第126話ギャルゲの主人公と乙女ゲーのヒロインは、勉強が得意なのである。その26
「悪いが、7組に用事があるから、通してもらえないか?」
そう、立塞がる男子生徒達を真直ぐ見据えてそう言い放つ郁人なのである。ゆるふわ宏美は不安そうに郁人の右隣に立っており、梨緒は左後ろで未だに、顔を押さえて、どこかに意識が旅立っている状態なのであった。
「朝宮…悪いけど、お前は7組教室に通すなって言われてるから無理だ…帰ってくれ!!」
「そうだ!! 帰れ!!」
「女たらしのクソ野郎を美月ちゃんに近づけるかよ!!」
「そうだ!! 女たらしのクズ野郎!!」
男子生徒達が口をそろえて、そう言って、最終的には郁人の悪口を言い出すのである。もちろん、親愛なる郁人様を侮辱されて、黙っていられない郁人様ファンクラブ幹部メンバー達は、郁人の背後から、文句を言い出すのである。
「郁人様に嫉妬するのはやめていただけませんか?」
「そうですよ!! 郁人様のカッコよさに嫉妬しないでください!!」
「尊い郁人様の悪口を言うのは許しませんわよ!!」
「郁人様一生推しの私に、そんなこと言うなんて…戦争です!! 戦争!!」
怒り出す、郁人様ファンクラブ幹部メンバーにたじろぐ、男子生徒達なのである。郁人様ファンクラブ幹部メンバーは容姿だけなら、トップクラスの美少女集団なのである。そんな、彼女たちに責められては、男としては強気に出ることができないのであった。
「ごめんね…通してもらっていいかな?」
睨み合いが続く中、美月が現れたことにより、男子生徒達が慌てだすのである。美月に睨まれて、すぐに道をあけてしまう男子生徒達なのである。
「美月…待ってくれ!!」
「美月ちゃん…行っちゃダメだって……誰か止めろ!!」
政宗と浩二が、美月を止めようとするが、美月が無言でイケメン二人をひと睨みして、男子生徒達も、正直、美月に嫌われたくないため、美月の言うと通りに、道をあけるのである。
「郁人…私に何か用があるのかな?」
美月は、男子生徒達の前に出て、郁人と向き合って、そう問うのだが、郁人は目を瞑って、黙っているのである。もちろん、美月は、郁人様ファンクラブ幹部メンバーからは睨まれており、睨まれたら、睨み返す美月なのである。
(いいいい、郁人様…どどどど、どうする気なんですか~!?)
焦るゆるふわ宏美は冷や汗ダラダラで、ゆるふわ笑みを浮かべているのである。そんな、ゆるふわ宏美は、後から来た政宗と浩二に睨まれるのである。
「ああ……夜桜美月……君に用があってきた」
「……え? 郁人!?」
郁人は目を開いて、美月を真剣な表情で見て、少し他人行儀な言い回しでそう言うので、美月は驚き、戸惑いの表情を浮かべるのである。そんな、郁人を睨む政宗と浩二を、郁人はチラリと見るが、すぐに視線を美月に戻すのである。
「……今日は、宣戦布告しに来た……美月!!」
「え!? あ……は、はい!!」
郁人は美月を指さして、そう言い放つと、美月は、やはり、戸惑うのである。
「今度の中間テストで…俺は…美月よりいい点と取って見せる……テストの結果で勝負だ」
「……え!?」
郁人は、疑問顔で戸惑う美月に、ニヤッと笑みを浮かべるのである。もちろん、突然郁人がそんなことを言うので、周りはみんな混乱しているのである。
「今日は、それを言いに来ただけだ……直接、言っておかないとと思ってな」
「え!? い、郁人……ど、どういうことなの?」
「そのままの意味だ……俺は、必ずテストで美月に勝つ!!」
郁人のよくわからない宣戦布告だが、郁人が美月に言い放ったことに、全く理解できていないのだが、ここは話に乗らないとと、郁人様ファンクラブ幹部メンバーが声をあげるのである。
「そうです!! 郁人様なら、必ず、夜桜さんに勝てますよ!!」
「郁人様なら、必ず勝利できます!!」
「尊い郁人様なら、必ず勝てますわ!!」
「郁人様を一生推す私としては、郁人様の勝利も疑うことはありません!!」
盛り上がる、郁人陣営に対して、困惑する美月陣営の男子生徒達なのである。そもそも、政宗と浩二も、郁人が何でそんなことを言ったのか理解できずに困惑しているのである。
「……よ、よくわからないけど……い、郁人に私が勝てるわけな……ううん…そうだね…うん、わかったよ……朝宮郁人……その勝負受けるよ!! 絶対に私が勝つから!!」
美月は、ジッとこちらを見ている郁人に、自信なさげに、勝てるわけがないよと言おうと思ったのだが、郁人がジッと真剣な表情で自分の事を見ていることに気がつき、勇気を出して、郁人に立ち向かうことを決めた美月なのである。
「美月ちゃん!! 美月ちゃんなら、朝宮の野郎なんかに負けねーよ!!」
「所詮、女遊びばかりの朝宮に、美月ちゃんが負ける訳ねーだろ!!」
「美月ちゃん!! 応援するぜ!!」
美月の発言で、盛り上がる男子生徒達は、美月を応援するのである。そんな、男子生徒達を邪悪な笑みを浮かべて、見回す郁人はこう言い放つのである。
「そうか…まぁ、俺は美月に負ける気はしないがな」
そう、盛り上がる男子生徒達を挑発する郁人に、ゆるふわ宏美は、心の中で悲鳴をあげるのである。それも、そのはず、郁人の発言で、男子生徒達は、あからさまに苛立ち、殺気を向けて、郁人を睨みだすのである。
「わ…私だって…い、郁人には、ま、負けないからね!!」
美月は、まだ、少し自信なさげだが、はっきり、郁人にそう言い放つのである。余裕の笑みを浮かべる郁人を、美月はジッと見つめるのである。そんな、睨み合いが続く中、ぽわぽわしていた梨緒の意識が戻るのである。
「ハッ!! え!? ここは…って、どういう状況なのかなぁ!? ひ、宏美ちゃん…今…どうなってるのかなあ?」
「わ、わたしぃもよくわかりませんよ~」
郁人と美月が対峙して、郁人様ファンクラブ幹部メンバーと、男子生徒達との睨み合いが発生している状況を前に、梨緒はゆるふわ宏美に聞くも、意識が現世にあったゆるふわ宏美もよく理解できていないのであった。
「朝宮!! 貴様……何を企んでいる!?」
「……そうだな……まずは、前哨戦と言ったとこだな……本当の決着は…創立記念祭だ」
やはり、状況が理解できない政宗がそう郁人に喧嘩腰で尋ねると、郁人は邪悪な笑みを浮かべながら、そう言い放つと、男子生徒達はざわざわと騒ぎ出すのである。
「……てめぇ…それは…つまり……宣戦布告ってことだよな!!」
「朝宮……貴様!! 美月に勝てると思っているのか!!」
焦る表情を浮かべる政宗と浩二と、動揺する男子生徒達に対して、郁人と郁人ファンクラブ幹部メンバーは余裕の表情を浮かべているのである。しかし、梨緒とゆるふわ宏美たちも状況を理解できてはいない中、意味深に清楚笑みとゆるふわ笑みを浮かべて誤魔化すのである。
「え!? 何!? ど、どういうことなのかな?」
美月も、完全に郁人が何を言いたいのか理解できていないのである。戸惑う美月に郁人ははっきりこう言うのである。
「美月……そう言う事だ……じゃあ、言いたいことも言ったからな…俺達は帰るとするか」
「え!? い、郁人? よ、よくわからないけど、私は絶対負けないからね!!」
郁人は、この場を後にしようと美月に背を向けて歩き出すと、そうはっきり、郁人に言い放つ美月に振り返り、こう言うのである。
「……悪いが負けるわけにはいかないからな」
「待て、朝宮・・・…貴様本当に何を考えている?」
「……」
政宗が再度郁人に喧嘩腰で尋ねるが、郁人は政宗の問いに答えることはなく、完全に無視して、1組教室に向かうのである。
「郁人様が、ぼこぼこにしてあげますからね!!」
「尊い郁人様にひれ伏すといいわ」
「郁人様…カッコ良い……一生推します!!」
「では、皆さん……そう言う事なのでよろしくお願いしますね」
郁人様親衛隊三人娘は捨て台詞を残し、副会長の1組委員長は、美月と男子生徒達に頭を下げた後に、郁人について行くのである。しかたなく、ゆるふわ宏美と梨緒も、郁人について行こうとするが、そんな二人を浩二が止めるのである。
「待て……細田、三橋……テメェ等は本気で何考えてやがる!?」
「わ、わたしぃに聞かれても~……な、何を考えてるんでしょうかね~?」
「……それは、夜桜さんにでも、聞いた方が早いんじゃないかなぁ? まぁ、聞けるならねぇ」
「な、なんだと!?」
浩二に喧嘩腰で問われて、ゆるふわ宏美は、ゆるふわ笑みで誤魔化すのだが、あからさまに梨緒だけが、清楚笑みを浮かべて、売られた喧嘩を買うのである。
「なんでも、私達のせいにするのは簡単だと思うけどねぇ…それじゃ、何も解決しないからねぇ……まぁ、別に私は夜桜さん達がどうなろうと関係ないから…どうでもいいんだけどねぇ」
「り、梨緒さん…も、もう行きましょう~」
無言でそう言う梨緒を睨む浩二と政宗なのである。あからさまに、最悪の雰囲気に、ゆるふわ宏美は、梨緒を引っ張って、1組教室に連れ戻そうとするのである。
「……おい、ゆるふわ、梨緒…何をしている…帰るぞ」
「あ…はい~…さぁ~…郁人様が呼んでますし~…行きましょう~」
「……そうだねぇ」
ついてこない、ゆるふわ宏美と梨緒にそう言う郁人を、目を見開いて驚く美月は、郁人を追いかけるゆるふわ宏美と梨緒の背中を、ジッと見た後に、郁人を睨むのである。
(郁人……私…郁人には絶対負けないからね)
どうして、いきなり、郁人が勝負を挑んできたのかわからない美月だが、女子生徒達に囲まれて、仲良くやっている様子を見て、美月は闘志に燃えるのである。
「……美月」
「美月ちゃん」
そんな、美月を不安そうに見つめる政宗と浩二なのである。そして、郁人達が見えなくなると、美月は7組教室に戻り、すぐに自主勉強を始めるのであった。全ては、郁人に勝つ為に……。
そんな、美月を心の中で応援することしか出来ない政宗と浩二は、自分達の不甲斐なさを痛いほど理解するのであった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます