第91話 今・無料弁護士相談
その日は前の晩に、何度目かの計測を終えて、NPOに返送した。
前回は、輸送中にデータが飛んでしまったので、ほとんど同じ場所で再度計測した。
このデータはうまく撮れていたとしても、方向がわかるだけで、その先は他人の家の敷地なので、発生元を突き止めるためには、事情を話して通らせてもらったり、何の機械を使っているか、お話しを伺ったりしなければならない。
そんなことを私にできるのかな…と思いつつ、あきらめきれずに再計測したものだ。

夜中にうろつき回ったので、明け方に寝て、少しゆっくりめに起きて、夕方、自治体の無料弁護士相談会に行った。
弁護士の先生は、低周波の問題には詳しくないけれど・・・と前置きして、公害の場合の例を出して話してくださった。
たくさんの工場の出した汚染物質により、体を壊したとする。
そのうちの1つの工場を訴えたとする。
そうすると、やはり何分の1かの責任を問うことになる。
今現在の浄化槽やその他の低周波音にエコキュートがプラスされて、健康に被害が生じると判断されるだけの低周波音になったとしても、撤去や、移設を強制することはできないだろうと。
エコキュートだけの音で、それなりの程度の音量であれば別だけれど。
おそらく、こちらができることは、裁判所に調停を申し込むことぐらいだろうと。
調停とは、結局話し合いであって、向こうがダメと言えばそれで終わってしまう。
けれど、意外と全くの第三者を挟むと、冷静に話を聞いてくれることも多いので、やるだけ無駄とは思わないと。
そして、費用は、弁護士を頼めば30万円位かかるけれど、自分で手続きをするのなら、手続き費用だけで済むと言う話をしてくださった。
ただし、問題は、今現在、新型コロナの影響で、裁判所の業務がストップしているそうだ。
あまりお力になれずすみません…とおっしゃるので、そんな事はありません、いろいろ教えて下さってありがとうございました。今後のことをよく考えてみますと言って帰った。

翌日のことだ。
NPOの方から、今回は計測器の設定が間違えていて、わからなかったと連絡が入った。
NPOの方が、機械の設定を間違えてしまったらしい。
謝ってくださって、もう一度送りますとおっしゃった。

不思議と、私はあんまりがっかりしなかった。
落胆よりも、なにか、呆然とするような、なんとも言えない、不思議な気がした。
データが飛んだり、計測器の設定が間違えていたり、なんだか、結果を出す必要はないとか、そんなようなことを神様に言われている?
もしかして、結果が出たとしても、私にどうこうできることじゃないってことなのか?
それとも、そんなふうに無理を押し通そうとすることは、良くないって意味?
何度か計測しているうちに、これは工場とかじゃないだろうなって思えてきた。
単純に、ヒーターとかの、家庭用の機器だろうと。
しかも、もしかしたら一つじゃない。
いくつか重なって大きな音になってるだけなのかなぁって。
冬の間は大丈夫だったのに、ここへきて音が大きくなったのは、よく理由がわからない。
もしかしたら故障なのかもしれないし、もしかしたら新しい機械を買ったら、たまたま低周波音の大きな機種だったのかもしれない。
でも、どちらにしても1台で出してる音じゃないのかも。
そうだとするとこれもエコキュートと同じで、やめてと言って通るものでは無い。


そう思えて、力が入らなかった。
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