第156話乙女ゲーのヒロインは、ギャルゲの主人公に勝ちたいのです。その1

 結局、生徒会をやめられないまま、体育祭実行委員のお手伝いをすることになった美月は、放課後は遅くまで残って、体育祭実行委員から、渡された山のような書類を片付けているのである。


「美月、この書類なんだが……」

「……私に聞かれても困るから……生徒会長に聞いて」


 政宗が、笑顔を浮かべて、書類を手に忙しそうにノートパソコンと向き合っている美月の元に来るが、冷たくそう言って、あしらう美月なのである


 早く仕事を終らせて帰りたい美月は、基本的に生徒会で無駄話はしないのである。政宗や生徒会長は事あるごとに、話しかけて、無駄話をしようとするので、うんざりな美月なのである。


(あれから、結局、郁人……特に変わったところないし、大丈夫だよね……はぁ、早く帰って少しでも、郁人と一緒にいたいよ)


 あれから、一週間経っても、郁人は普段通りで、相変わらず、風紀委員会をやめれないと嘆いているくらいで、他には変わったことはないので、美月は完全にあの時感じた不安な気持ちなど、生徒会での忙しさもあって、忘れてしまっていたのである。


「相も変わらず、風紀院長は面倒ですね……はぁ…」


 困った表情で、生徒会室の扉を開いて、生徒会長が生徒会室に入ってきて、自分の席に不機嫌そうに座ると、すぐに、副会長が生徒会長に何があったのかを尋ねるのである。


「生徒会長……何か問題でも?」

「……風紀委員会が、体育祭の件で見回りの担当は風紀委員会がやると言ってきていましてね……体育祭は、体育祭実行委員と生徒会で執り行うと言っているのですが……教師達まで抱き込んで、抗議してきまして……全く…面倒な人ですよ…本当に……」


 眼鏡をクイクイしながら、不機嫌そうにそう言う生徒会長の話(愚痴)を真剣に聞く副会長なのである。


「……風紀委員会……良いんじゃないですか? 人でも足りてないですし、正直、猫の手も借りたい状況じゃないですか」


 美月は、風紀委員会と聞いて、もしかしたら、風紀委員会が体育祭の運営に関わってくれるなら、郁人と学校で会えるかもと、打算的な考えから、そう提案するのである。


「いえ、それは絶対に認める訳にはいきませんよ…あの風紀委員長が体育祭の運営に関わらせるなど、出来る事ではありませんよ……それに、今の風紀委員会には朝宮君もいますし、美月さんと接触させる訳にはいきませんからね」


 そう、言い放つ生徒会長を、ジト目で睨む美月なのである。正直、その郁人と一緒に居たいから提案したのに、なぜか、郁人と引き離そうとする生徒会長に怒りの視線を向ける美月だが、生徒会長は、全くその視線に気がつかないのである。


「そうだね……美月に朝宮を近づけるなど……しかも、最近、さらに女癖が悪くなったと聞くし」

「そうなのですか? 覇道君…詳しく話してくれませんか? 一年生の事に関しては、二年である我々は疎いですからね」


 また、郁人の悪口を言い出す、政宗を、睨む美月は、もうどうでもいいと、作業に戻るのである。


「最近、朝宮のヤツ、幼馴染ともいい感じらしく、しかも、複数のファンクラブの子達にも手を出していると言う話だね……まぁ、彼ならやりそうだけど…不誠実の塊みたいな男だからね」

「風紀委員会の所属する男が、一番風紀を乱しているという訳ですね……この事実を風紀委員長はどう考えているのか……全くあの女も、ダメな男を好きになって……はぁ~」


 呆れる、生徒会長はその後、風紀委員長の悪口を言い出して、美月はほとんど、聞いてはいなかったのだが、ある疑問を感じたので、何気なく口に出す美月なのである。


「生徒会長って……風紀委員長のこと、好きなんですか?」


 美月がノートパソコンをカタカタやりながら放った一言で、場は静まり返るのである。


「夜桜さん……その…いったいなぜ、そのようなことになるのですか!?」


 生徒会長は慌てて机から立ち上がり、ノートパソコンをカタカタしている美月を問い詰めるが、美月は、作業を中断することなく、こう言い放つのである。


「あれですよね……好きだから、そんなに風紀委員長の話ばかりするんですよね……素直に、なった方が良いと思いますよ」


 生徒会長の心に大ダメージ、生徒会長は胸を抑えて、片膝を地につけるのである。


「生徒会長!? 大丈夫ですか!? 気を確かに!!」

「あ……ああ…大丈夫ですよ……この程度…」

「あ……でも、確かに風紀委員長と生徒会長ってお似合いですよね…うん、私、応援しますね」

「グハッ!!」

「会長!!」


 瀕死のダメージを心に負った生徒会長は、必死に立ち上がろうとするが、美月の止めの一撃で、再び倒れる生徒会長に、副会長はすぐに駆け寄るのである。


「美月……さすがに生徒会長が可哀想だから、やめてあげてくれないか?」

「え? 私……何かおかしなこと言ったかな?」


 生徒会長の気持ちを察した政宗が、ノートパソコンと真剣に睨めっこしている美月にそう言うと、疑問顔の美月の一言で、政宗は全てを察して、苦笑いを浮かべるのであった。


「夜桜さん……それは……勘違いですよ……そもそも、私は貴方の事が…いえ、なんでもありませんよ」

「……生徒会長」


 風紀委員長ではなく、美月の事が好きだと言おうとした生徒会長だが、完全に作業に集中している美月を見て、言うのをやめるのである。そんな、生徒会長の姿を不安そうに見つめる長髪副会長なのであった。


「あ……そう言えば、俺から、一つお願いがあるのですが……」

「……なんでしょうか? 覇道君から、お願いがあるなど、珍しいですね」

「体育祭で……100m走……朝宮と一緒の順番にしてもらってもいいですか?」


 政宗は、真剣な表情でそう言い放つと、生徒会長は眼鏡をクイっとして、複雑そうな表情を浮かべるのである。


「それは……私に不正をしろと…そう言うことですか?」

「いえ……そういう訳では……ただ、朝宮のヤツ……また、美月と勝負をしていて、この間美月が負けてしまったから、今度は俺が美月に勝利をプレゼントしたいのです」

「なるほど……そう言うことですか……少し、考えておきます」


 真剣な表情の政宗に対して、真摯に受け止める生徒会長はそれだけ言うと、自分の席に座って、仕事を始めるのである。


 そんな、政宗と生徒会長のやり取りを横目で見ながら、美月はこう思うのであった。


(郁人に100m走で勝てる訳ないでしょ……本当に郁人に勝ちたいなら、陸上部のエース連れてこないと無理だよ)


 呆れながら、美月は、また、作業に戻るのであった。郁人は中学時代何度も陸上部に誘われたことがあるほど足が速いのである。正直、政宗が勝つなど、不可能と思っている美月は、正直、この勝負は同着にするしかないと思っているのであった。


(郁人が一位は間違いないから……負けないために、私が一位を取るしかないんだよね)


 美月は、正直、走りには自信がないが、郁人との勝負を引き分けにもっていくためには、必ず一位を取るしかない美月なのであった。

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