第103話 今・気分転換

鍼灸院に行って帰って、向かいの入居がまだなのを確認して、ほっとして家に入る。


いつまでもというわけにいかないのは分かっているけれど、今、まだ来ていないことを確認するとやっぱり嬉しい。




昨日はヘルパーさんに、


「毎日、何して暮らしてるの?」


聞かれたので、


「この数日は絵を描いてましたよ」


と、言って見せたら、やたらと褒めてくださった。

褒めてくれるのは嬉しいんだけど、ちょっと褒めすぎだよね!ってくらい。


「すごいわ。素人の絵じゃないわよ」


少し前までは、褒められても、一応、プロを目指した事もあるんだし(画家じゃなくてイラストだけど)、なんか複雑な気分になったものだけど、今はそんな事もなくなった。

だって、結局、私は素人のままなんだし。



小さい水彩画。

あまり細かい描き方はせず、筆でチョロチョロ絵の具を乗せていくので、手にも大した負担にならない。


私の絵はどうにも色が乗らなくて、いくら水彩画といっても薄すぎだよね!って感じ。

不思議。

子供の頃は、暗くて濃い色使いだったけれど、いつくらいからか、やたら薄ーく亡霊か幽霊のようになってしまった。


プロを目指していた時なら、うんうん唸りながらがんばって濃くしただろうけど。

今は趣味で描いてるだけなんだから、薄いままでもいいじゃん。

なんかあちこち、ポロポロスペース空いていて、描けていないところがあるけど、まぁまぁ、気楽に行こうぜー。


ってな感じの仕上がりなのだけど。



毎日毎日、怯えて暮らしていても仕方がないので、気分転換になるかと数日前から描き始めた。

描いているときは、それしか考えないし、やっぱり楽しい。




「あなたはそういうところがエライわよね。いろんな病気があって、いろいろ食べられないものも多くて、つらいこともあるのに、でもそのことばかり考えずに楽しみを見つけて暮らしていこうとするところ」


そうかな。

以前から、このヘルパーさんはよく、そんなようなことを言う。



例えば、こんな会話もあった。


「お肉もお魚もあまり食べられないんでしょ?

牛乳もダメで、お菓子もめったに食べられないでしょ?

外食はお蕎麦屋さんくらい?

そんなだったら何の楽しみもないんじゃない?」


「でも、私、豆腐も納豆も好きですから。

うちの妹みたいに豆腐や納豆嫌いな人じゃなくてよかったですよ。

そうだったら悲劇〜。

それに、私おそば大好きですから!

おいしいお蕎麦屋さんでは大盛り頼んじゃうくらい、おそば好きですからよかったよかった」


と言ったら、


「あなたは面白い人ねー」


と言われたことがあった。




私のアレルギーは牛乳と砂糖だけ。

砂糖は牛乳ほどひどくないから、たまに外食で料理の隠し味に入っている程度だったら何とかなるし、サトウキビでなく、砂糖大根の方なら平気なので、たまには食べられるお菓子もある。


お肉とお魚が食べられないのはカウザルギーで胃腸に過敏症状が出ているからで、体調次第で食べられる時もあるし、だんだん食べられる頻度も上がっている。


安心して外食できるのはお蕎麦屋さんくらいだけど、体調が良ければ、ちゃんとした和食屋さんなら入れるし、洋食屋さんでも牛乳さえ入ってなければ、大丈夫なものもあるはず。

ただ、外出中に具合が悪くなると嫌なので、大体お蕎麦屋さんに行ってしまうと言うだけの話。


たまーに、具合のいい時、ラーメン屋さんだって入る。

ほんとにたまーのたまーに、だけど。

そして口内炎ができたり、ひどい時は下痢でめっちゃ苦しんだりして、後悔して、もう当分入らないもん、と決意したりする。

「当分」ってところが、大した決意じゃなかったり。


牛乳のほうは、カウザルギーになる前だけど、ちょっと甘く見て、スコーンにクリーム乗せて食べちゃったら、1週間も苦しんだので、頑張って避けている。

男子高校生並みに飲む、と言われたくらい、牛乳も乳製品も大好きだったから、今でもやっぱり、いつか食べられるようにならないかなーとか思ってしまうけど。


ケーキは食べられないけど、お菓子なら、ヴィーガンのものは大体、食べられる。

アレルギーでもっとひどい人もいるんだから、食べられるものを感謝したほうがいい。




ヘルパーさん達は、それも仕事なのかもしれないけど、いつもいろいろと励ましてくれる。

褒めてくれるのも、そういうのの一環なのかもしれないけれど。

体の不自由さを助けてもらっているだけじゃなくて、精神的にも随分助けてもらってるなって思う。


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