第148話ギャルゲの主人公と乙女ゲーのヒロインは、幼馴染で恋人なので、ずっと一緒に居たいのです。その20

 ウキウキ、ソワソワ気分で、帰宅した美月は、お気に入りのクマのぬいぐるみをギュっと抱っこして、自分の部屋で郁人をワクワク、ドキドキ気分で待つのであった。


 いつも通り、郁人はインターホンを鳴らし、美月が玄関に迎えに来てくれるのを待つのだが、出てきたのは、美月の母の美里なのである。


「あ…美里さん、すみません、こんな遅い時間に・・・」

「いいのよ……美月ちゃんに郁人君が来たら、出て部屋に案内してってお願いされて…あの子何考えているのかしらね? いつもなら、絶対に私が出るってきかないのに…」


 母の美里は快く迎えてくれると、戸惑う郁人の前で、頬に手を当てて、疑問顔でそう言うのである。


「それにしても、最近は、二人とも帰ってくるのが遅いのね…どこかで遊んで帰って来ているのかしら?」

「え…ああ……ちょっと、学校で用事がありまして、お互い帰るのが遅い時間に……」


 美里が呆れ半分、揶揄い半分でそう郁人に言うと、郁人は、やっぱり美月も、生徒会の事は親には話してないのかと、頭を掻きながら誤魔化す郁人なのである。


「二人とも、そんなにずっと、一緒に居なくても、大丈夫でしょうに……昔から、美月ちゃんは、郁人君について回っていたものね」

「そうですね……でも、俺も美月とは、ずっと一緒に居たいですよ」


 正直、遅く帰って来てまで、お互いの家に行かなくてもと呆れる美里は、郁人にそう言うのだが、真剣な表情ではっきりそう言う郁人に、驚く美里は、呆れながらも、微笑んで郁人を美月の部屋に案内するのだった。


「美月……入ってもいいのか?」


 郁人は美月の部屋の前に来て、扉をノックするのだが、返事がないので、そう声をかけるのである。


「ま、待って、まだ、心の準備ができてないから!!」

「は? なんだそれ? よくわからんが…とりあえず、待てばいいんだな」


 あんなに、一緒に居られる時間が無くなるから、早く早くと急かしていた美月なのに、こんなことして、時間無駄にしていいのかと疑問に思う郁人だが、素直に美月の言うとおりにするのである。


「い、郁人!! 大丈夫だよ!! 入ってきて……」

「ああ…じゃあ、入るな」


 郁人は、ドアを開けて、美月の部屋に入るが、私服の美月がクマのぬいぐるみを抱っこして、ちょこんと座っている以外は何も変わり映えしない美月の部屋なのである。


「い、郁人…さ、さぁ、クマさんだよ!!」

「あ……ああ…そうだな」


 美月は、クマを抱っこしながら、顔を真っ赤にしてそう言うので、正直、よくわからない郁人は、とりあえず頷き返事を返すのである。


「クマさんも郁人に会えて嬉しいそうだよ!! だから、抱っこしてあげようね!!」

「ああ……わ、わかった」


 郁人は戸惑いながらも、美月の近くに行って、クマのぬいぐるみを受け取り、抱っこするのである。


「じゃ、じゃあ、い、郁人は……ここにまず、寝っ転がって!!」

「は…はぁ…って、そこ美月のベッドだろ」

「いいから!! 早く寝っ転がって……クマさんは抱っこしたままだよ!!」

「え? あ…ああ…わ、わかった」


 美月の勢いに押されて、郁人は、よくわからないままに、クマのぬいぐるみを抱っこしたまま、美月のベッドに横になるのである。


「み、美月……これ…なんの儀式だ?」

「いいから、はい…じゃあ、布団かぶせるね!!」


 郁人は、クマのぬいぐるみを抱っこしたまま仰向けに、美月のベッドに寝かされて、そのまま布団をかぶせられるのである。その郁人の様子に、腰に手を当てて満足気な美月なのである。


「み、美月……お、俺はどうすればいいんだ?」

「そ、そのまま、動いたらダメだからね!!」


 郁人は、満足気な美月を見ながら、視線でこの状況をきついと訴えるが、美月は顔を真っ赤にして、起き上がろうとする郁人にそう言い放つのである。


「美月……これになんの意味があるんだ?」

「い、意味なんてないよ!! 意味なんてないんだからね!!」

「意味ないなら、起き上がってもいいか?」

「ダメだよ!! ダメだからね!! 郁人は帰るまでそうしててね!!」

「帰るまでって、三十分このままなのか!?」


 流石にこのままの姿勢は、きついので、美月にそう言って、ベッドから起き上がろうとするが、美月は必死にそう言って、郁人がきちんと寝ているかをジッと監視するのである。


「……美月・・・もうそろそろ…」

「郁人…クマさんが郁人ともう少し一緒に寝たいって言ってるよ」

「そ…そうなのか?」

「そうだよ!! だから、もう少しこのままだよ!!」

「……せめて、起き上がったらダメか?」

「ダメだよ!! 絶対ダメだからね!! いいから、寝てて、時間になったら起こしてあげるから!!」

「いや……この状況で寝るのは無理だろ…」


 美月にジッと監視され、クマを抱っこさせられ、その上から布団をかぶせられる郁人の状況は意味不明なのである。


 そして、結局帰るまでそうしていた郁人は、解放されたときは、ゲッソリとしていたのだが、美月の満足そうな表情を見て、まぁいいかと苦笑いを浮かべる郁人なのであった。


 もちろん、美月は、郁人に対して意味はないと言っていたが、本当はきちんと美月には理由があるのだが、郁人には絶対秘密なのである。郁人が帰って、夕ご飯の準備をして、夕ご飯を食べ、お風呂に入り、学校の宿題を終えた美月は、最近の不満を、クマのぬいぐるみを抱っこして、郁人が寝ていたベッドに横になる事で癒されるのであった。


美月は、とても、満足気で、絶対に明日こそ、生徒会をやめると決意を固めるのであった。

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