第89話 30代・詐欺全容2
バブルが崩壊し、H不動産は業績が悪化していった。
新規のマンションもなかなか売れなくなった。
それで、いったい何人に声をかけたのかわからないが、決算の前にマンションを一旦、買ったことにしてもらい、決算後に会社が買いとった形にすると言う話を持ちかけてきた。
その代わりに、大きな仕事を任せるからと。
粉飾決算を計画したのだ。
当初、父は、当然断ったそうだ。
実際に、Yが父のところに持ってきた書類が複数残っていた。
後日、会社が買い取ると言う内容である。
何度も、何度も、繰り返し頼んできたらしい。
最終的に、父はうなずいてしまった。
断り切れない父らしい話だが、倫理的にも職業的にも、絶対断らなければいけなかったと思う。
だが、父はこの時、この話がもし仮に嘘だったとしても、一軒だけなら何とかなると思ったらしい。
ローンを支払い続けるにしろ、売却するにしろ。
それで、マンション1室を買ったつもりで、印を押した。
ところが、印影は複製され、父は10室位も買ったことにされてしまった。
10室くらい、というのは、結局、全部で一体どれほど買ったことにされたのか、最後まで分からなかったからだ。
マンションだけでなく、覚えのない土地の、税金滞納の通知まで回ってきた。
今はどうだかわからないが、当時の不動産業界の人間なら、当然知っていることなのだが、印影を複製すると言うのはそれほど難しいことではないらしい。
手が後ろに回ってしまうので、みんなやらないだけである。
結局、実印と言うのは、印鑑証明があるかないかだけの問題だ。
1室買ったつもりで預けた印鑑証明を使い回されたのか、もしくは仕事上で印鑑証明を預けることもあったので、そちらを使い回されたのかわからない。
1つだけ言えるのは、今よりもずっとその点、緩かったと言うことだ。
この時、父の名前で買ったことにされたマンションのローンは、父があずかり知らない父名義の口座から引き落とされていた。
他人名義の口座を作るのも、今よりずっと簡単だった。
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