第88話乙女ゲーのヒロインは、幼馴染と恋人同士になれたのに、よそよそしくなってしまうのである。 その13
美月は、心に痛みを感じるが、郁人と一緒に居られるならば、何事もかすり傷なのである。二階に真直ぐ向かい郁人の部屋をノックする美月は、郁人の返事を聞いて、部屋の扉を開くと、郁人が床に座って、美月の方を見て、微笑むのである。
「……郁人…」
部屋に入らず郁人を見つめる美月は、人の気も知らないでと少し頬を膨らませて怒る美月に、郁人は立ち上がり近づくのである。
「美月…何怒ってるんだ?」
「私…頑張ったんだよ」
郁人の顔をジッと見つめる美月に、優しく微笑みながら、尋ねる郁人に、自分は頑張ったと郁人に言葉で伝え、悲しそうな表情になる美月の顔をジッと見つめる郁人なのである。
「……そうか」
「……そうだよ」
正直、美月に何が起こって、何を頑張ったのかは、よくわかってない郁人なのだが、美月にツライ出来事が起きて、それを乗り越えてきたことだけは、理解したのである。そんな、郁人にわかって欲しいと思う美月なのである。
「美月…あのふた……いや…美月はよく頑張ったな」
「…郁人!?」」
郁人は、なんとなく、美悠と雅人と何かあったのだろうと思っていたが、結局美月には、そのことに対して尋ねることはなく、美月の頭を撫でる郁人に、美月は、やはり、顔が真っ赤になってしまうのである。
(やっぱり、郁人の事…意識しちゃうよ……ううう~、何で私だけ、だいたい、郁人は、私の事意識してくれてないのかな? うううううう~、なんか、む、ムカついてきた)
ムカムカムカ、苛立つ美月は、上目遣いで郁人を見ながら頬を膨らませるのである。郁人に対して、郁人もドキドキしろと視線で訴える美月なのである。
「美月…何そんなに怒ってるんだ?」
「なんでだと思いますか?」
プンスカ美月が、可愛くて郁人は、怒る美月の頭をもっと撫でると、少し嬉しそうな顔になり、頬が赤く染まるのである。
「い、郁人…そ、そんなことしても、誤魔化されません…私は怒ってます」
「そ、そうか」
美月の頭を撫でるのをやめて、美月が何で怒ってるのかを考える郁人だが、まったく、心当たりがないのである。
「……い、郁人…誰も、やめろとは言ってないよ」
「…何を?」
頭を撫でるのを止めた郁人を、不満気に見て、遠回しに、頭を撫でろと訴える美月だが、鈍感な郁人には、そんな言い方では伝わらないのである。
「……郁人、私は、物凄く怒ってます」
さらに頬を膨らませて、プンスカ怒る美月をジッと見つめる郁人は、何を思ったのか、膨らんだ美月の頬を人差し指で突っ突くのである。
「い、郁人!?」
突然の郁人の行為に、やはり、照れる美月は、慌てふためくのである。そんな、美月が可愛い郁人なのである。
「……い、郁人!! もう…郁人…私、本気で怒ってるんだからね!!」
「いや…むくれる美月が可愛くて…ついな…すまない」
照れながらも、怒る美月に、素直に謝る郁人なのである。
「い、郁人は…私の事……そうやって…わ、私ばかりドキドキして…郁人はずるい!!」
美月が、そう言って、郁人に怒ると、驚きの表情を浮かべる郁人だが、すぐに普段通りの表情に戻り、美月をジッと見つめるのである。
「美月……そんなことで怒ってたのか」
「そ、そんな事じゃないよ!! 私にとっては重要なことだよ!!」
「美月…俺だって、美月と触れるたびにドキドキしてる…今だって、ずっと、ドキドキしてるぞ」
「嘘だよ…だって、郁人……いつも通りだもん」
「嘘じゃないって」
「嘘だよ」
そう言う郁人を、信じない美月は、ムッと郁人を見ているが、信じない美月を、郁人は、抱き寄せるのである。
「い、郁人!?」
ぎゅっと郁人に抱きしめられた美月は、恥ずかしさで、心臓がバクバクしてしまい、両手は、どうしていいかわからず、宙を彷徨うのである。
「美月…ほら……俺も、ドキドキしてるだろ」
美月は、郁人に抱きしめられて、郁人の胸に顔をうずめて、郁人の心臓の音を聞くのである。郁人の心臓もドキドキしているのであった。
「俺も、美月と一緒だ……必死に普段通りに振舞っていただけだ」
「い、郁人…」
美月は、郁人の心臓の鼓動を聞いて、次第に恥ずかしさが薄れていくのである。嬉しさと安心感に包まれる美月は、なんで、自分は、こんなに郁人と触れ合うことを恥ずかしく思い、恐れていたのかと馬鹿らしくなる美月なのである。
「美月…美月には、ずっと、笑っていて欲しい」
「…郁人」
美月は、彷徨わせていた両手で、郁人に抱き着くのである。
「私は…郁人と一緒に居られればそれでいいよ」
「じゃあ……ずっと、そばで笑っていてくれ……美月」
「うん…ずっと、一緒だよ…郁人」
そう言い合ってしばらく抱き合う二人なのであった。そして、しばらくして、美月は、久しぶりに、郁人のベッドにダイブするのである。
「郁人…アニメ見ようよ…最近、全然見れてなかったから」
「まぁ…美月、全然見てなかったよな」
「それは、郁人が悪いんだからね!!」
ムッとする美月は、テレビを操作する郁人を非難するのである。そして、笑い合って、アニメを見ていると、いつの間にか美月は、ベッドで寝てしまうのであった。
「……美月…おやすみ」
そう言って、布団をかぶせてあげる郁人は、スマホを取り出して、ある人物に通話をかけるのである。
「あ…郁人様ですか~? どうでした~? 美月さん大丈夫でしたか~?」
「ああ…大丈夫だ…というか…ゆるふわ…お前も心配性だな」
「…あれだけ毎日連絡してきてた美月さんから、突然連絡来ないと不安になりますよ~」
ゆるふわ宏美は、昨日美月から、連絡がなかったことに不安を覚えて、郁人に確認の連絡を取っていたのであった。
「直接美月に連絡すればいいだろうに」
「……そうですね~」
郁人がそう言うと、覇気のない返事をするゆるふわ宏美なのであった。
「…美月さんが無事なら問題ないですよ~…でも、何かあったなら~…相談してほしかったですね~」
「…ゆるふわ?」
ぼそりとそう言うゆるふわ宏美の言い方に疑問を感じる郁人なのである。
「いえ~…何でもないですよ~…ただ、相談されないというのは~…少し寂しいものですね~」
「…そうだな」
ゆるふわ宏美に、そう言われ、同意する郁人は、寝ている美月を見ながら、後で、美月にゆるふわに連絡するように伝えようと思うのだった。
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