第112話 婚約祝い☆
※
「おおぉ!」
ゴウセルは、小城の外観を見上げ、開口一番、感嘆の声を上げ、
「おおぉ!!」
中に入ってまた感嘆の声を上げている。
仕事中以外の、半数ぐらいの子供達が、行儀良く、主人の養父母を、嬉しそうに迎えてくれるのは、壮観な光景だし、子供達の教育が中々行き届いている事が確かめられ、ゴウセルとレフライアはそれにも感心していた。
「話には聞いていたが、想像以上の場所だな。子爵や伯爵の城、と言っても通用するぐらいの規模だな。綺麗に改装もしたようだし」
「私は、この城の、組んだ岩がむき出しの所が、風情があっていいと思うわ。
成程、表面は魔術でシールド加工してるのね。面白いわ」
「ここが作りかけだった事もあって、色々安上がりな工夫をしてあるんです。
で、ここで紹介するのもあれなんですが、俺が婚約した、サリサとザラです」
ゼンは、婚約者の二人を親に紹介する。一人は紹介するまでもないサリサだが。
「お義父さま、お義母さま、サリサです。改めて、よろしくお願いします」
サリサは余所行きの言葉遣いと態度ですましている。
「ざ、ザラです。お義父さま、初めまして。お義母さまには、お世話になっています」
ザラはちょっと緊張し過ぎのようだ。
ゼンの婚約者となった二人が、揃って綺麗に頭を下げるのを、二人の親は微笑ましそうな顔をして、笑顔でそれを受け入れている。
「うん、改めて、こちらこそ、ゼンを頼むな、サリサ。
ザラさんの事は、話で聞いていた。ゼンの命の恩人で、とても苦労をされた事も。あなたがいなければ、今のこの場もなかっただろう。
その事も含めて、ありがとう、そして、おめでとう」
ゴウセルは、サリサには苦笑し、ザラとはその手を握り、感謝の意を伝える。
「私も、こういう日が来るのは分かってたけど、予想以上に速くてびっくりしたわ。
でも、心からのお祝いを。おめでとう。こんな美人の嫁が二人も出来て、ゼン君は幸せ者よね」
レフライアは終始笑顔で、二人の嫁とお祝いの言葉を交わす。
ザラは感激しきり。サリサは、顔見知りである二人との関係性がこう変わるなど、思ってもみなかった事なので、運命の不思議を思うのだった。
その後二人には、後に住む事になる、と言うので、1階の風呂や洗濯室などを見学した後、もう食事の準備が出来ている食堂へと向かう。
「あのお風呂は凄いわね。広いし、余裕があって。色々道具も揃ってて、いいわ」
「女湯の方だからですね。男湯は、あんなに道具、ないですよ。いつの間に買い揃えたんだろう……」
「広い風呂をいつでも、とか。商品の仕入れで昔行った温泉を思い出すよ」
風呂は、来る人は皆、感心して喜ぶ、この小城の名物みたいになっているなぁ、とゼンは思う。
そして食堂に入ると、爆炎隊の面々が、驚きの目を向けるのは、自分達のトップに当たる、ギルドマスターのレフライアだ。
ゴウセルとの婚約話はしてあるのだが、直に見るのとでは説得力が違う。
「おやっさん、ギルドマスター、この度は、おめでとうございます!」
リーダーのダルケンが、立ち上がり祝いの言葉を二人にかける。続けてメンバーも、唱和する。
「うん、俺達もめでたいが、本人の方がもっとめでたいだろう」
「ゼンの方には、先程、皆で祝いましたので」
「まだ貴方達だけなのよね。クラン参加予定は」
「ええ。明日、勧誘会がありますから、そこで一気に増えるんじゃないかと思いますよ」
「そうだったわね。でも、判断早く、先駆けて参加している、貴方達の優位性は高いと思うわよ」
「そうだな。まだどうなるか分からないが、後悔する事には決してならんだろうな」
「自分達も、そう思ってますよ」
すでに数日、美味い食事と広い風呂、充実した訓練と、小城での快適な生活を満喫している爆炎隊の面々は、もうそれを実感しているのであった。
獣王国からの来賓であるリーランとロナッファも、ギルマスとゴウセルに挨拶し、祝辞を述べるが、その顔色は余り良くない。
それから二人は席に着く。
ゴウセルとレフライアは旅団の隣りのテーブルに。
いつもは子供達と一緒のザラだが、今日はサリサの隣りに座っている。
ゼンは、料理で出来る事はもう済ましてあるので、今日は大人しく配膳を待つだけだ。
ミンシャ、リャンカ、そして子供達は、ここ数日でかなり仕事の手手順を覚えさせたらしく、結構テキパキと、料理をそれぞれのテーブルに運んで行く。
子供達自身の物は、自分達の代表が取りに行き、ワゴンに載せて運んで行く。
料理がほぼいき渡り、それぞれの席に、自分達の頼んだ酒や飲み物がつがれた時点で、ゼンが立ち上がり、挨拶をする。
「えー、今日は一応、俺と、サリサ、ザラの婚約祝い、という形で料理等も多少豪華にしてあります。我ながら、早過ぎる婚約だと思うのですが、相手はもう適齢期で、どんな悪い虫が寄って来るか分かりませんので、婚約する事になりました」
食堂の各所で、小さな笑いが漏れる。
「今日はその婚約祝いと、明日のクラン勧誘会の成功を祈願して、食事を楽しみましょう。
乾杯!」
皆が、乾杯!と唱和する。
子供達も、見様見真似で乾杯をしている。
彼等も、スラムの英雄と言える、自分達の雇い主であるゼンと、守護の女神の様な存在のザラとの婚約は、大変喜ばしい事なのだ。
婚約が決まった昨夜も、ザラと一緒にゼンも、子供達の部屋で添い寝をしたのだ。
ザラは一応自分の部屋はあるのだが、毎日、子供達の男の子部屋、女の子部屋を日毎に順番に行って、まだ幼い子らと一緒に寝ていたのだ。
ゼンもそれにつき合ったので、子供達は大喜びだった。
そんな子供達を見ながらゼンは、その内に、ルフも紹介して、友達になってもらったらどうだろうか、と考えた。
ルフはまだ幼いせいか、人見知りするところがある。なるべくそれを、幼い内に直してやりたいと思うのだ。
そうした事も、明日の勧誘会で、ここにどの程度のパーティーが住むようになるか、落ち着いてからかな、とゼンは思う。
隣りの席で、美味い食事をほうばりながら、義息子の嫁、二人に話しかける、楽しそうなゴウセルとレフライアの様子を見ると、自分も二人と住む場所を離れ、少し寂しかった事を自覚してしまう。
だから、将来的に二人がここに来る、というのは、聞いた時は不安になる感じだったが、こうして二人がいる所を見ると、実は全然悪くない、むしろ歓迎すべき話だった。
それにこの小城は、部屋ごと、区画ごとにパーソナルスペースが別れるので、ゴウセル達の新婚ぶりも、多分そんなに気にならないのではなかろうか、と思えるのだ。
実際に暮らしてみなければ、分からないかもしれないが。
そんなこんなで、宴は楽しく進み、ゴウセルやレフライアは、冒険者達との話も弾むので、宴席は盛り上がり、美味い酒などもあってすぐに夜は更けて、二人は今日ここに泊りたい、と言い出す。
多分そうなるだろう、と思っていたゼンは、リーランやロナッファの事もあって、1階の荷物置き場か使用人部屋にするか迷っていた一室を、客室に変えていた。
ベッドは一つだが、大き目のものなので、二人なら丁度いいだろう。
そこに二人を案内し、風呂もすぐ側の部屋なので、一応魔法の鍵の登録と、風呂の簡単な説明だけして、自分は部屋に戻った。
それからしばらくして、ゴウセルを誘って一緒に風呂に向かったが、皆考える事は同じなので、誘い合わなくても爆炎隊の4人に、リュウとラルクスもすでに風呂の脱衣所にいた。
「みんな一緒に風呂ってのも、いいな」
ゴウセルが快活に笑うと、皆もまったくだと笑う。
この程度の人数なら、余裕で一緒に入れる広いお風呂のお陰だ。
冒険者の男達は、皆鍛え抜かれた筋肉質の身体だが、元冒険者のゴウセルも、それに多少見劣りはするものの、充分筋肉のついた身体だった。
「もしかして、訓練とかしてるの?」
「昔の癖で、それなりにな。事務仕事が多いと、余計身体を動かしたくなるからな」
会長職でも、運動はかかさずしていた様だ。
風呂には、軽く身体を洗ってから浴槽につかる。
ゴウセルは、温泉の経験から、そこら辺の常識は、ちゃんと覚えていたらしい。
「息子と一緒に風呂に入れるなんて、まるで考えた事もなかったな」
「公衆浴場(テルマエ)なら、行けば入れたんじゃ?」
「あれは、一緒に入るって感じじゃないだろう。フェルズのはイマイチ大きくないから、常に混んでるし、なあ……」
「そうだね」
「湯も綺麗だ。俺が入った温泉なんかは、白く濁ってて、結構匂いがきつかった」
「それって温泉の源泉の匂いでしょ。硫黄とか、火山の成分とかで、身体にはそれがいい、とか聞いたけど」
「よく知ってるな。確かに、入った後は肌がツルツルしてて、身体のコリなんかも取れた気がしたな」
「温泉とか、一生に一度は行ってみたいですね」
少し離れた場所にいたリュウが言う。
「火山かぁ。火竜とかいるんじゃないか?温泉宿があるなら、それはないのかね」
ラルクは、火竜と戦うなんざゴメンだ、と表情のみで語っている。
「火山に必ずしも火竜がいる訳じゃないからな」
「……師匠と、急にその火山に住み着いた火竜退治しましたよ。温泉街の人が、お金出し合って、お願いしますって土下座して来て……」
「そこに人にとっては、まさしく救世主だな。たまたまそこに立ち寄ったのか?」
「いえ、最初から、火竜がいるらしいって、噂を聞いてから行ったんです。
つまり火竜目当てで、頼まれなくてもやるつもりだったんです。
だから、お金は取らず、そこの一番いい宿に、しばらく無料(ただ)で泊めてもらいました」
「安上がりな男だな」
ゴウセルは、いかにもラザンらしいな、と思いつぶやく。
「その話、本にはのってないな」
ダルケン達、爆炎隊のメンバーは、リーダーの言葉にうんうん頷いている。
「なんか小さな火竜で。もしかしたら、火竜の亜種だったのかも。師匠、一瞬で倒してしまったので、見せ場もなにもなくて、だから話してないんです」
「へぇ。そういうのもいるのか」
「首だけではく製にしてたから、その温泉に行けば見られるかもしれません」
ゼンは、その温泉のあった国と、その火山がどこら辺にあったかを一応説明した。
そうした話などで、皆で楽しく盛り上がりながら男達の風呂は終わった。
ゼンは、ゴウセルが商会長をやめた後、何をするつもりなのか、聞きたかったのだが、それは、レフライアのギルマス辞任と同じく、かなり先の話なので、急いで聞く必要もない、と判断した。
ゼンが部屋に戻って、しばらくしたら、サリサが来た。
サリサとザラは、夜、寝る前のゼンとのひと時とその後の時間を、1日交代で過ごす事に決めたのだった。
最初は1週間だの3日置き、だのと言っていたが、結局日毎にしたのだった。
ゼンとサリサは、ベッドに座り、手を繋ぎ、肩を寄せ合って話をする。
「俺、サリサに無理させてるよね。ごめん……」
「無理してない、なんて言わないけど、いいのよ。私が、私達が一番上手くいく関係を、考えて選んだんだから」
「うん………」
申し訳なさと、情けなさで悲しくなるが、それにくじけてはいけない、と自分を鼓舞する。
「それより、明日の勧誘会の話でもしましょ。私を補佐してくれた、マイアさん以外の五人の術士がいるところだけど、そうそう上手くいくのかしら?」
サリサはゼンを気遣って、現実的な話題を持ち出す。
「うん。応じてくれそうもない所も、実はある。それも、説得次第だとは思うけど」
「それは、協力が嫌、とか、そういうの?」
「いや、種族的な話。ドワーフがリーダーと副(サブ)リーダーをして、ひきいているパーティーがあるんだけど、その二人が人間嫌いなんだ」
「ああ、そういう。時々いるわね」
種族間の差別であったり、好き嫌いを言い合ったりと、種族が違うと色々あるものだ。
「うん。後は、自分が一番、みたいに思い込んでいる、勘違いリーダーのパーティーとか」
「……それも、時々いるわね。増長している?迷宮(ダンジョン)だと、そういうリーダーって、結構危ないと思うのだけれども」
「そこを副(サブ)が上手くあやしているみたいだ。副(サブ)はエルフで、参謀的な人なんだ。だから、そちらを説得して、リーダーに認められる様にすれば、何とかなるかな、と」
「ふむふむ。後は、ダルケンさんが言っていた、応じてくれそうな2パーティーで、4つね。もう一つは、どうなの?」
「そこは、ちょっと謎めいたところなんだ。ずっとフルフェイスの全身甲冑をつけた、大柄な二人がリーダー、副(サブ)リーダーなんだけど、どことも協力をしたがらない、うちとは違う意味で浮いた存在のパーティー」
ゼンは、他とはまるで異質な存在感を放つ、二人の甲冑姿を思い浮かべる。
「へえ。そんな所もあるのね。それじゃあ、説得は難しいんじゃないの?」
「うん。最初は勧誘会自体にも、来たがらなかった位だから。
でも多分、俺が旅の途中知り合った人と、同じ種族なんじゃないか、と思うんだ。もしかしたら、その人の知り合いかも。そこら辺をとっかかりにして、なんとか話すよ」
「顔が広いと、思わぬところで役に立つのね」
「予想があってたら、だけどね」
―――それから二人は、顔を寄せ合って頬ずりしたり、抱き合い、口付けをして……。
しばらくイチャイチャ行為をしていた。
「―――それじゃ、そろそろ部屋に戻るわね」
頬をうっすら紅く染めたサリサが、けだるげに立ち上がるのを、ゼンは引き留める。
「今日は泊まらないの?」
「うん……。ゼンは、その……辛いでしょ?」
「いや、そんな事はないんだけどな。う~ん。あ、それじゃあ、ルフを間に添い寝しない?」
「ルフちゃんを?」
ルフは、見せた誰もが可愛いと気に入る、大人気の幼女だ。
それをダシにする自分は、最低だと思うものの、自分を止められないゼンだった。
「ルフがいれば、俺が変な事をしない、安全弁になるでしょ?」
「……私、ゼンを信用していない訳、じゃないのよ……」
ゼンは、その言葉を聞かないフリをして、ルフを出す。
「……主さま、なーに?」
ルフは寝ぼけ眼だ。すでに寝ていたのかもしれない。
「今日は、こっちで一緒に寝よう。サリサも一緒で」
「……ゼンって、結構ズルい手も使うのね」
「まあ、時と場合によりけり、だよ」
ルフはぼんやりとサリサを見ると、ゼンに身を寄せる。
「……るーも、主さまもお嫁さんになるのに……」
「……ゼンはモテモテね」
「ルフはなんでか、従魔になった時からずっと、そう言ってるんだ。意味が分かってない気がするよ」
「そうかしら?……はあ。仕方ないから、今日はゼンの提案にのるわ」
二人は、ルフを挟んで、軽い布団をかけベッドに横になる。
ルフはすぐに、スヤスヤ寝息を立てていた。
二人は、ルフを起こさない様に小声で話す。
「本当に可愛い。従魔とか、全然分からないくらい」
「まだ幼いからなのか、鳥的な特徴も何もないからね」
二人は何となく、ルフの上で手を伸ばし、握り合う。
「……子供、赤ん坊で、従魔って生まれるのよね」
「うん。最初は驚く。どこから湧いて出た、て感じだから」
「子育て、大変そうね」
「従魔は、1カ月で育つから、時間を早送りするみたいな感じだった」
「ふーん」
「俺は、サリサの赤ちゃんだって、ちゃんと育てるよ」
「……」
「あ、や、そういう意味じゃなくて、一般論を言っただけで……」
ゼンの慌てた様子がおかしくて、サリサはクスクス笑ってしまった。
「うん、分かってる。からかっただけ」
「サリサ、好きな子をイジメる性格?俺、結構怒られる事が多いような……」
「そ、そんな事ないわよ。ゼンが怒らせる様な事するから……」
そんな、やくたいもない事を言い合いながら、二人は眠りについた。
*******
オマケ
ゴ「頼りになる息子がいる生活。悪くないな」
レ「本当。何の子育てもしてないのに。美人のお嫁さんまでもう決まって」
ゴ「……多分、増えるんだろうなぁ」
レ「本当に、いろんな娘から好かれているから」
ゴ「俺も、貸してもらったあの本読んだが、天然のタラシって怖いな」
レ「自覚がないところが、凄いのよね。でも、婚約したって事は、自覚が出来てきたのかもしれないわ」
ゴ「それなら、もう増えないか?」
レ「どうかしらね。少なくとも、今周りにいる娘達は、どうにかしないといけないでしょうし」
ゴ「……レフライア、面白がって、集めてないか?」
レ「……何の事かしら。分からないわ」
ゴ「その満面笑顔で……。程々にしてやれよ」
レ「フフフ。分かってますって」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます