第110話 30代・隣家の工事
詐欺師Yが死んだその年、春から隣家の建て替え工事が始まった。
川の側に三階建てを建てるためだったのか、地盤改良工事をした。
これの経験がある人は少ないのではないだろうか、私は初めての経験で、あれほど酷いものとは思いもしなかった。
まず普通の民家の建築ではあり得ない騒音と振動である。
まるでビル解体現場のようだ。
長い金属製の杭を地面に打ちつけ、埋めていく。
非常識な騒音もさることながら、まるで地震のように揺れる。
それが毎日毎日、朝から晩まで続いた。
私はもう、最初からまったく家にいられなかったから、毎日外で時間を潰した。
化学物質過敏、電磁波過敏のため、毎日図書館などの建物内というわけにはいかず、晴れているときはだいたい寺社巡りなどしていた。
鎌倉なので、行き先には困らなかったが、雨の日は困った。
父はというと、どうしたいか聞くと、自分は耳が遠いから気にするなと言う。
それで父だけ家に置いて出て、昼だけ食事を作りに帰ることもあったし、弁当を買って置いて行ったり、一人で食べに行ってもらうこともあった。
けれど、後から考えると、あれはまったく失敗した。
地盤改良工事は2か月ほどかかった。
工期の長さにも呆れ果てたが、本来それほどかかるものではないようだ。
なぜあれほど長くかかったのか、さっぱり分からない。
とは言え、解体にも非常に時間がかかり、なんだかひどく手際の悪い業者だとは最初から思ってはいた。
いくら父の耳が遠くても、地震が毎日8時間も続くと考えると、身体には相当な負担だっただろう。
結果として、翌年2月に、父は再び倒れることになる。
こういうことは、本当に、後から考えると、まったくどうしてあれほど愚かになれるかと不思議になる。
父だけでもあの期間、妹の家に、せめて昼だけ預かってもらえば良かった。
そんな程度のことも、私は言い出せなかった。
頼む、と言えなかった。
遠慮が先にたって。
父のためを思えば、たとえ迷惑がられようと、いくらでも頭を下げればよかったのに。
妹は私が結構、簡単に妹に頼ると思っているようなのだが、そんなことはない。
むしろ、私はギリギリまで我慢してしまうタイプだった。
今はともかく、昔はそうだった。
それでさんざん痛い目に合って、ギリギリまで踏ん張るより、もっと手前で助けを求めた方がむしろ迷惑がかからないと学習した結果、頼むようになったのだ。
カウザルギーでうっかり死にかけたように、本当にまずいところまで一人でなんとかしようとして、失敗する。
さすがにそろそろ、多少は学ばないとおかしいだろう。
その意地っ張りが、自分を殺しかけ、父の寿命も削ってしまったのだから。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます