浩二達にお礼を言って別れた後に、体育祭実行委員会の集会に顔を出して、お昼には家に帰れることになったのだが、またしても、面倒なことに、生徒会室で終了の挨拶をした後に、生徒会メンバーにお昼を誘われるのであった。


「夜桜さん……親睦の意味も兼ねてお昼でもどうでしょうか?」

「生徒会長、それはいいね……美月、行こうじゃないか」


 眼鏡をクイっとさせながら、どうだろうと右手でアピールしてくる生徒会長に、爽やかイケメンスマイルで乗り気な政宗に、美月は露骨に嫌そうな表情を浮かべるのである。


「すみませんが私これから用事があるので失礼しますね」


 美月は早口でそう言って、頭を下げると生徒会室から急いで退散しようとするのだが、生徒会長が待ったをかけるのである。


「夜桜さん、少し学食でご飯を食べるだけですよ……お時間作れませんか?」

「すみませんが、もう帰らないといけないので……」

「美月、生徒会長がお願いしているのだし……少しぐらい時間を作ってくれないかい?」


 滅茶苦茶引き留めてくる生徒会長と政宗に、ますます、嫌そうな表情をする美月に、やれやれとため息をつく生徒会長の横でいつも立っている長髪イケメンなのである。


「夜桜さんにも、用事と言うものがあるのでしょう……会長、ここは我々だけでお昼を食べに行きませんか?」

「ふむ……そうですね……仕方ありません。では、夜桜さん…明日もよろしくお願いしますね」


 そう長髪イケメンは美月を睨みながらそう生徒会長を説得すると、生徒会長は少し考えた後に、納得して、美月にそう言うのである。


「すみません……では、これで失礼しますね」

「なら、俺もこれで、帰ります……では、生徒会長また……」

「いや……覇道君には少し聞きたいことがあるのですが……よろしいですか?」


 美月が、もう一度頭を下げて、生徒会室から出て行くと、政宗が追いかけようと、生徒会長に素早く挨拶をするのだが、そんな政宗を引き留める生徒会長に、露骨に機嫌を損ねる政宗なのだが、渋々、この場に留まるのであった。


「手短にお願いします……美月の後を追わないといけないので……」

「いえ、明日の体育祭ですが、朝宮郁人君には勝てるのですよね? 風紀委員長と賭けをしましてね……万が一にも負けられると困るのですが……」

「そんな事ですか……勝ちますよ……100m走も、クラス対抗リレーも……安心してください……では、失礼します!!」

「そうですか、引き留めてすみませんでしたね……では、明日はよろしくお願いしますね」


 両手を組んで口元を隠して、眼鏡を光らせる生徒会長を急かす政宗に、深刻そうな口調でそう尋ねる生徒会長なのである。そんな、生徒会長に、呆れたイケメンスマイルを浮かべて、自信満々にそう言い放つ政宗に、満足そうな表情の生徒会長は、生徒会室から出て行く政宗にそう言うのであった。







 美月は、猛ダッシュで、学校から出るために走るのであった。政宗が絶対に追いかけてくると思った美月は、彼から逃げるために廊下を走っていると、階段を下りてくるある人物に注意されるのである。


「夜桜さん……廊下は走らないようにってぇ……小学校で習ったよねぇ」

「……三橋さん……今はそれどことじゃないの……私、急いでるから!!」

「ダメだよぉ……風紀委員としてぇ……見逃せないかなぁ」


 嫌味たっぷりな言い回しで清楚笑顔で注意をしてくる制服姿の梨緒を、立ち止まって睨む美月はそう言って、階段を急いで降りようと再度、走りだそうとするのだが、それを止める梨緒なのである。


「……ていうか、三橋さん何してるの? 今日休日でしょ……体育祭の準備の手伝いの時にも見てないけど」

「う~ん……それは内緒かなぁ……でも、さっきまで郁人君と一緒に居たかなぁ」


 美月は、急いで帰りたいのだが、逃がしてくれそうにない梨緒を睨みながらそう話を振るのだが、露骨に自慢気な表情でそう美月に意味深な言い方をする梨緒なのである。


「そう……リレーの練習してたんだね……でも、勝つのは7組だけどね」

「そうかなぁ……こっちには郁人君が居るんだよぉ……夜桜さんだってぇ、わかっているんじゃないかなぁ……郁人君には勝てないってぇ」


 美月は、梨緒の挑発を回避して、挑発し返すのだが、梨緒は清楚笑みを崩すことなく、美月にクリティカルヒットな発言をしてくるのである。心の底で、わずかに思っている事を言われ美月は黙るのである。


「ふん……くだらない……朝宮など、俺より足が遅いのだから、どうあがいても、1組が7組に勝つなど不可能だ……朝宮など、100m走でも俺には勝てないさ……貴様こそ、1組は7組に勝てないって、心の底ではわかっているのではないのかい?」


 黙る美月に対して、勝者の笑みを浮かべる梨緒なのだが、そんな梨緒に、イケメンスマイルを浮かべながらも、哀れなモノを見る目で、梨緒を見ながら、呆れ果てる口調で、美月に追いついた政宗はそう言い放つのであった。


「……えっと……覇道君だっけ、ごめんねぇ……たぶんだけどねぇ……夜桜さんは、そうは思ってないんじゃないかなぁ? ねぇ……夜桜さん」

「……ううん、7組がリレーは勝つよ!!」

「リレーはかぁ……じゃあ、100m走は郁人君が勝つと思っていんだぁ」


 梨緒は、やれやれと呆れた様子で、自信満々にそう言う政宗を挑発して、美月の方に見ながら問いかけると、美月は、真剣な表情でそう言い返すのだが、美月の発言に対して、上げ足を取る梨緒に、美月は顔を伏せて黙り、政宗は露骨に苛立つのである。


「美月は俺が勝つと信じてくれているさ!! 朝宮などに俺が負けるものか!!」

「ふ~ん……そうなんだぁ……正直、覇道君じゃ相手にならないと思うけどなぁ……あ、夜桜さん……100m走……絶対に私……あなたに勝つからねぇ……全力で勝負しようねぇ」

「……望むところだよ……三橋さんにだけは負けないから!!」

「それは、こっちの台詞だよぉ!! 夜桜さんにだけは負けたくないんだよねぇ!!」


 苛立つ政宗は、そう梨緒に怒鳴るのだが、全く相手にしてない梨緒は、適当にあしらうと、美月の方を睨んで、勝負を挑む梨緒に、美月は全力で受けて立つのでる。バチバチと火花を散らす二人に、無視されて苛立つ政宗なのである。


「美月……こんな奴は無視して、一緒に帰ろう」

「……覇道君……私は用事あるから……先に帰って大丈夫だよ」

「なら、俺も付き合おうじゃないか」


 政宗は、梨緒を睨む美月の肩に触れようとするが、それを素早く回避する美月に、そう言うと、露骨に嫌そうな表情で、美月は政宗の誘いを断るのだが、イケメンスマイルでしつこい政宗なのである。


「ふ~ん……そっかぁ……じゃあ、邪魔モノみたいだからぁ、私はこれでぇ……夜桜さん、頑張ってねぇ」


 梨緒は上機嫌に両手を合わせてそう美月に言うと、ノリノリで、美月と政宗とすれ違って階段を下りていくのであった。そんな、梨緒を、この野郎と睨みつける美月なのであった。


「さぁ、邪魔モノはいなくなったし……一緒に帰ろうか……美月」

「……あ!! ひ、ひろみん!!」


 困り果てる美月に、今度はゆるふわ宏美が制服姿で階段を下りてくるのである。そんな、ゆるふわ宏美を見つけて、声をかける美月に、気がつくゆるふわ宏美は、不機嫌そうにこちらを睨んでくる政宗と二人きりの美月を見て、ゆるふわ苦笑いを浮かべるのである。


「み、美月さんですか~……どうしたんですか~?」

「ひ、ひろみん!!」


 美月から、露骨に助けて欲しい視線を受けるゆるふわ宏美は、ため息をつくのであった。

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