第100話 30代・電磁波過敏症

半年以上続いた道路工事がやっと終わって、少し経った頃。



私はこたつを出すために居間の掃除をしていた。

父はすっかり寒がりになり、少々早いが寒い日が本格的に来る前にこたつを出すことにした。


掃除機をかけ、大きなブラウン管テレビをつけたまま、その周辺を拭き掃除して、ふと気づくと全身がだるく重い。


何だろうと思いながらも、とにかく最後まで掃除してからちょっと横になろうと思い、ちゃぶ台として使っていたコタツに布団をかけた。

妹夫婦が社宅で使っていたものだ。

もう使わないから、と引越しの時に持ってきてくれたのだった。


その日はまだ使うつもりはなかったけれど、壊れていないかと確かめるつもりで電源を入れた。



わん、と。

圧迫感のある空気の塊のようなものが押し寄せてきた気がした。

目眩がし、肺全体がチクチク痛みを訴えだす。


思わず、コタツのスイッチを切ると、すーっと体が楽になった。




この時の私の気持ちはと言うと、???という感じ。




なにこれ?・・・まさか?


電源を入れる。

チクチクチクチクと体が痛む。


まさか・・・コタツのせい?



テレビをつけてみると、少し前には大丈夫だったはずなのに、もう見られない。

離れて見ていても、テレビ画面から何かレーザー光線でも発射しているかのように全身、針で刺されるかのような痛みを感じる。


さらに、脳を貫くような痛みが始まった。

どうやら家の上空を飛行機が飛ぶたびに感じるようだ。


神奈川県には基地があるので、戦闘機が日にたくさん飛ぶ。戦闘機のときは貫くような痛みで、ヘリのときはしめつけるような痛みだった。


痛みだけでなく、めまいもだんだんひどくなり、横になっていても天地がぐるぐる回る。

夜も眠れなくなった。少しうとうとしても、痛みで起こされる。



こういう話をすると、必ず気のせいだろうと言う人がいる。

はっきり言わせてもらうが、電気だの電波だのに反応して痛みを感じるなどと言う話を1番最初に疑うのはとうの本人だ。


そういう病気をもともと知ってる人ならともかく、私は電磁波過敏症などと言う病気がこの世にあることも知らなかった。

気のせいか、気が触れたか、勘違いか、別のものに感じているのでは、と疑った。

 



信じられないし信じたくない私が、それでも痛みの原因を確かめようとしてとった行動は、夜中、刺すような痛みを感じるたびに家から飛び出すということだった。


昼間は戦闘機はそこそこ低空を飛んでいる。つまり近づいてくる音がする。

しかし夜は苦情が出ないように気を使っているのか、家の中にいると音が聞こえない程度の上空を飛んでゆく。

だから痛みを感じていても、多分飛行機が飛んでいるのね、と勝手に思っているだけで、本当に飛行機が飛んでいるかどうかは外に出なければ確かめられない。



どうせ痛みでほとんど眠ることもできなかった。

飛び出したとき高い確率で飛行機が飛んでいれば、確かに私は飛行機のレーダーの電波だか低周波音だか、なんだかよく分からないが、とにかくナニカに反応していることだけは確かになるというわけだ。


テレビがそこにあるのははっきり見えるし、こたつも同じ。

私が何か精神病的な思い込みにより、家電製品に近づくと体調を崩している…という可能性はゼロでは無い。


でも飛行機は音さえ聞こえなければ、普通の人には、いるかいないかわからないはずのシロモノで、自分が本当に目に見えない何かに反応してるのかどうか確認できると思った。



私は一晩中、頭痛→飛び出す、空に飛行機の明かりを探す。を繰り返した。

この時少し驚いたのは、我が家の上空を思っていた以上の数の飛行機が飛んでいたことだ。

最近は以前より少し減った感じだが、この頃は昼も合わせると多い時で100回以上飛行機が飛んだ。

100機以上、でないのは、民間機と違って戦闘機の場合、いや、ヘリコプターなのかもしれないが行ったり来たりするのである。

なんだかずーっと痛いなと思ったとき、外に出てみたらヘリコプターがちょっと行ってはまた戻りしていた。



結論から言うと、90パーセント以上の確率で飛行機が飛んでいた。

夜は昼より却って、暗い中に小さな明かりを見つければいいので見つけやすいが、それでも雲などで見えないケースを考えれば、ほぼ100パーセントに近い確率である。



つまり私の体は電波だか何かに痛みを感じるようになってしまったわけで。

やっぱりそれは疑いようのない事実なわけで。

ショックで打ちのめされてしまった私のところに、電磁波過敏症という病気があるらしいよと情報を持ってきてくれたのは妹だった。



妹がネットで調べてくれた北里研究所病院にすぐ電話をしてみたけれど、予約が取れたのはなんと2ヶ月以上も先の年明け1月だった。


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