第96話 30代・少し落ち着いて
弁護士から、揃える書類はこれでいいでしょう、とやっと言われたのは、翌年3月くらいだったと思う。
その後も、追加でそれまでまとめた書類の手直し等はあったけれど、とりあえず時間の余裕ができたので、アルバイトを探すことにした。
まだ、いつ弁護士のところに行かなければならなくなるか分からなかったし、体力に自信がなかったので、はじめは週3日位で、その後につながりそうな仕事を探して、いくつか面接を受けた。
時給にはこだわらずに探したつもりだったけど、週3日でその後につながりそう・・・と言うだけでそれなりに競争率が高かったようで、連続で面接に落ちた。
あの頃の私は、それほど仕事については深刻に心配していなかった。
ろくろく働いたことのない、しかも子供の頃から体が弱かった私が、父と2人分の生活費を稼ぎ出すのはかなり難しかったろうが、幸いなことに母が残してくれた古いアパートがある。
それだけでは2人分の生活費にはならなかったけれど、不足分をアルバイトで稼ぐぐらいだったら私にもできるだろうと思っていた。
しかし、続けて面接に落ちたところで、このまま同じような仕事を探しても無理かもしれないと思い始めた。
学生アルバイトでも雇ってくれそうな、全く経験などは必要ない仕事から始めるか、それともパソコン教室にでも通って、技術を身につけなければ状況は変わりそうにない。
結局、私は後者を選んだ。
妹が借りてくれたアパートは、妹の家と上の甥が通う小学校の間にあり、この頃、よく甥たちを預かった。
妹が出かけるとき、上の子は学校帰りに、就学前の下の子の方は妹が連れてきて置いて行く。
母が亡くなってすぐの頃とは違い、私も甥っ子たちが可愛くはなってきていたが、妹のためや甥っ子たちのためよりも、2人がやってくると喜ぶ父のためが大きかった。
妹は、後々、私ではなく父が預かってくれたのだとうそぶいたこともあったが、確かに、2人がやってくると主に相手がするのは父だったけれど、何事もないように後の方でちゃんと私が見ていた。

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