第38話ギャルゲの主人公と乙女ゲーのヒロインは、超上機嫌になるのである。

 いつの間にか寝てしまった郁人は、ふと目が覚める。美月は、郁人に寄りかかり、スヤスヤ眠っている。そんな美月を見て、郁人は微笑むのである。


(美月は…やっぱり天使だな……って…まずい…時間)


 郁人は、美月に見惚れていたが、ハッと、時計を確認すると、もう19時を過ぎている。美月が帰る時間をオーバーしていた。


「お…おい…美月、起きろ」


 郁人は、完全に郁人に体を預けて、安眠している美月を揺すり起こそうとする。ううっと目を擦りながら美月が目覚める。


「うう~…なぁに…どうしたのぉ…郁人…あれ…私…寝てたの?」


 美月は、まだ、完全に起きてないのか、ぼーっとした表情で、郁人のことを見ながら、そう言って、目を擦る。


「美月…時間…帰る時間だぞ…起きろ」

「…え? あ…ああぁぁ!! やばいよ!! もうこんな時間!!」


 美月も、ぼーっとしながら時計を見て、慌てて覚醒する。そして、お互い視線が合う。


「あ…美月…言っておくが…さっきの出来事…夢じゃないよな? 美月は…俺の…彼女でいいんだよな?」

「え…そ…そうだよ!! い、郁人こそ…私の…か…彼氏だよね?」

「ああ…勿論だ」


 お互い、恋人同士であることを確認しあう二人は、そんなやり取りが、面白かったのか、二人とも笑顔になる。


「これからも…よろしくな…美月」

「うん…郁人も…よろしくお願いね」


 お互いジッと顔を見つめ合って、いい雰囲気になるが、お互いほぼ同時にハッとなる。


「美月…急いで帰らないとな」

「そ…そうだね…早く帰らないと…」


 そう言い合って、お互い、慌てて郁人の部屋から出て、階段をバタバタと降りていく、そして、リビングで深刻そうな表情の、郁人家一同に美月は満面な笑みを浮かべる。


「夜遅くまで、すみません…お邪魔しました」


 ぺこりとお辞儀をする美月に、疑問顔を浮かべる郁人家一同であった。来た時とは打って変わって上機嫌な美月なのである。


「じゃあ…俺は美月を送ってくから」

「いいよ…隣だし…」

「いいって…隣だからな…そ…それに…美月は…俺の…彼女だしな」


 郁人は、頬を掻きながら、そうぼそりと美月に言うと、美月は顔を真っ赤にして、伏せてコクリと首を縦に振るのである。


 そんなやり取りを見て、衝撃を受ける郁人家一同であった。






 美月は、郁人に家の前まで送ってもらって、家に帰ってきた。郁人に手を振って別れて、玄関に入ると、美月のテンションがマックスになった。


「うううぅぅぅぅ!! やったよぉぉぉ!!」


 玄関で美月は嬉しい悲鳴を上げて、バタバタと謎の喜びの舞を踊っている。そのあまりの奇行ぶりに、リビングから、何事と母の美里が顔を出すのである。


「ちょっと…美月ちゃん…何やっているの!!」


 母の美里は、我が娘の奇行を前に、驚きを隠せないでいたのである。心底心配しているのである。


「ふへへへぇ…何って…何って…えへへぇ…」


 美月は、顔を真っ赤にして両手で隠すのである。これは、謎の奇行を家族に見られて恥ずかしかった訳ではなく、彼氏となった郁人のことを思い出して、照れてしまった美月の照れ隠しである。


「ちょ…美月ちゃん…本当に大丈夫!?」


 しかし、母の美里に、そんなことがわかる訳もなく、ただ、心配になって、美月に駆け寄るのである。


「あ…ただいま…お母さん…その…私…い…郁人とお付き合いすることになったよ」


 美月の両肩をつかんで、不安そうに美月を見ていた母の美里に、頬を染めながら、視線を逸らして報告する美月である。


「え…そ…そうなの? お…おめでとう…美月ちゃん」


 唐突に、そう報告されて、戸惑う母の美里である。完全に思考が追い付いてなかった。しかし、それは仕方ないことである。昼に超ご機嫌斜めで出て行ったかと思うと、夜には超ご機嫌帰宅な美月に疑問しか抱けないは仕方ないのである。


「じゃあ…ご飯の準備するからね…フフフ」


 美月のにやけ顔は収まらない。そして、この会話を聞いていた。父の公人と妹の美悠は、放心状態となっていたのである。






 郁人は、家に帰って、リビングに行くと、深刻な面持ちの、母の麻沙美と弟の雅人が、ダイニングテーブルで座っていた。


「お帰り、郁人…美月ちゃんとは、どうなったんだい?」


 父の晴人が、郁人に近づいてきて、にこやかに訊ねるのである。


「あ…ああ…正式に…その…付き合うことになった」


 郁人は、視線を逸らして、照れくさそうに、父の晴人に報告した。父の晴人は、そうかそうかと、郁人の肩を叩いて嬉しそうである。


 しかし、母の麻沙美と弟の雅人の表情は、完璧に死人になっていた。青ざめて放心状態の二人である。


「あ…悪い…晩飯の準備するな」


 郁人は、そんな二人を見て、腹をすかしているのだろうと思って、いそいそと、晩御飯の準備を始めるのであった。






 そして、夜、郁人は自室で、ある決意をしていた。スマホを持ち、気合を入れて、スマホ画面の通話ボタンを押すのである。


「あ…い…郁人…どうしたの?」


 ワンコールで通話に出る美月は、そう郁人に訊ねるのであった。郁人は呼吸を整える。


「美月…その…俺達…恋人同士になったわけだし…」

「そ…そうだよね!! うん!! 私達は恋人同士だよね!!」


 郁人のその一言に、嬉しくなる美月は、えへへと照れ笑いをしている。そんな美月に、癒される郁人の緊張感は薄れ、再度、気合を入れるのである。


「美月…明日…日曜日だし…その…デートしないか?」


 そう郁人は、美月をデートに誘うのだった。断られないとは、思う郁人であるが、緊張の面持ちで美月の返事を待つのである。


「う…うん…いいよ」


 美月は、真っ赤になって、郁人の誘いを受けるのだった。郁人は、ガッツポーズをして、美月もやったとガッツポーズをする。


 その後、二人は、明日どうするかを話し合って、今日は、逆に昼に寝たことと、明日のデートが楽しみすぎて、やはり眠れなかった二人であった。

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