第77話 未来図☆
※
「……じゃあ、丁度いいので、話を戻しましょう。“神”は、何故他の人の記憶を書き換えたんでしょうか」
話を逸らす意味でも、気になっていた件を持ち出すゼン。
「え、それは、こちらを気遣ってくれたんじゃないの?」
「“気遣う”?“神”が?それこそ、あり得ないんじゃないですか?“神”が一介の人間を“気遣う”?とてもしそうにないですね」
「言いたい事は、分からないでもないけど、ならどうして?」
「……結果だけから推測すると、アリシア、になるんですけどね」
ゼンは少し躊躇しつつ、それでも話す。
「……どうして?」
「一番困るのが、彼女だからです」
「それは、確かにそうだけれども。私も困るわよ?」
「度合いが違います。それに、ギルマスの困るは、どうとでも出来る話でしょ、普通の冒険者なアリシアには出来ない」
組織の長と、一冒険者の違い。アリシアは普通の村の出で、貴族ですらない。
「そうなんだけど、でも君が言ったのよ。“神”が一介の人間を“気遣う”なんてないって」
「だから、アリシアは“一介”人間ではないんでしょ。実際、聖女候補を一介の人間とは言えません」
そこら辺の事情はレフライアに今さっき聞いた。
「それは、そう、ね……。彼女は聖性が高く、神術士としても優秀、を飛び越えた超天才。だから、教会は次代の聖女候補として目をつけてるのだし、真面目な話、あの娘が今自由でいる事自体がとても不思議だから」
「それも、何かの“加護”かもしれませんね」
「ああ、その考えはなかった。成程、そう考えると、合点がいくのかも。じゃあ、今そこで安らかな寝息を立てている少女は、一体何者なの?単なる聖女候補とは思えないわよ。
“神”が人の情報操作をし、その身の安全を護ろうとしていて、昔から常に加護しているのなら、それはとてつもない話だわ」
「……それは、それこそ教会関係者や神話学者にでも聞くべき話じゃないですか?俺には分からないし、格別、興味も湧きません。神様の事情なんてどうでもいいです」
また取り付く島もない。ゼンにとっては、アリシアは本当に、多少優秀で奇妙(ユニーク)なだけの、大事な仲間の一人。そこで完結してしまうのだろう。
好奇心とかないのだろうか?
「……じゃあ、違う話をしましょう。その“神”の記憶操作、書き換え、かしら?に、何故ゼン君、君だけが影響を受けていないのか。
私は、直訴の当事者で、覚えていないと、その直訴自体を否定する事になるから無事なのだと考えているわ」
「……そうですね。ギルマスはそうでしょう」
それから、ゼンはしばし腕を組んで考える。熟考中……。
「……多分やっぱり、スキルなんでしょうね」
「どうしてそこでスキルの話が……ああ、君と他の人の違いね」
「そうです。俺だけ、スキルがない。だから、これは単なる仮定の、素人の浅はかな考えとして聞いて欲しいんですが」
ゼンは慎重に、自分の考えが間違っている可能性も大きいから、と注意を促す。
「何かしら。勿体ぶらないでよ」
「スキルというのは、神が人や、自分達の造った生物種に与えた恩恵。魔物も持ってますし、野生の生物全般、持っているんでしょうね。
でも今回は、話を人に限定しますが、いわばスキルとは、神の力そのものが形を変えて人に宿ったもの、とも言えます」
「……そうね。別に間違った考えじゃないと思うわ」
「そして今回、神は人の記憶の書き換えをした、と思われるんですが、それは、外側からの術や“奇跡”で力任せにやったのじゃないかもしれない」
「何が言いたいの?」
「つまり神は人の内側から、自分の力に連なる、“スキル”を媒介として、仲介として?、人の記憶に干渉出来る、としたら」
「したらって……」
ゼンの話は、突飛で大胆極まりない。
「外からやるよりも、力は限定出来ます。対象が自分の被造物の人種(ひとしゅ)にのみ、とか設定すれば、もっと節約出来るかも。そうやって神はたやすく簡単に、人の記憶の書き換えが出来るのかもしれませんね」
ゼンは、証明修了、みたいに肩をすくめてみせる。
「こんな仮定です。合ってる保証なんてありません」
「……君、いつもそんな、とんでもない事を考え続けて生きてるの?」
「どういう意味かよく分からないんですが、俺はいつも“考え続けて”生きてますよ。それが唯一の取り柄みたいなものだから。
師匠も、戦場では常に考えて、生き残る方法、勝利を得る手段を考え続けろ、思考を止めるな、あがけ、と言ってました」
「……ラザンらしい言い様、教えね。じゃあ君のその分析、解析癖は、ラザンの教えのたまものなのかしら?」
「……俺は昔から……スラムの頃からこうですよ。師匠の教えは、俺のしていた事を補強して、後押ししてくれているますが、常に考え続けて、何かの答えを導き出そうとするのは、もう最初から癖みたいなものです」
これは、どう考えればいいのだろうか、とレフライアは当惑する。
ゼンの考えが正解かどうかなど分からないが、ゼンに記憶の書き換えがない現状を考えると、正しいの様に思えてしまう。そう見えてしまう。
“神”の力の解析なんて、不敬で不遜な事、神嫌いなゼンだからこそ出来る事かもしれないが……。
いや、レフライアはあの時、すでに“神”に彼の情報を与えている。それで“神”がゼンを特定して、彼だけを特殊な不可視フィールドで彼を覆い(ゼンに気づかれていないので)、それ以外の者に力を及ぼしたとしたら?
―――その可能性もあるかもしれないが、どうにもゼンの考えの方が、合理的で納得がいってしまう。
“神”がスキルを通して、人に力で干渉出来得るとしたら、記憶のみならず、何でもやりたい放題で、人にはそれを防ぐ術はないでのでは?
……いやいや、何、不遜な事を考えているのか。“神”が、神々が被造物たる自分達に何をしようと出来ようとも、それは当然の権利で、防ぐ術がない以前の問題だ。
そもそも神々は、やろうと思えば都市ごと、国ごと、大陸ごと、人を滅ぼす事が出来る。
その怒りに触れ、文明丸ごと滅ぼされた古代文明の事を考えても、それは自明の理だ。
その力の経路の一つが、分かろうと分かるまいと大差ない……。
それにしても、レフライアは、ゼンの事を、普通に頭の良い、聡明な子供だと思ってはいたが、とんでもない!これは、普通に頭がいいレベルの話ではないだろう。
『
パラケスは、ゼンの共感能力がどうの、と言っていたが、それは単に頭が良過ぎる副産物で、他人の望む事を予想してしまえるだけの話ではないかと、目の前でそれを見せられたギルマスは思うのであった……。
※
「不毛な話はもうやめて、現実の話をしましょう」
レフライアの声の調子が変わったので、ゼンも居住まいをただす。ギルマスモードに入ったのだ。
「ゼン君、君は早速明日からにでもしばらくは、ギルドに新設された『従魔再生契約技術研究部』略して『従魔研』に参加して、勤めて欲しい。役職的には、『臨時顧問』?『相談役』とかのような曖昧なものになるけど」
「……はい。そうなると、分かってはいました。顧問だと、責任者に近くなってしまうので、臨時の外部相談役とかでお願いします」
「役職名はなんでも構わないわ。ずっとそこで研究者になれ、なんて言わないから。
それに、一日ずっと拘束する訳じゃない。君が考えている“クラン”の勧誘とか、借りる屋敷の事とかは、そちらの自由時間に当てて欲しいの。こちらもそれに出来るだけの補助(サポート)を約束するわ」
「はい、それは助かります。ありがとうございます」
「で、見本(サンプル)として、従魔を一人、魔物形態で、君と一緒にギルドで実体化させて見せて欲しいの。変な事はさせないから、安心して」
「そこら辺は、信用してますし、裏切られるなら、それ相応に対応しますから」
信用し切ってはいない、という事。相応の対応が危険だ。
「……人種(ひとしゅ)形態の事はしばらく極秘で。一般の冒険者で、そうなるケースが多ければ、公開もやむを得ないけど。旅団にも口止めね」
魔物の絶対排斥を望む、教会の滅殺派がそれを知れば動き出すかもしれない。
「……はい」
実際に今まで進化して人種(ひとしゅ)に至ったのは、ゼンとラザンのみだったりする……。キューブで知らせてあるのだろうか?ゼンは一人、考える。
「冒険者ギルド全体にも、この従魔技術の話は知らせてある。フェルズを含めて、同時に世界の10カ所で、研究が一斉に始まるわ。ギルド全部でやらないのは一応の保険ね。
従魔術の試験ケースとして、うちでは男女2組の冒険者に、従魔術の説明とその利点、欠点とかも話して、一応の危険性がある事を知らせ、同意した者のみで彼等自身が倒した魔物の魔石で1カ月、従魔を再生させ、飼育する。彼等はその間、ずっとギルドに泊りね。
ゼン君には、彼等の指導役も兼任してもらうわ」
結構色々やらされて、忙しそうだ。
「……他のギルドでも再生、飼育をするんですか?」
「勿論。1組のみだったり、うちより沢山の人数でする所もあるわ。それは、その場所のギルマスの判断とかそこの流儀、色々あるから。で、毎日それらと研究、観察等の結果を逐一報告し合って情報共有をする」
従魔研究の情報を見せあって、進み具合や、何か支障があれば、その問題解決に努める。実際に従魔を持つゼンがいるフェルズが一番優位性(アドバンテージ)があるので、こちらが相談役のようなものになるだろう。
「後、パラケス翁からも指導してもらうつもり」
「……爺さんと、手紙にのやり取りでもするんですか?」
「君にも話していないのね、あのお爺ちゃん。お茶目なんだから。このキューブに、魔術的な仕掛けがほどこしてあって、ギルドの通信魔具に接触させると、こちらの使用回線に、割り込む、と言うのかしら?つまりは、ギルドの通信魔具で、パラケスまで同じ様に通信出来るようになるの」
「えー!聞いてないですよ!」
子供の素に戻って、思わず立ち上がるゼン。
「これは本来、ギルド間の通信用としてあけておかないといけないから、使えるのは一日の最後に報告して、どうしてもこちらで分からない事の質問をするぐらいにしか使えないけどね。
同じ様な物をそれ専用に確保出来ないか探させてはいるけれど、世界中に繋げられるような、こんな高性能な通信魔具は、そうそうはないから確保出来るまで時間がかかりそう。
君と話したがっていたから、今晩でも話してみる?」
「……そうですね。少しぐらいなら」
落ち着いて座り直す。
渋々、といった感じだが、実際は喜々としているのだろう。しばらく世話になった、祖父同然の老魔術師。ラザンも一緒にいるかもしれない。
「後はそうね……。私の進退の相談、でも聞いてもらおうかしら」
突然ギルマスが何か変な事を言い出した。
「え?なにか不手際があって、辞めさせられるんですか?」
「そう見える?」
「全然。すみません、冗談です。でもどうして?」
「ある事があって、うん、ギルマスから降りたい、と思うようになったの」
どこか晴れ晴れとした顔でレフライアは言う。
「ある事?」
「呪いがなくなって、普通の状態に戻れて、元気になったから、冒険者に現役復帰したいの!」
「え?あー、そうなんですか。その流れは想定してませんでした」
「表向きは結婚退職。寿引退ね。実際、結婚はするし」
「あ、はい。おめでとうございます、義母さん」
これは、祝うべきか複雑だ。結婚そのものはお目出度いのだが、危険な冒険者への復帰は単純に喜んでいいやら悩む。
ゴウセルは、新婚の嫁が危険な仕事に復帰でいいのだろうか?
「また色々考えてるみたいだけど、ちゃんと相談してるし、了解も得ている事よ。何より二人の問題。その息子が変な事、考えないの」
くぎを刺された。
「それに、今すぐ、じゃないの。色々引継ぎ作業があるし、従魔の事もある程度進ませないといけない。丸投げにしたりしていい事じゃないし、最後の大仕事ね。
この功績もあって、ギルマス会議が引退を認めてくれたところもあるのよ。純粋に、私の手柄ではないけれど」
「ギルマス会議?」
「世界中のギルドマスターの合同会議。そこが、冒険者ギルドの最高意志決定機関。議長は、今は帝国のギルドのギルマス」
ゼンは、多分旅の途中に会った事のある顔だ。
そんなお偉いさんだったのか、と呟く。
「別に、偉くないわよ。持ち回り制で、順番に5年ごとに替わってるから。単なるまとめ役よ」
「……はぁ。でも、引き留められたりはしなかったんですか?」
「勿論したわよ!それはもう強烈に。こっちでも、ロナルドはいつも通りに渋い顔するし、ファナは泣きだすわ、他も釣られて何人も泣きだして、永遠の別れでもあるまいに」
ほとほと困り果てたとこぼすレフライアは、それだけ人望のある、周囲に愛されたギルドマスターなのだ。
「で、ゼン君、西風旅団の方は、しばらくは野外の討伐任務を受けて貰ったらいいんじゃないの?君との実力差を埋めるいい機会だし、従魔の派遣も、自分のチームで試して実証してみたら?」
「あ、はい。従魔は、そのつもりでした。実力差とかは考えていませんでした。そうですね。その方がいいですよね」
自分も行きたいのを我慢するゼンだった。
旅立つ前の何度かの野外任務はどれも楽しくて、ゼンの中でひと際輝く美しい思い出だ。年月が経っているので、多少美化されてしまっているかもしれないが。
「それで、1カ月は従魔の事があって、それからC級のパーティー達とB級を目指し、クランを目指して、旅団は二つ目の中級迷宮の制覇を目指す。他のパーティーも、よね?」
「そうですね。そうなれたら理想です」
それは、これからの勧誘交渉次第だ。最悪、しばらく旅団のみであの広い小城に住む可能性だってある。
「その頃には、私の引退も本決まりだと思うの」
「そうですか。結構かかりますね」
「だから、上級迷宮を探索出来るクランになったら、そこに私も参加したいの」
レフライアは飛び切りの笑顔で、最後に爆弾発言をかました。
「―――え”?」
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オマケ
ミ「ちょっと待て、ですの。このミンシャの素晴らしく愛らしい描写なく、2章終わりとか、無能ですの!」
(一応、描写あります……(汗))
リ「私もです!全然納得いきません!やり直しを要求します!」
(こちらもそこそこ描写あります。お前はDSか!w)
ル「るーも、やりなおし、要求するお?」
(あー、ルフは本気で出てないかも。3章頑張らせたいと……)
ゾ「俺はそこそこで、いいと思うがな。3章で、野外任務。とやらに行けそうだしな」
ガ「任務待機。主の望むままに……」
セ「うう……。乙女以外との接触は……ご遠慮します」
ボ「次でも頑張ります」
ゼ「ボンガは、ギルドに一緒に行ってもらうから安心して」
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