第198話乙女ゲーのヒロインは、ギャルゲの主人公に勝ちたいのです。その43
学校の校門まで、美月は無言で、ゆるふわ宏美も、顔色の優れない美月に心配そうな表情をしながらも、先ほどの件があって、声をかけていいのか、わからずにいるのである。
「美月ちゃん、おはようだぜって……だ、大丈夫か!? か、顔色わりぃーぞ!!」
「……おはよう……大丈夫だから……」
いつも通り、校門で待っていた浩二にも、心配される美月は、駆け寄ってくる浩二に、そう言って、挨拶だけすると、教室に向かって歩き出すのである。そんな美月の後姿を見ると、浩二は、ゆるふわ宏美の方を見て、視線で、何があったのかと尋ねると、わかりませんね~と視線とポーズでそう返事を返すゆるふわ宏美なのである。
そして、どんどん、一人で先に行く美月に、複数人の男子生徒が声をかけようと近づこうとするため、すぐに美月の後を追うゆるふわ宏美と浩二なのであった。
そして、ゆるふわ宏美のゆるふわ笑みと、浩二の強面ヤクザオーラで、周りを威圧して、フラフラの美月に、誰も近づけないように圧を放ちながら、7組教室前まで来て、美月の事は心配だが、ここで別れるしかないと、いつも通りのゆるふわ笑みを浮かべて、別れの挨拶をして、1組教室に向かうゆるふわ宏美に、美月は、無言で教室に入っていくのであった。
「み、美月ちゃん……マジでどうしたんだよ……あ、あれか、政宗の事か!? り、リレーの事なら、細田に相談しといたぜ!!」
あの、ゆるふわ宏美にすら、冷たい態度の美月に、何かあったのかと聞きながら、ハッと、昨日の練習を思い出して、安心してくれと、スマホを取り出す浩二に、美月は、ぐったりと机でうつ伏せになっていた顔をあげて、浩二のスマホを見るのである。
「細田が、7組がやる気になるよーにって、この映像をくれたんだぜ!!」
そこには、1組のリレーメンバー達の練習風景が映っており、各個人のリレーの受け渡しの瞬間が収められていた。みんな、それなりのレベルまで、上手くなっており、バトンのロスはかなり少なくなっているのであった。
そして、郁人と梨緒のバトンの受け渡しは、かなり高いレベルになっており、美月と政宗と比べると雲泥の差なのである。
「政宗の奴……美月ちゃんに幼馴染、幼馴染って強調してるだろ……細田に相談したら、この映像を見れば真面目に練習するんじゃねーかって……やっぱ、細田は頼りになるぜ!!」
「……永田君……ひろみんの事……滅茶苦茶嫌ってたよね」
「ああ、あの時の僕はバカだったんだぜ!! 本当に人を見る目がねーって言うかよ……だが、今はちげーぜ!! 細田はめっちゃいい奴だぜ!!」
そして、美月は気がついたのである。浩二は悪い奴ではないと……ただ、単純に馬鹿なだけなのだという事に、しかし、美月は、ゆるふわ宏美が、自分達のために、この映像をくれたことに喜び、心が温かくなるのである。
(ひろみん……ひろみんは私の事を応援してくれている……そうだよね……郁人にあんな思いは二度とさせられない……絶対に郁人に勝つよ)
美月は、気合を入れなおして、後はリレーのバトンの受け渡しを完璧にすれば大丈夫だと、浩二と放課後に、この映像を使って、どうやって、バトンの受け渡しの練習にやる気をださせるかの作戦会議をするのであった。
一方その頃、なんとか、学校にたどり着いた郁人は顔面蒼白で、非常に顔色が悪く、心ここにあらずなのである。そんな、郁人をいつも通り囲んで、心配する女子生徒達と、郁人様親衛隊の三人組なのである。
「大丈夫だ……今日はもう、教室に行ってもいいかな?」
郁人は何とかそう女子生徒達に優しく言うと、勿論と、みんな、郁人の事を心配している様子に、ありがとうと言って、教室に向かう郁人とその後に続く郁人様親衛隊の三人娘なのである。
「い、郁人様大丈夫ですか!? ほ、保健室に行かれてはどうでしょうか?」
「ああ、尊い郁人様……今すぐ、迎えを寄越させますので、おうちまでお送りしますわ」
「一生郁人様推しの私が、完璧に体調の優れない郁人様を闇討ちしようとする輩は返り討ちにしますから、ご安心を」
「ああ……ありがとう……大丈夫、教室で少し休めばよくなるから」
心配そうにそう言ってくれる三人娘に、そう優しく笑顔でそう言って、郁人は教室に入るのである。そして、そう言われた三人娘は、嬉しそうに、郁人の邪魔にならないように、すぐに自分達の席に向かうのである。
「……い、郁人様……おはようござます~……ほ、本当に大丈夫ですか~? 何があったんですか~?」
「まさか……美月が、たかが体育祭のリレーの勝負でここまで、本気になるとは思っていなかった……美月から、精神攻撃を受けてな……マジでこれは……すまない……俺はもうダメかもしれない」
「い、いくとさま~!!」
そう言って、机に倒れ伏せる郁人に、駆け寄って名前を叫ぶゆるふわ宏美に、何事と教室が一斉にゆるふわ宏美を見つめるのである。ハッと、見られていることに気がつき、辺りを見まわして、恥ずかしさで顔を真っ赤にして、いつものゆるふわ笑みを浮かべながら、たははは~と頭を掻きながら誤魔化すゆるふわ宏美なのである。
「……でも、リレーで勝つのは~、作戦での絶対条件なんじゃないんですか~?」
「……そう……だったな……少し嫌なことを思い出してな……弱気になっていたが……美月がその気なら、こっちも本気やるしかないな」
得意のゆるふわ笑みで誤魔化して(誤魔化せてない)生徒達の視線が自分から逸れたことを確認して、もしかしたら、郁人が諦めてくれるかもと、少し期待して、郁人にそう言うゆるふわ宏美に、ボソッとそう言う郁人なのであった。
そんな、郁人の様子に滅茶苦茶不安になるゆるふわ宏美は、ただ、机にうつ伏せで倒れる郁人を眺めることしか出来なかったのであった。
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