第34話ギャルゲの主人公と乙女ゲーのヒロインは、滅茶苦茶気まずい雰囲気である。
美月は、重い足取りで、郁人の家に向かう。こんなに幼馴染の家に行くことが不安になるのは初めての事であった。しかし、美月にとって、郁人の家に行かないという選択肢ないのである。
結局、不安で、郁人に別の女性が好きだと言われたとしても、郁人とは一緒に居たい美月なのである。
相変わらず、手慣れた手つきで、合鍵を使って郁人家に入る美月は、リビングにいる雅人を見ることなく二階の郁人の部屋に向かう。
美月の表情は完全に死んでいた。
「え? 姉貴? え?」
いつも必ず、挨拶をしてくれる美月が、死んだ顔で二階に上がっていくのを目撃して雅人は、物凄く戸惑って、ソファから飛び起きて、リビングを出て、階段の方を見る。
美月はふらふらと階段を上っていた。
「あ…姉貴…どうしたんだ!? 兄貴と何かあったのか…しかたねぇ…あいつに聞いてみっか」
雅人はポケットからスマホを取り出して、ある人物に通話をかけるのだった。
郁人は、自分の部屋で正座をして美月を待っていた。ぼーっと壁の一点だけを見つめて、美月が来るのを待つ郁人である。
そして、郁人の体がビックとはねる。美月が扉の前にいることを体が感じ取ったのである。そう、美月は、扉の前まで来ていた。
(美月が…来た…しかし…なんで、ノックしない? 美月…どういうことだ?)
郁人は、扉の前で美月が立っていることはわかっていた。いつもなら、ノックしてくる美月がいつまでたっても、ノックしない。
物凄い緊張感が郁人を襲う。心臓がバクバク鳴っている。あまりの緊張に、胸を押さえる郁人である。
しかし、それは、美月も同じであった。重い足取りで、なんとかここまで勇気を出してやって来た美月だが、郁人の部屋の前にたどり着いて、固まってしまった。
美月の心臓はバクバク鳴っている。もはや、口から心臓が出てきそうなほどである。
(……あ…い…郁人に会って…な、なんて言えば…あの子のことを聞いて…って…聞いて大丈夫なの!? じゃあ…ハーレムのことを聞いて…で、でも、それって…聞いていいのかな!? ああああぁぁぁぁ!! どうすればいいのぉぉぉ!!)
扉の前で完全に思考の中で絶叫している美月である。
「…み…美月…来てるのか?」
郁人は、あまりの緊張感に、扉に向かってそう喋る。もしも、美月が来てなければ独り言である。しかし、扉から美月の物凄いオーラを感じる郁人は、美月がいると確信している。
そもそも、郁人は、美月がノックする前に、彼女が部屋の前に来ていることがわかる特技を持っているので、間違えるはずがないのである。
しかし、美月はそんなことを知るはずもなく、驚きのあまり悲鳴をあげそうになったが、なんとか抑え込んだ美月である。
「え…あ…い…郁人!?」
超焦る美月である。冷や汗が出て心臓バクバクな美月は、滅茶苦茶テンパっている。そもそも、美月は、まだ心の準備ができていないのである。
「ど…どうかしたのか? は…入っていいぞ」
郁人は、何とか声を絞り出す。美月がなぜ、部屋に入ってこないのかが疑問で不安で、冷や汗ダラダラの心臓バクバクな郁人なのである。
「え…あ…う…うん…そ…そうだよね…あ…えっと…そうだよ…ね」
美月は、郁人に入室を急かされたと思い焦る。超焦る。まだ心の準備ができてない美月は、扉を開く勇気の値が足りないのである。ドアノブに手が伸びては、引っ込め、伸びては、引っ込めを繰り返す美月である。
(ドドド、どうしたんだ!? 美月!? な…何か…あるのか!? ま…まさか…美月が…あの、自称幼馴染のことを好きになったとか…そのことを俺に言いにくくて…それで、美月は部屋に入りにくいのか!?)
(い…い…郁人が…あの、自称幼馴染名乗ってる子の事を好きだったら…ドドド、どうすればいいのよ…わ、私…そんなこと言われたら…死ぬよ…死んじゃうよ…郁人!! ああああぁぁぁ!! どうなのよ!?)
お互い扉を、ジッと見つめて、マイナス思考に陥っている。
(ま…待て…大丈夫だ…お…落ち着け、俺…美月は…逆ハーを目指している訳で…こ、これは仕方ないことなんだ…そうだ…落ち着け…落ち着け…俺…大丈夫だ…美月の逆ハーメンバーにしてもらえば全て解決だ…大丈夫だ…何も問題ない…はずだ)
(よ…よく考えるんだよ…私…よく思い出して…郁人は始めから、ハーレム王になるって言ってたよね…つ、つまり、こ…これは仕方ないことなんだよね…そうだよ…うん…それに、私も、郁人のハーレムメンバーになれば、全て解決だよね!! うん!! もう…何も問題ないよね)
お互い、テンパりすぎて、変な方向に考えが向かっていってしまう。美月は、意を決して扉を開くのである。
「あ…ああ…み、美月…よ、よく来たな」
「あ…う…うん…き…来ちゃったよ」
扉が開くと、郁人と美月は、お互い目が合うとよくわからない挨拶を交わす。そして、いつもなら、美月は真っ先に郁人のベットにダイブするところを、呆然とドアノブを持ったまま固まっているのである。
「み…美月? ど…どうしたんだ? 部屋に…入らないのか?」
郁人は、そんな美月の不審な行動に、不安を感じるのだった。完全に声が上擦っている郁人なのである。
「え…あ…うん…そうだよね…じゃ、じゃあ、入ろうかな…入って…いいのかな?」
「え…いや…は…入っていいぞ」
郁人と美月は見つめ合う。お互い冷や汗が流れるのである。美月は、完全にドアノブを握り締めて、入ってくる気がないようである。下手したら、そのままドアを閉じる勢いである。
「そ…そうだよね…うん…あ…あ…い、郁人…今日は…その…いい天気だよね?」
「え!? あ…ああ…いい天気だな…ど、どうした? 美月?」
「な…なんでもないよ…なんでも!!」
美月は、今日の出来事を訊ねたかったが、やはり、途中で誤魔化してしまう美月なのである。そんな美月に、ますます、不安な気持ちを増幅させる郁人の緊張感はヤバいのである。もはや、吐き気すら覚える郁人である。
「と…とにかく…部屋に入らないか? 美月? そ…そうだ…昨日、見てない分のアニメでも見ないか?」
「え…そ。そうだね…昨日、郁人の家に行けなかったしね…そ、そうだよね…あ、アニメ見ようよ…うん」
郁人は、アニメを見ようと、美月に提案して、リモコンでテレビを操作する。そんな郁人をやっぱり、ドアノブを握り締めて見つめる美月である。郁人は、そんな美月を、横目で確認しながらテレビを操作する。
(ど…どうしたんだ? 美月…なぜ…部屋に入ってこないんだ? 何かあるのか? 美月? やはり、あの自称幼馴染のことが…そうなのか!? 美月!?)
(き…気まずいよ…どうすればいいのよ…私……郁人が、物凄く険しい表情をしてるよ…でも、郁人の部屋に入って…郁人に…郁人に…あの子のことが好きって言われたら…いやぁぁぁぁ!! やっぱり、いやぁぁぁぁぁ!!)
美月は、あまりの緊張感に耐え切れずに、勢いよく扉を閉めて、走ってこの場を後にした。そう、美月は逃亡してしまったのである。そんな美月に呆気にとられる郁人は、呆然とリモコンを持ったまま固まるのであった。
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