第157話 火星戦線(2)



 ※



 ジークを岩山の影に潜ませての戦略会議となった。


「まず前提として、敵はこちらの情報を完全に得ていると思います」


ヴォイドが、特殊な連絡手段を持っていると言うのか?だが、今この星系内では、念話や、その他の全ての周波帯で通信封鎖がなされている。触れる程近くにいるか、神界の様に特殊な周波帯を確保出来ていなければ、それは無理だ】


 ゼンも、中にいる従魔達とはともかく、母星にいるミンシャやリャンカとは念話出来ないのもそのためだ。


【スキル等の特殊な力や、異能力も同様じゃよ】


「……でも、あのヴォイド三体が、元々同一の個体だった、としたらどうでしょうか?」


「あの三体が、元は一つだったとお主は言うのかや?」


「うん。それなら、同一個体の完全親和性で、見ている物、聞いている物は、そのまま他の個体お見ている事になる。これは、同一であるが故の現象で、遮る方法はない、と聞いたのですが、違いますか?」


 それは、その通りだが、確かにスライムのように分裂性質を持つ魔物にある性質ではあるが、余り意味のあるものとは見なされていなかった。


 つまり、1匹のスライムが分裂した場合、そこには元の半分の大きさのスライムが、元の半分の力をそれぞれ持って、個となる。


 そのスライムが、知性が高く、完全な連携を、その増えた自分の分身と出来たとしても、力は二分の一。確実に弱くなった分、各個撃破の標的になりやすくなった面が大きい。


 それは、数を増やそうとも同じだ。小さくなった分、見つけにくくなる等の利点はあっても、確実に弱くなり、元の強さを取り戻す為にはかなりの年数がいる。そしてその場合、自分の分身達は、協力出来る良き仲間になるが、狩った獲物を奪い合うライバルにもなってしまう。


 それらが、分裂によって増える事の難点であり、自分を増やす意味では難点の方が多く、大きいので、冒険者やギルドでは、余り問題視されていなかった。


 それなら術やスキルで、自分の分身(コピー)を一時的に作る能力の方が、余程実用的で、手強い相手と見なされる。


「俺は、あのヴォイド達が、3体で小隊行動しているみたいだ、と聞いた時から、少し違和感を覚えていたんだ。


 ヴォイドには、『神を造ろうとする星の破壊』以外は命令が、何もなかった、だっけ?なら、仲間と力を合わせて、とか3体で一緒に行動しろ、とかの命令もなかった事になる」


【ふむ。それで、あれが元は一つの個体ではないか、と思うようになったのじゃな】


「はい。多分、アレは、一体一体が造られて、ある程度の力を与えられてばら撒かれてからは、自分達の判断で、敵を倒し、吸収して自己進化し、エネルギーを蓄えって行って、より強くなったんでしょうが、それの何処かで、分裂して自分の予備を造ったのでしょう。自分が倒されても、その成果が残せ、協力出来る相棒として。そしてまたある程度力を蓄え、3体になった。


 多分、この世界に来たヴォイドは2回目ですが、その双方が3体なのは、3体ぐらいが、ある程度以上の強さを維持しつつ、分裂する最適解の経験則、何じゃないでしょうか?


 強そうな相手には、最初に捨て石として1体を当て、そこで相手の強さや、どういった戦い方をするか、を観察して、次に2体で攻略法を考え準備して、殲滅する、みたいな。そして戦いが終わり、力を余剰分補充出来たら、分裂して3体に戻る、と」


「……ゼンは、いつもそんな頭の痛くなるような、七面倒くさい事を考えているのかや?」


 アルティエールは頭が悪い訳ではないので、話は理解出来ているのだが、面倒な事を考える事、その物が苦手で嫌いなのだ。


「いや、多分、詰め込まれた知識や、飲んだ“知恵の泉”の水のせいもあると思うよ」


 とゼンは言っているが、二柱は、むしろその情報を土台にして考える、頭脳の方が問題だろう、と思っていた。


【とりあえず、それで合っていると仮定して、ここのヴォイド達は、何をやって、ああなったと思うのじゃな?】


「そこが問題で、俺には予想するしか出来ないんですが、最初の戦闘で、ヴォイドもジークの力の総量等を、大体のところまで測り、自分達がまとまっても、とても勝ち目のない敵だと判断したんでしょう」


「ふむ。それは、神々の予測通りじゃな」


「なので、どうすれば勝てるか、と方法を模索した結果が―――」


 ゼンが話した手段は、とてつもない話だった。


【ジークに勝つ為には、それぐらいやらなければならない、と相手は判断した、か。で、それは実際の所、ヴォイドに実現可能なのか?】


【今までの戦いぶりや、こちらの力を妨害出来る事なども鑑みて、ヴォイドは前に来襲した個体の3倍以上のエネルギーを有しているのかもしれん。それでも、実現可能かは、怪しいものじゃ】


【しかし、出来たから、向こうはその力で攻撃して来てるんじゃないのか?】


【いや、その一部のみ、をかすめ取ったのかもしれんじゃろう】


「でもそれだけじゃ、ジークには勝てないんじゃないですか?」


【……それは、そうじゃのう……】


「しかし、出来るものなのかのう。星の“核”を吸収するなど……」


【……星の核(コア)、内核は、太陽の表面温度にも匹敵する。それを、自分が燃え尽きずに、逆に吸収までするとなると……。外核を超えるのも難しいじゃろう】


「だから、二体で分業してるんじゃないでしょうか。一体が、温度を抑え、もう一体が吸収に集中する」


【そう上手く行くかのう……】


【ここで考え込んでいても仕方がない。確かめてみるしかないであろう】


「確かめる?何を、どうやってじゃ?」


【こちらも地下に潜り、星の核(コア)が無事かどうかを、だ】


「表面に出て来て、襲って来る敵が、本体でないのは確かですし、やるしかないでしょうね」


「地底探査って今時、中に地下世界があって、中心に地下太陽がある訳じゃ、ないんじゃぞい」


 またアルティエールが趣味的な話をしている。地下にそんな、地下帝国がある話でも知っているのだろう。


「やるとしても、出来るだけ、地下深くまで開いている穴だの地割れだのでもあれば、少しでも穴掘りの手間が省けるんですが。ある程度は、ボンガの『鉱物分解』、のスキルで柔に出来ると思います」


 ―――


【―――んむ……。南半球に、隕石の落ちたクレーターがあるのじゃが、その中に、大きな地割れの起こった物があった筈じゃ。そこからなら、ある程度地下深くから始められるのじゃなかろうかのう……】


 ミーミル知恵の神も、火星に来てまさか地下に行く等思ってもみなかったのだろう。


 かなり長い間考え込み、あるいは神界の他の神の助けも借りたのか、ようやく、そのルートを割り出してみせた。


「なら、一度飛んで、そちらに行けばいいんですね?案内(ナビ)、お願いします」


 ゼンは、ジークを岩山の影から出すと、最大出力で飛び立ち、ある程度の高度を保つ。


 ジークに気が付いた溶岩龍達は、一定以上の長さまでしか首を伸ばせないらしく、光弾を放ってくるが、距離が離れる程、それを避けるのは容易になる。


 神からの指示で、ジークを指定の地まで飛ばせる。


 どうやら、今までは北半球よりだったらしく、かなりの距離を飛行した。


 そして見えて来る、とてつもなく大きなクレーターと、その中心近くに、まるで円を割る直線のように存在する、長く幅の広い地割れが。


「まるで、地獄まで続く、冥界の門、じゃな……」


 面白半分に言っているようで、一抹の不安が含まれているアルティエールの呟きは、状況をよく現わしていた。


 確かに、ジークの巨体からでも広く暗く、底の見えない地割れは、まさに地の底の、得体の知れない世界への門のようであった。


「行きます。何処まで行けるかは、分りませんが……」


 ゼンは、ジークをそのままの態勢で突っ込ませた。


 いつ何時、またあの溶岩龍が現れるのか分からない。


 もたもたして邪魔されては、目的が果たせないだろう。


「もし、核(コア)が無事であるなら、あのヴォイドは何なんじゃろうな」


「どこかの溶岩溜まりか、マントル層でも吸収したのか……」


 そう推察を言ってみるが、ゼンは多分違うと思っている。


 あの、地表での、全てから見られ、監視されている様な感覚は、まるで星そのものが敵にでもなったかのような、落ち着きの無さがあった。


 もし敵が、星の核(コア)を吸収したとしても、星は生き物ではない。そこに転がる岩や砂、大地そのものが敵になる訳ではないのだが、それに近い感覚はする、それだけで答えは……。


「……地割れが、段々狭まって来ました。温度も、少しづつ、上がって来てます」


 底の無いように見えた地割れも、当然だが底はあるようだ。


 ゼンは、ジークの速度を緩め、機体を擦らない様に注意しながらも、地割れの奥へ奥へと進んだ。いや、落ちて行った。


 途中から、足を下向きにして、逆噴射で速度を急激に落とした。


 あるいは、ジークでないのならまだ進めそうな、地割れの奥に着いた所で、ゼンはジークを一旦停止させた。


「やれやれ。これから穴掘りじゃな。土方作業等、可憐なハイエルフのする事では、ないのじゃがなぁ……」


 別に、自分で肉体労働する訳でもないアルティエールが、場違いな文句をたれる。


「まだだよ。敵も気づくだろうけど、もう少し楽をしよう」


「へ?ゼン、何を?」


 ゼンはジークの手を地割れの狭い所に差し込むと、全身全霊の力を込めて、それを広げ出した。


 ジークの機体全面から、青い光が広がり、閃光となって、地の底で光輝いた。


「うぅぅぅ………うぉ~~~~っ!!!」


 その時、物凄い地響きと振動を伴なって、地割れは更に広がりを見せた。


 と同時に、そこかしこからまた、溶岩龍が現れるのだった。











*******

オマケ


ア「少佐、見て下さい!私の専用機、“スルト”がようやく完成したんです!」

ゼ「ふむ。良さそうな機体じゃないか」

ア「これで、少佐の“フェンリル”について行けます!やっと、少佐のお役に立つ事が出来ます……」

ゼ「私個人の我が侭としては、アルを前線に出したくなんだがな」

ア「それじゃ、一生恩返しが出来ません!」

ゼ「いつもこうしてして、返して貰っているのに?」

(二人の影が、重なり合う)


ア「ぐふ…ぐふふふふ……。なんつてな」

ゼ「人の妄想にケチつけても仕方がないけど、こっちの人間関係的には、アルの方が上官じゃないの?」

ア「うむう。それもあり、なんじゃが、こっちも捨てがたくて、のう……」

ゼ(それに、俺のキャラじゃないでしょ、これ。アルもだけど……)

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