第24話ギャルゲの主人公と乙女ゲーのヒロインは、ライバル出合うのである。
美月が、一人ハーレム入り宣言をしていることなどつゆ知らずの郁人は、一限の授業の後の休憩時間に美月に会いに行こうとする。
席を立ち、美月のクラスに足を運ぼうとする郁人に、やはり、立ち塞がるのは、ゆるふわ宏美である。満面な疑惑のニコニコ笑顔である。
「郁人様? どこに行く気ですか~?」
「……」
美月の所に行こうとしていた郁人であるが、それをはっきり、宏美に言っては邪魔されるのは予測済みである。そのため、無言を貫くのである。
「まさかとは思いますけど~? 夜桜さんの所に行こうなんて言いませんよね~?」
そう上目遣いのゆるふわ笑顔でそう確信をついてくる宏美に、視線を逸らす郁人である。
「だいたいですね~……また、そんなところを、梨緒さんにでも見られたらどうするんですか~? わたしぃ嫌ですよ~…新学期早々に、自分の学校で流血事件なんて~」
「いや、さすがに、それは……ないよな?」
「……」
否定しきれない郁人と宏美であった。しかし、そんなやり取りをしていると、二人に疑問が浮かぶのである。
「…あれ~? 梨緒さん…いませんね~…いつも真っ先に郁人様の所に来られるのに変ですね~」
「あ、ああ…そうだな」
少し、嫌な予感がする郁人は、立ち上がり、美月の教室に向かうことにする。そんな郁人の腕をつかむ宏美である。
「どこに行くんですか~? 夜桜さん所には行かせませんよ~!!」
「おい…放せ、このゆるふわ!」
「なんですか~!? ゆるふわって~!!」
腕にしがみついて、ちっこいくせにものすごい力で、郁人を引き留めようとする宏美を、引きずって廊下に向かう郁人だった。
美月は、郁人のハーレムのメンバー入り宣言してから、一限の授業中ずっと考え込んでいた。
(でも、ハーレムモノでも、正妻っているよね? つまり、私は、正妻ポジションを狙っていけばいいのよね……とにかく、終わったら、郁人の所に行って、郁人のハーレムに入れてもらって、ライバルに正妻宣言してやればいいのよね)
そんなことを、考えていた美月である。そして、一限の授業が終わるとともに、美月は立ち上がり、郁人の所に行こうとする。
「美月ちゃん…どこ行くんだ?」
「ごめん…どいてもらえる?」
美月の行く手を阻む浩二である。いつになく真剣な表情を浮かべている。美月も、浩二を睨む。
「悪いけど……朝宮のとこに行くって言うなら、邪魔させてもらうぜ」
美月は、男子生徒に囲まれる。美月はあたりを見回して、ため息をつく。
「ねぇ? どうして、そこまで私の邪魔するのよ?」
「今の美月ちゃんに言っても、たぶん理解できないからさ…それに、やっぱ、悲しむ顔は見たくねーんだよ」
浩二は、どこか悲しそうな表情でそういう。美月は、深呼吸して、瞳を閉じる。
「ごめんね…私も、引く訳にはいかないんだよね……どきなさい!!」
美月は、瞳を開いて、男子生徒を一喝する。美月の気迫に男子生徒達もたじろぐのである。そして、少しの隙間ができたと思った美月は、その隙間に突入する。必死に男子生徒の隙間を抜けて、廊下に向かう美月である。
しかし、美月も浩二も、気がついてなかった。こんな激しい攻防を繰り広げているのに、正宗の姿がないことに、誰も気がついてなかったのである。
梨緒は、授業が終わると、真っ先に、7組に向かっていた。もちろん、美月に会うためである。ヤンデレ梨緒は本気で美月と話し合おう決意を固めたのである。
そんな梨緒の姿は、まさに仁王のごとくと言える。そして、もう一人の仁王のごとく、廊下を歩く人物がいた。
政宗である。彼もまた、授業が終わり、真っ先に1組に向かっていた。もちろん、郁人に会うためである。郁人と決着をつけるつもりでいる政宗である。
そして、二人がすれ違う。二人の仁王がすれ違う。一瞬お互いの視線が合うが、それも一瞬だった。すぐに正面を見据えて、目的の場所に向かう二人なのであった。
「郁人様~!! 絶対に行かせませんよ~!!」
「いい加減に放せって、このゆるふわ!!」
郁人は、腕にしがみついている宏美を引きずりながら、廊下を歩く、物凄く目立っている。
「……郁人様は、ご自身の身分を考えてください~!!」
「俺は、ただの一般庶民だ!!」
「そういう意味じゃなくてですね~!!」
必死に説得しようとする宏美は、もはや、死に物狂いである。いつものニコニコ笑顔などかなぐり捨てて、必死の形相である。
「貴様は……美月にあれだけ……朝宮郁人!! 俺はお前に話がある!!」
郁人と宏美のやり取りを見て、烈火のごとく怒り出す政宗は、そう郁人を怒鳴りつける。そんな政宗に、郁人と宏美は、ポカーンとしている。とりあえず、一時休戦する郁人と宏美であった。
美月は、何とか、廊下に出ることに成功するが、浩二に腕を捕まえられる。必死に抵抗するが、浩二の力は強くて、振り払えない。
「放してよ!!」
「ダメだ……行かせないぜ…美月ちゃんは自分の立場が何にもわかってねーんだよ!」
「何よ!! 私の立場って、私は私でしょ!! いいから放してよ!!」
美月は、そう言い放つが、浩二は美月に壁ドンする。さすがに、突然の壁ドンに美月も恐怖を覚えるのである。
「美月ちゃん……いいか、君は学園のアイドルなんだぜ」
「だから、私は、そんなものになった覚えはないのよ!!」
「自覚があろうーが、なかろーが、美月ちゃんは、学園のアイドルなんだよ!!」
お互い激しく言い合っている。そんな中、一人の少女がその光景をジッと見ていた。
「そう……夜桜さん…郁人君に…あんなに郁人君の瞳を独占しといて…本当にあなただけは……絶対に許せない」
ヤンデレの梨緒がそこにいた。さすがにただならぬ雰囲気を感じ取った浩二は美月から離れる。美月は、何を言われたのかわからないと、呆然と睨んでくる梨緒を見つめるのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます