第33話ギャルゲの主人公と乙女ゲーのヒロインは、とても気まずい雰囲気である。

 そして、郁人は政宗と別れて、重い足取りで、家に向かっていた。先ほどの会話を思い出して、スマホを取り出す郁人は、美月に通話しようと思ったのである。


また、美月も、不安の感情を抱いたままに、重い足取りで、家に向かっていた。美月は郁人に、通話を入れようとスマホをバックから取り出した。その時、郁人から通話がかかってくるのだった。


「い…郁人?」

「あ…ああ…美月か?」


 お互い、スマホで相手が誰かわかっているのに確認しあうのである。正直、先ほどの出来事もあり気まずい雰囲気である。お互い不安の気持ちを抱いていた。


「み…美月…その…今どこにいるんだ?」


 郁人は、物凄く不安だった。政宗のことを訊ねたかった郁人だが、やはり、訊ねられずにいた。そして、美月が、どこにいるのかも気になる郁人であった。


「えっと…郁人こそ…どこに…いるのよ?」

「俺か? 俺は、今から家に帰るとこだ」

「わ、私も今家に帰ってるとこで…」

「そ、そうなのか!?」

「え!? そ、そうだよ!? 郁人こそ本当に家に帰ってるの?」

「ああ、本当に家に向かってる」


 会話がぎこちない二人である。こんなに会話がぎこちないのは、二人にとって、ほぼ初めての経験だった。お互い、少し安心するも、やはり不安で、本当のことを言っているのか疑心暗鬼になってしまっている。


「そ…その…郁人…今日……郁人の家に行ってもいいかな?」

「あ…ああ、もちろん…美月なら、いつでも大丈夫だ」


 美月も梨緒のことを郁人に聞きたかったが聞けずに、いつも通り郁人の家に行っていいかを訊ねる美月なのであった。そんなぎこちない会話をしていると、お互い、偶然帰り道で出会う。朝一緒に居たはずなのに、とても長い時間、一緒に居なかった気がする二人は、立ち止まり、数秒間見つめ合うのだった。







 郁人と美月は、その後、二人で並んで、家に帰ってきたが、お互い無言で気まずい雰囲気での帰宅となってしまった。やはり、先ほどの自称幼馴染との会話を気にしている郁人と美月なのである。


 お互い、郁人は、政宗のことを、美月は、梨緒のことを訊ねたかったが、やはり聞けずにいた。


「じゃあ…後で……郁人の部屋に行くから…」

「ああ…待ってるな」


 そう言って、郁人と別れて、自分の家に入る美月である。美月は、玄関の扉を開けて、中に入るとため息が出る。


「うう~…何で私…郁人に、あの子の事聞けないの!! 郁人のそばに居たいって言えないのよ…ああああぁぁ!! 私のばかぁぁぁ…!!」

「ちょ…お姉ちゃん!! うるさいよ!!」


 リビングから、美悠が大声で美月を怒鳴っている。かなりお怒りのようである。


「う…ううう、美悠~!!」

「わ、な、なに!? どうしたの!? お姉ちゃん!?」


 リビングに妹の美悠がいることが分かった美月は、リビングに向かって、美悠に泣きつくのである。


「い、郁人がぁ~!! 郁人がぁ~!!」

「なに!? お兄ちゃんがどうしたの!?」

「郁人がぁ~!! 女子生徒に囲まれて~…ハーレムなんだよ!!」

「…は?」


 美悠は、姉の美月が何を言っているのかを理解できなかった。とりあえず、取り乱している姉を落ち着かせる美悠だった。


「で…何…お兄ちゃんが、女子生徒にモテモテと…それって、今更だよね? だいたい、お姉ちゃんは少し反省して!! 私お姉ちゃんに何回泣かされればいいの!!」

「な、なんの話よ!? でも、可愛い女の子に囲まれてて、わ、私は、クラス違って、話しすらできなくて…ど、どうすればいいのよ」

「はぁ~…知らないよ!! 自分で考えれば!! お姉ちゃん…もう少し、周りを見て!! それに…どうせ、今日もお兄ちゃんの家行くんでしょ!!」

「うう~…そうだけど…今は…い、行きたくないよ!!」

「じゃあ…行かなければいいじゃん」

「それは、絶対嫌だよ!!」

「お姉ちゃん!! どっちなのよ!!」


 美悠はヘタレて泣きつく姉に、怒りをあらわにする。しかし、姉の美月が、兄の郁人の家に行きたくないと言うのは重症だとだと思う美悠なのであった。


 そして、美悠は姉を突き放して、リビングから追い出す。正直言って、美悠からすると泣きたいのは自分の方であった。


「はぁ…ほんと…私何やってるんだろ」


 そうぼそりと美悠の独り言がリビングに響いた。






 郁人は、家に帰ると、玄関で大きなため息をつく、すぐに洗面所で手洗いを済ませて、リビングで、制服のままふて寝している雅人を見つける。


「兄貴…おかえり…」

「あ…ああ、ただいま…き、今日…この後…美月が来るからな」

「あ…ああ…って、いつものことじゃねーか」

「それだけだ」


 そう言って、自分の部屋に向かう郁人に疑問顔浮かべる雅人であった。


「兄貴…姉貴と何かあったのか?」


 ため息がこぼれ雅人は、とりあえず、ふたたび、リビングのソファーでふて寝するのであった。


 郁人は、部屋に入ると、制服から私服に着替えて、美月を緊張の面持ちで待つことにした。


(ま、まさか、美月に家に来てほしくないと思う時が来るとは…いや、来てほしいが…今は気まずいというか…あいつのことを美月に聞かないと…でも…ああ…俺は何をやってるんだ)


 一人自室で、頭を抱えて、悶々として、美月を待つ郁人であった。

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