第26話 カウザルギー6
医者は全く頼りにならなかったので、以前通っていた鍼灸院に行くことにした。
電磁波過敏の症状でお世話になっていたのだが、手首を痛めてから、電車に乗るのがつらく、行かなくなっていた。
もっと早く行っておけばよかったのではないかと今でも思う。
最初の頃ならいざ知らず、ここまで悪化してしまっては、鎌倉から横浜の先まで通うのはひどくつらかった。
脂汗をにじませて、死に物狂いで行った。
妹の家から大船駅まではタクシー、その先は電車で行った。
妹に、時間があるときは車で送ってあげようかと言われたのだが、正直なところ車の揺れは電車の揺れより痛みにつらく、気力を振り絞ってでも、電車で通ったほうがマシだったのだ。
痛む手首を抱えてかばいながら、ブルブルと怯えて、誰にもぶつからないようにと祈っていた。
何もしなくても気が遠くなりそうなくらい痛いのだ。ぶつかったり、動かされたりしたらとても耐えられない。
なぜそんな思いまでして通ったかと言うと、そこに行けば確実にほんのわずかだけでも前より楽になる。
他に少しでも良くしてくれそうな場所は思いつかなかった。
そこに行けばきっと助かる。
行かなければだんだん悪化しておそらく死ぬ。
そう思ったからだ。
鍼灸院の先生には食べられないならお粥と梅干しでも食べていいなさい、と言われ、その通りにした。
それでも、時々お粥ですら下痢して流れてしまったが、鍼灸院に通ううち、少しずつ下痢が減っていった。
妹はちゃんとダシをとってお粥を作ってくれたが、別にただの残りご飯を茹でたものでも食べただろう。
食事と言うよりも、生きるための作業でしかなく、私は出されたものを一心に口に運んだが、きちんと出汁をとってくれたのはありがたいとも思っている。
どんなものでも食べたとは思うが、おいしい方が喉を通りやすいのは確かだ。
妹は、そんな私を見て、意外と食べるなどと言っていたが、私は自分がどの程度食べているのかもわからなかった。
私にとっては作業でしかなかったので、とにかく目の前のものは全部口の中に放り込んだ。

こうやって食べて、鍼灸院に通っているうちは私は大丈夫。
生きようとしているのだ。

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