第46話 悪魔の壁(2)☆?~10(雷大鹿戦)
※
西風旅団の中級の迷宮(ダンジョン)、『
氷炎の魔剣、フレイムブリザードに持ち替えてからのリュウの大暴れが凄い事もあって、敵に苦戦する事はほぼなく、新しい武器を試したがっていたアリシアの前まで、わざとある程度までダメージを負わせた魔物を通して、何度か新しい武器の試し打ちさせる事が出来る程に余裕があった。(いや、アリシアの状態を考えると切羽詰まっていたのか……)
戦闘の余裕だけでなく、相変わらず、ゼンのルート選択が神懸かっていた。
神々の造った試練の迷宮には決まった地図、と言う物はなく、不定期に中が変化する様になっている。だから地図は作れないし意味をなさない。
地図等と作って楽をさせない、というのが、迷宮を造り、試練を課す神々の思惑なのだろうが、それにはある程度決まった変化のパターンというべき物があり、どうやらゼンは、ラザンとの旅で潜った数多くの迷宮(ダンジョン)で、自分なりにそのパターンを、研究し、ある程度までは、どう変化してどういう中身になるかの予想がつけられる様になってしまったらしく、それに彼の『勘』が組み合わさって、本当に正解の最短ルートというのが分かってしまう様だった。
「この『勘』も、師匠曰く、無意識化で、魔物の”気”を遠方から感知している、根拠のないものじゃないらしいですよ」
と話しながら、ズンズンと進む、その足取りには迷いや躊躇というものがまるでない。まるで、”複数で充分相談し合った”みたいに、自信に満ち溢れている。
「正直、道案内がいるみたいで、俺達は快適だからいいんだがな……」
いい事ずくめな、以前同様に……いや、それ以上になっているゼン・ナビに、迷宮(ダンジョン)の印象すら変わって見えるから不思議だ。まるで快適散歩遊技場だ。
中級の迷宮(ダンジョン)から、各種の罠が設置されるのだが、『流水』の感知はその場所まで分かるらしい。避けれる罠は避けて、無理ならラルクに解除を頼んでいた。
「養成校で習った技術がやっと役に立つな」
とラルクは張り切って罠の解除をしていた。まだ致死に至る様な危険な罠はない。それは上級迷宮からだ。
「鍵付きの部屋には、レアな何かがあるか、変異種の魔物がいたりするんで、それも頼む事になりますね」
今の所はないですけど、とゼンは補足する。ここはまだ下層階だからだろう。
しばらく魔物の影もなく、先に進むと、
「多分、この先辺りに例の”休憩室”、魔物の出ない部屋があると思います」
「凄い、ゼン君!そんなのまで分かるの~~?」
アリシアが好奇心丸出しで質問する。
「構造上、そうなる確率が多くて……あ、ありました。ちょっと休憩しましょうか」
本当に、ゼンの言っていた通りに魔物の出入りがない部屋があり、もう驚きを超えて呆れるばかりだ。
「なんつーか、いつもは迷宮で”休憩所”についた時ってのは疲労困憊、汗みどろ、って感じなんだが、今日はまるでピクニックみたいだな。疲れはしてるが程々で、まだ余力が充分ある」
ラルクの言う通りで、皆の顔が明るく、無理なく戦闘が出来ている証拠だ。
「迷宮(ダンジョン)の戦闘は、いつ何回起きるか分からないので、どれだけ継続戦闘が出来る様になるのが大事です。1回1回全力振り絞ったりしてたら、すぐに息切れして疲れてばててしまうから。旅団ぐらいじゃないですか?こんな風に出来るのは」
「え?ゼンはラザンといつもこんな風なんだろ?俺達なんかより、よっぽど楽に……」
リュウは、てっきりラザンともこんな感じか、それ以上に楽々かと想像していた。
「そんな訳ないじゃないですか。いつも迷宮(ダンジョン)は、大体、師匠と二人、前衛だけですよ。遠距離中距離の援護もない、補助や治癒もなしのポーション頼み。
パラケスの爺さんは、『流水』の剣士が研究対象として面白いから?とかでついて来てるだけで、迷宮(ダンジョン)は面倒だからって、いつもついて来ないんです。外だと少しは援護してくれますけど。
たま~に、その時の事情で同行する冒険者とかいたりしますが、ここみたいにバランス良く各職が揃ったりしませんから、ともかくいつも力任せに押せ押せな感じです。
一応、俺が囮役したりする時もありますけど、それで倒すのが師匠だけになると、それじゃお前(ゼン)の修行にならん!て、結局二人で力任せに。一応、『流水』には剣風や衝撃波を飛ばす剣技がありますけど、魔術程使い勝手が良くないから、接近戦でガシガシ戦うのが多くて、正直神経すり減らす戦いばかりで、きつかったです……」
何か、ゼンを遠い虚無を見る目で、ラザンとの旅の思い出を語る。余人には計り知れない程厳しい戦いが連続の旅だった様だ。
「あ、そうだ。ちょっと提案があるんですけど」
ゼンがリュウを見て何か意見をくれる様だ。
「戦闘の指揮なんですけど……」
おお、その話か、とリュウは思う。彼も、最早一番実戦経験豊富なゼンに、それをしてもらうのがいいのでは、と考えてはいたのだ。いっそ、西風旅団のリーダーも……。(年上のプライドが微塵もないリュウエン)
「サリサにやって貰った方がいいと思うんです」
まるでリュウが考えていたのとは違う提案だった。
「え?なんで、そこにサリサの名前が出るんだ?」
サリサも私?と困惑した顔をしている。隣りのアリシアは何故か面白うそうにしている。
「それは、サリサが後方で、一番戦況を見渡せて、もし何かあった時にもすぐそれに応じた手を考えて、皆に指示出来る場所にいるからです。頭もいいですし。
だから軍隊のお偉い指揮官は、伊達に一番後ろにいる訳じゃないんです。戦況を見渡せる位置に指揮官がいるって大事で、自分が出会ったパーティーも大体が、一番後ろの後衛の人が戦闘のリーダーでした。
アリシアも同じ場所にいますが、人に指揮するのとかって苦手そうな感じがしたから……」
別にアリシアが賢くないとかって意味ではないよ、とゼンはフォローする。
「大丈夫、分かってるよ~。私、あんまりそういうの出来ないから~。サリーはピッタリだと思う~~」
アリシアはニコニコ満面笑顔だ。本当に不満はないし、サリサが指揮をやる提案も、どうやら賛成の様だ。
「いつもは先に何通りかの大体の戦術を決めて、それに即してやってるみたいですけど、それだと突発時の対応は難しくて、リュウさんが無理に後ろ向いて指示してるのを昔、見ましたけど、本当はそれ、背中を敵に見せる事になるから、危ないですよね」
あの時は、攻撃の勢いとかで上手くやってましたけど、いつもそうと出来るとは限らないし、とゼンは言う。昔の野外任務の事をちゃんと覚えてくれているのが何気に嬉しい。
「それに、こちらの物理攻撃と、魔術のどちらをどう順序立てて上手く扱うかは、その攻撃魔術を使うサリサがいいと思うんです」
理屈的には正しいと思う。リュウも前線の戦いにだけ集中出来るのは、実は歓迎だ。
「サリサは、どう思う?」
一応やはり、本人の意向が一番大切だろう。
サリサはチラリとラルクを見る。
「俺は、いい考えだと思うし、リュウがそれでいいなら賛成だよ」
ラルクは肩をすくめ、少し気取った風に賛意を表明する。
「……そうね。正直、急に言われても困るから、次、ここに来た時からでいいかしら?それまでに、どうやってそれを出来るかを考えてみるから。無理そうならそう言うし」
成程、確かにこれからすぐと言うのは無茶だろう。
「それで、いいんじゃないですか。俺は、有効そうな考えを言ったまでなので」
「そうだな。じゃあ、次の時までの課題だな。……ところでゼン、今日はどこまで行こうと考えてるんだ?」
今、まだ昼前なのに、6階にいる。このペースだともしかして……。
「そうですね。今日はただ様子見で、どれ位戦えるか試すだけのつもりだったんですけど、これなら十階ごとにいる階層ボスの所まで行けますね」
そこで一区切りして、今日は帰りましょう、と軽く言う。
「いや、10階位を目指すのはいいけど、いきなり階層ボス戦やるのか?」
「階層ボスは、強くてもボス1匹のみで、迷宮(ダンジョン)の最後の大ボスみたいに、部下みたいなのがいないから、集中して倒せてむしろ楽ですよ」
そう言われると楽そうに聞こえる。
「実際楽なんですってば。だから、再生(リポップ)するのを待って、延々階層ボスだけ倒すPTとかもいるんですよ。次が来たら止めればいいのに、なんかここは今日俺達の縄張りだ、とか馬鹿言う連中もいて、師匠にしばかれてましたね」
ゼンはケラケラ笑う。
とこかく、大物が1匹のみの階層ボスが倒しやすく、普通の魔物とは違う戦利品も出るので人気であるらしい事が分かった。
少し休憩してから出発する。
今の所出た魔物は、Dオーガ、Dトロル、D巨大蜘蛛(ジャイアント・スパイダー)、これが出ると女性陣が騒ぐので、即処分しなければならない。でないとサリサやたら範囲の広い、中位の術をバラ蒔き出すのだ。そうすると男性陣は避難しなければならなかった。
D巨大蜘蛛(ジャイアント・スパイダー)との戦闘は、絡まるとこちらの動きが遅くなる『遅延の糸』を吐いてくるので、ゼンが『流歩』で、糸の吐き出しを引き付けつつ避けて、ラルクの矢やリュウの魔剣の”炎の刃”を飛ばして、中距離攻撃でしとめる。
防御力が余りないので、それで倒せた。サリサやアリシアが正気なら、適切な魔術を撃ってもらえたのだが。サリサの戦闘指揮に一抹の不安要素が見えたのであった。
後、D魔猪(デモンズ・ボア)、D紫鹿(パープル・ディア)、D雷鹿(サンダー・ディア)やD妖鳥(ハーピー)等だ。
出る魔物3種が、”気”の訓練していた山で出た魔物と気づき、ついでに予習をさせられていたのが分かった。
「予習って言っても、こっちと向こうじゃ強さが違うからまあ、動きのクセ読んだり、攻撃のパターンを見るぐらいしか出来ませんでしたけど」
突進して来るD紫鹿(パープル・ディア)を躱して、すれ違いざま、後頭部の急所に一撃入れて倒す。
しか、って結構大事な事じゃないか、と思いながらリュウもD魔猪(デモンズ・ボア)の突進を避け、急制動をかけている所に魔剣を炎で強化した一撃を入れる。
結構大物だったので、ラルクの弓や、サリサの単発術と合わせて五撃程で倒せた。
ゼンはD雷鹿(サンダー・ディア)の角を神速で間近まで近づき、最大攻撃手段である角を二本とも根本から斬り取る。これがあると、無差別に広範囲の雷攻撃を放ったり、狙いを絞っての雷光線(ビーム)を放ったりと、かなり危ないのだ。
基本、”気”の防御やサリサ、アリシア達の張る防御壁でも持ち堪える事は出来るが、強烈な特殊攻撃をさせないに越した事はない。
「外じゃないから余りお肉取れないのが残念ですね」
光の粒子に変わってドロップ品が落ちるのを確かめながらゼンは言う。確かに、解体を面倒がらなければ、外の方が余程たくさんの肉が取れる。
「まあ、こればっかりは、な」
「でも、この前の肉も残ってますから、またそれで何か作れますよ。昼はそれにしましょうか」
「そう言えば、気になってたんだが、そのポーチ容量とか色々変わってないか?」
「あ、はい。パラケスの爺さんが、改良してくれて、容量が元の二千倍とかで重量軽減も同じ、後、時間遅延が10分の一かけたとか言ってましたね」
「え、時間遅延10分の一って……」
「内部の経過時間が遅くなって、10年が1年、になるとか、かな?食料とかの生ものが結構もつんで重宝してます」
「おい、それもう物凄いお宝級だぞ!」
「ですね。元が義父さんから貰った物だから、売るつもりなんてまるでないですけど」
「ポーチ左右2つつけてるが、それもか?」
「いえ、こっちは左右の重さのバランスとる為に買ったんです。結局爺さんが改造しちゃいましたけど……」
と言う事は、ゼンはお宝級ポーチを2個も腰に着けてるのか!
「一応、食材や調味料なんかの、消費系と、すぐ売る素材や武器なんかの戦利品系と分けてるんですよ」
それが単なる種類別整理に使われているこの大物ぶりはなんなのか。
「ゼンって、何でかそういうとこは大雑把なんだな……」
リュウが腹を抱えて笑いをこらえていると、こちらもドロッップ品を集めていたラルクが、なんだなんだと寄って来る。これもリュウから説明を聞いて、思いっきり吹き出していた。
「え?え?なんでですか?笑う様な話じゃないと思うけど……」
ゼンの方はよく状況が飲み込めずポカンとしてる。
「まあ、大物だってことさ」
笑って後衛の所まで戻るとアリシアがプンスカむくれている。
「男性陣ばっかり楽しそうでずるいんですけど~~」
「いや、前衛と後衛じゃ距離あるし、仕方ないじゃないか。別に秘密な話してた訳じゃないし、ちゃんと教えるよ」
「笑える楽しい話題には鮮度があって~、それが過ぎると余り笑えなくなったりするんですけど~~」
と謎理論を展開するアリシア。要するに笑える話題は一緒に話して笑いたいのだろう。
「ゼン、近くに”休憩室”ないか?そろそろ昼だし、昼食にしよう」
リュウに言われてゼンは考える。
「……もう少しで7階の階段があって、多分、上がってすぐにありそうですね」
ゼンの言う通りに、少し先に階段があり、登ってすぐ隣りに”休憩室”があった。
「……じゃあ、俺、適当に作りますから、少し待って下さい」
「いや、俺等も手伝う……」
「ずっとやって来たからもう慣れてるんで、座って休んでて下さい」
ニッコリ無言の圧力で皆を座らせる。下手に手伝ってもらうと邪魔なのかもしれない。
ゼンはポーチからマキを出し、そこに煉瓦で土台を作って鉄の網を置くと、パっと火をつけ、ポットも出すと、そこに水を入れてお茶用の湯を沸かす。
「……ゼン、今、魔術使ってなかったか?」
ラルクが変な顔して聞く。
「はい。爺さんに教えてもらって、日常用の術なら、気を転用して結構簡単に出来るようになったんですよ」
言ってるそばから次の料理の準備をしている。
「サリサさんや、専門家から見て、今の”日常”範囲に収まる術なのか?」
ラルクはこそこそサリサに尋ねる。
「……火つけて水をポット一杯に出して、他にもまだやりそうだし、普通の日常魔術、とか言われるものの範囲はとっくに超えてるわね。そもそも”気”を転用出来るなら、普通の魔術も使えそうな気がするわ……。でも、多分本人は料理専用技術だと思ってるみたい……」
ポットのお湯で、普通に飲む紅茶とは少し違う茶色の濃いお茶を、それぞれにコップを渡してついでいく。
「これは?」
「ある国で買った、後味のいい、渋みの変わったお茶です。名前なんだったかな……あ、うーろん茶とか言ってたような。砂糖とかなしで飲むお茶です。入れて飲む所もあるみたいですが。実際に使われてる茶葉は同じで発行の度合いが違う、とかなんとか」
「ふむふむ」
ゼンはポッドを沸かしていた網に油をひき、何かもう味付けの済んでいる肉を何切れか乗せて焼いていく。その間に買ってきた物らしいパンを出して、中央に切れ目を入れ、レタス等の野菜と、焼けた肉をパンの切れ目に挟み、ドンドン出来た順に渡していく。
「あー、このお茶、脂っこい肉食べた後だと凄く合っていいな」
ラルクが早速むしゃぶりついて感想を言っている。
「そうですね。そういう合わせ方もありで、よく飲まれてるみたいですよ」
ゼンはまた、漬け込んだ味の違う肉を並べて焼いている。
「パン、2個で足りますか?まだ食べるなら……」
全員が手を上げたので、嬉しそうに追加でまた準備をしていくゼンだった。
「すっごく美味しかった!ゼン君もういつでもお嫁さんに行けるね~~」
「……なんかギルマス……義母さんと同じ様な事、アリシアは言うね」
ゼンは苦笑するしかない。
「ギルマスそんな事言ってるのか……」
「正確には、料理食べるたびに、『ゼン君、結婚して!』とかって冗談言うんです」
「へ、へえ……」
それは本当に冗談なのだろうか、と四人の旅団メンバーは真剣に考えるのだった。ゴウセルがいるので、かろうじて冗談だとは思えるが。
使い終わった後の食器やら、鉄網やらはゼンが素早く綺麗に洗い、何か言う隙すら与えずテキパキ収納してしまう。
お茶は水筒に移してあるので、言えば入れてくれるし、
「冷たいのと熱いの、どっちでも出来ますよ」
と言うので冷たいのを要求すれば、カップに入れたそれを魔術で急速に冷やし、ひと塊の氷を入れてくれる。
熱いのなら、カップに入れてから、これも魔術で適温に温め直される。
「……なんだかゼン、万能料理人みたいになってないか?」
「なんでか会う人毎にそんな風に言われますね。料理とか、剣より上手くなるから、趣味と言うか現実逃避になってる感じなんですよね……」
「あれで、剣が上達してないと?」
「あ、いえ、上達は多分してるんですけど、師匠に比べたら、まだまだ全然で……」
そりゃ、比べる対象が悪すぎるよ!、とゼン以外の誰もが思った。
昼食を終え、しばしの食休みをとった上で出発だ。
D妖鳥(ハーピー)の群れ、14匹と、トロル6体の混成の群れと戦う。
以前は対空の攻撃手段が少なかった旅団メンバーだが今は違う。
ラルクは魔弓イチイバルスでD妖鳥(ハーピー)の心臓を正確に狙い撃つ。
リュウは、氷炎魔剣フレイムブリザードの氷のつららの弾丸を、上空へ何度も何発も撃つ。狙いは適当だが、数が多いので、D妖鳥(ハーピー)の何処かに絶対当たる感じだ。
ゼンは剣の鋭い振りで剣風を刃の様に飛ばし、こちらも何発も出すが、狙いはリュウと違って正確で、首を飛ばされるか、片翼を斬り飛ばされて墜落するD妖鳥(ハーピー)が面白いように落ちて来る。
「空の魔物で私に出番ないとか、凄いわね……」
サリサも魔術を撃とうと思っていたが、その必要もなさそうなので使うのをやめた。
「なんかみんな凄いね~~」
「基本的には、ゼンのくれた武器の性能な気がするけどね。そのゼンは、剣技の技術で落としてるんだから、本当に、凄い子になって帰って来たわね……」
「そうね~~。ふふふ、強くて頼もしくて、男らしくなって帰って来たよね~~」
「……男らしく、はどうかしら。まだ小さいから、可愛い印象が抜けないのよね」
「う~ん、そうかなそうかな?サリーもうかうかしてられないと思うけど~~」
「??私が、何をうかうか……あ、全部落ちた」
ゼン達は、落ちてまだ息のあるD妖鳥(ハーピー)を1匹1匹とどめを刺し、そしてトロルを迎え撃つ……迎えられなかった。トロルはD妖鳥(ハーピー)が全滅する様子を見て、早々に逃げ出していた。
「ありゃりゃ、迷宮(ダンジョン)の魔物って、逃げたりするのね。初めて見たかも」
「だね~~。実力差感じると、逃げるのかな~。トロルが特別気弱とかだったりして~~」
「そういう事もあるかもしれないわね」
サリサは、先程の途中で切れた会話の続きが気になったが、アリシアが何故かニマニマしているのを見て、深くツッコまない事にした。嫌な予感がしたので。
※
流石に、あっという間、ではなかったが、9階の階段まで来ていた。
この上に上がれば階層ボスのいる階だ。
「ボスは何~~?」
アリシアの質問にゼンは答える。
「D雷鹿(サンダー・ディア)です。強化版になるから、比較的に強敵ですね」
ゼンはまるで内容と違い、軽い口調だ。
「あの鹿は、雷が、なあ……」
「角さえどうにかすれば、単なる力の強い鹿ですよ」
「いや、そのどうにかが結構難しいだろう。相手もそう来ると思って、角で突いたり突っ込んで来たりするし、剣を避ける事さえある」
リュウはD雷鹿(サンダー・ディア)は苦手だった。野外の討伐任務でもスンナリいった記憶がない。
「そこら辺は、動きを誘導したりして、自分のやりやすい状態に持って行くんです。
……リュウさんとラルクさんだけでやってみますか?」
急にゼンが突拍子もない事を言いだす。
「階層ボスが楽なのは1匹だけで、多対一で戦えるからだろ?なんで不利な状況にわざわざする~~?」
「いえ、だから二対一で。二人なら倒せると、思うんですけどね」
ゼンは確信ありげに言う。リュウも、出来る事なら、その期待に応えたいが……。
「無差別に広範囲の雷撃たれると、きつくないか?」
ラルクが冷静に指摘する。
「それは、こちらからすぐに攻撃しかければ、撃って来ない筈です。あれは、自分の敵の”待ち”を崩す手段なので。それに、サリサがあれ、中和出来ますよ」
「え?え~と、まあなんとかなるんじゃないかしら……」
ゼンが何か視線で目配せして来るので仕方なくそう答えた。あれは魔物の固有能力だ。干渉できる訳がない。
「……そうか、んじゃま、やってみますか」
「おい、本気か?」
リュウはまだ乗り気ではない。
「補助はしてもらうし、防御壁も張ってもらう。”気”の鎧を纏える様にもなってる。下手うってもどうにかなるさ。それに、俺に作戦がある。任せろ」
ラルクが頼もし気に言う。危険な役目は俺じゃないし、と口の中で呟いたのは聞こえなかっただろう。
10階は、1フロアの、ボス専用階だ。階段から足を踏み入れればそこが戦場だ。
奥に、普通のD雷鹿(サンダー・ディア)の1.5倍は大きそうな体躯の、立派な角を持った個体が悠々とたたずんでいる。
全員がその中に入り、リュウとラルクの二人が進み出る。
「……角に拘らなくていい。お前の魔剣はそれだけの破壊力がある。突っ込んで炎の側で”闘気”を込めて、思いっきり首を斬り飛ばせばいい。俺が牽制するから」
「そんな単純な策で大丈夫なのか?行けと言うなら行くが……」
「よし、行こうぜ、リーダー!」
「ああ、もう分かったよ!」
リュウが走る。階層ボスに向かって。
ラルクも斜め前に向かって走る。そして、ある程度の所で弱めの矢を何発か放つ。
矢は階層ボスの丈夫そうな毛皮に当たっていとも簡単に弾かれる。ボスが鼻で笑った。
リュウが近づいて来たので、ボスもゆったりと前に出る。
「うおぉぉ~~~~!」
リュウが気合い一閃、大きな横振りでD雷鹿(サンダー・ディア)の首を斬ろうと、剣を振ったが、
「な、なに?」
その大きなD雷鹿(サンダー・ディア)が、ペタンと足を折って身体を大きく伏せる。と同時に首は大きくのけぞって、リュウの魔剣はその上を通過する。完全な空振りだった。
剣が通り過ぎた所で、D雷鹿(サンダー・ディア)は首を戻し、角に雷を溜めーーー
その立派な大角2本は、ラルクが狙いすまして撃った全力の”闘気”を込めた2本の矢によって、根本から見事に破壊された!
「とどめだ、リュウ!」
リュウは、ラルクの声に、空振った剣を何とか止め、強引にそのまま逆側から戻し、D、雷鹿(サンダー・ディア)の階層ボスの首を叩き斬った!
「空振った時、死ぬかと思った……」
「奴が俺の弓を問題外と考えて、動きを止めてなめた避け方したからな。あれで弓の狙いがつけやすかったんだよ」
「……だから牽制に弱い弓撃ったのか。そういう事は、前もって言えよ!」
「いや、お前結構顔に出るからな。向こうに悟られたらマズいし、仕方ないだろ。ほら、戦利品持って帰ろうぜ」
ドロップしたのは、D、雷鹿(サンダー・ディア)の大きな角、毛皮と、上質の鹿肉のひと塊に、金貨も数枚落ちていた。
*******
オマケ
リ「うん、安定して強いな。最後余計な事させられたが……」
ラ「大丈夫大丈夫。本当に弓、気にいったな。絶唱とかしないだろうし……」
サ「戦闘指揮、ねぇ。まあ、そういうの考えるの好きだし、やってやれない事はないと思うけれども……」
ア「ゼン君、おかわりを所望します~~」
ゼ「何でアリシアだけ食事してるんだろう……。みんな全然強いし、これならここすぐにでも終わらせて、C級に昇級してもらおうかな」
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