第102話 30代・レイキ

12月初旬、私は都内に友人に会いに出かけた。

ずいぶん前からの約束だったが、正直に言えば断ろうかと少し悩んだ。

この頃、歩くにもなんとなくぐらぐらするし、電車に乗るのも不安だった。

レストランや喫茶店に長時間入ることができるのかどうかもわからなかった。


ただ、どんどん状態が悪化している今、ここで会わなければいつ会えるかわからない。

事情を話せば無理をするなと言いそうなので、病気については会ってから話すつもりだった。

それにもう一つ心積もりもあった。

私はシールドグロスと一緒に購入した電磁波測定器を片手に、恐る恐る出かけていった。


友人と会って最初に、話があるといって川沿いのベンチに誘い、電磁波過敏症のことを話した。


もしかしてもうこのように出かけてきて会う事はできなくなるかもしれないこと、でも私の家のほうに来ることがあれば、声をかけてほしいと。


なんだかしんみりしてしまった。

友人にはそれ以上のことは話さなかったけれど、私は不安で仕方がなかった。

自分がこれからどうなるか分からなかったから。



妹は妹なりにいろいろ調べたり励ましてくれてはいたけれど、小さな子供を抱えていて、うちの家事まで手伝ってくれるわけではない。

父はもう高齢で歩くのもやっとだし、白内障で視力も落ちている。

父が家事をするのは無理だ。

まだ私がなんとか食事くらいは作れていたけれど、掃除機はかけられなくなっていた。


電磁波過敏症はまだ病気としてまともに認められてもいないらしい。

行政の援助も期待できない。



過敏症発症後、坂道を転がるように悪化していく。

本当にこの先、もっとひどくなって、どうにもならなくなったら死ぬしかないかもしれない・・・




父を妹に見てもらうだけでも大変な負担だ。

私の面倒まで押し付けるわけにはいかない。


はっきり口には出さなくてもそんな気分が、表に出てしまっていたかもしれない。


友人は今日は大丈夫なのかと聞いてきたけれど、あまり騒がしくないお店でお昼を食べて、天然石のお店についていったら帰ると答えた。


その日はお昼を一緒にして、午後に天然石のお店に行く予定だった。

スピリチュアル系の、チャクラブレスレットを作ってくれるお店だ。

二人で何度かブレスレットを作っていたので、それを見てもらって、必要があれば石を少し交換して、友人はその後、そのお店でヒーリングセッションを受けることになっていた。


もともと私は、それを近所でお茶でもしながら待っているつもりだったけれど、今日はそれはちょっとつらいから、石を選んだら帰ると伝えた。


その天然石のお店は当時、店の一角でレイキヒーリングをやっていたのだが、私は以前一度か二度、受けたきりだった。

受けたあとなんだかだるくて眠いし、効果があるのかないのかよく分からず、そのまま受け続けていた友人と違い、私は続けなかった。

ただ、事情が変わった。



もしかして電磁波過敏症に効くかもしれないから、予約していこうと思うと私は友人に言った。

それが私のわずかばかりの「心づもり」だった。



本には代替医療について書いてあったけれど、私に思いあたる代替医療は今のところそれぐらいだった。

本当にもしかしたら・・・そんな、ほんのわずかな希望だった。





「それじゃあ二度手間になるから、今日、受けていきなよ。

私の予約をゆずるから」


友人がそう言ったのには驚いた。

まさかそんなつもりはなかったので断ろうとしたが、


「効くか効かないか、わからないでしょ。

効けばいいけど、もし効かなかったらここまで来るのも無駄足になるでしょう。

早くはっきりさせたほうがいい」


そうして思いがけずその日、私はレイキヒーリングを受けられることになったのだった。

 


ヒーリングセッションが終わるのを友人は待ってくれていた。

電磁波過敏症を発症する以前に受けたときにはただぼんやりしただけだったけれど、今度は脳の中にたまったモヤモヤしたものがすっきりと軽くなった気がした。


確かな効果を感じて私は嬉しかったし、友人も喜んでくれた。

治るかどうか、そんなことはわからなかったけれど、ほんの少しの希望で沈んでいた気持ちに日がさしこむようだった。



それから週に一回くらい、ヒーリングに通うようになった。


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