第42話 異世界お菓子教室(2)
「ふう、じゃあ次行くぞ?」
ようやくみんながそれぞれ生地を作る事が出来た。
新しい材料を渡したり、みんなが変な事をしないように常に監視したりと本当に大変だった。
もう二度とお菓子教室など開かない、リュースティアがそう心に誓ったのは言うまでもないだろう。
「なんだかお菓子を作るのって大変ねー。リュースティアも毎日よくやるわ。」
大変にしている張本人が何を言っている?
そもそも一人でやるときはもっと楽だし、こんな時間かからないんだよ。
「次はアップルパイに入れるリンゴを煮てくぞ。これはリンゴの皮をむいて櫛切りにしたらスライスして鍋にぶち込む。で、総量の大体30%くらいの砂糖と輪切りにしたレモン、それとシナモンなんかの香辛料を入れて煮込んでくだけだ。」
ちなみにレモンはこちらの世界にはなかった。
マップで検索したが表示されなかったのでおそらく存在しないのだろう。
だが、レミードとかいうレモンに近いものならあった。
最もサイズはスイカ並みに大きく、色も皮が紫で中が白とレモンからはかけ離れているが。
シナモンなどの香辛料はボルボリンの森でたまたま見つけた。
エルとの修行中に魔物の探索をしていたら嗅いだことのある匂いを検知し、行ってみたらシナモンをはじめクローブなど香辛料の元となる木々が群生していた。
中には絶対に同じ場所では育たないものもあったがそこはファンタジー世界、いちいちツッコむまい。
そこでそれらの幹を回収し、風魔法の【
もしやと思ってマップ検索をしてみたらボルボリンの森は香辛料や香草類、果物などの宝庫であることが分かった。
当然リュースティアが取る行動はただ一つ。
狩りつくす。
だがさすがに生態系とかの問題もあるので自重する。
採取は必要な分だけに留め、場所のマッピングをする。
こうしておけばいちいち検索しなくても必要な時にまたすぐ採取しに来れる。
「とまあこんな感じで皮をむいてくんだよ。別に難しくなんかないだろ?」
そう言いながらきれいに皮のむけたまん丸のリンゴを四人に見せる。
パティシエになりたての頃は形が汚くてよく怒られてたっけな。
なんか懐かしいな。
「で、それはどこを食べるんだ?」
リュースティアはリンゴの皮をむき終えてやり切った顔をしているシズにそんなこ戸を聞く。
シズの手元に残ったリンゴは芯と大差ないサイズにまでなってしまっている。
「あははは。。。」
はあ、ある程度予測はしてたけどやっぱりか。
おおざっぱなシズにリンゴの皮むきなんてできるとは思ってなかったよ。
どうせリンゴはそのままかじるタイプでしょ?
「リズ?」
さすがにシズよりはきれいにむけているだろうと思ってリズを見るとなぜかリンゴをにらんだまま立ち尽くすりずがいた。
何してんの、君は?
「リュースティアさん。私、包丁で皮をむいたことありません。と言うか包丁を握ったこともありません。」
えっ、本気で言ってる?
その歳で料理したことないの?
って、そうか伯爵令嬢なら屋敷に料理人が控えてるから自分で何か作る必要なんてないのか。
「いえ、なぜか小さいころからお母さまも料理長も私に刃物は触らせてくれなかったんですよ。」
なるほど。
シャルロットさん、料理長、ファインプレーだ。
ってなるとこれはやらせないほうがよさそうだな。
惨劇が怒りそうな匂いがプンプンするよ。
「おっ、こういうところはさすがだな。きれいにむけてるな。」
そう言ってスピネルの頭を撫でてやる。
もともと他のメンバーと比べてスピネルはお菓子作りに向いているのでシルフの邪魔さえ入らなければ惨事になるようなことはないみたいだ。
安心したよ、一人でもまともな子がいてくれて。
「ってシルフ?これシルフがむいたのか?」
スピネルの隣に置かれた多量の皮むきリンゴを見てリュースティアが驚きの声を上げる。
皮が厚すぎるという事もないしちゃんとむけている。
これ、俺がむくより早いんじゃないか?
「そうなの!こんなの魔法でちょちょいなの!」
そう言いながら得意げに胸を張るシルフ。
ま、魔法だと⁉
ファンタジー世界め、職人の技まで凌駕するとは。
だけど負けないよ?
「偉いぞ。じゃあこれを煮てる間に最初の折りをやろうか。見てて。」
リュースティアは冷蔵庫から生地を取り出して打ち粉を打った大理石の上に生地を置く。
厨房を創造するときに台は全て大理石にしてある。
大理石は持っていなかったが他の鉱石や岩石から簡単に創造できた。
さすが固有スキルだね。
「案外簡単にできそうじゃない?」
ふふふ、シズ。
その言葉がきることは想定内さ。
ならばやってみるがいい、そして地味に難しいことを実感するがいい。
生地を伸ばすのって簡単そうに見えて手早さと絶妙な力加減が必要なんだよね。
力のかけ方にムラがあるときれいな四角にらないから折るの難しくなる。
「できた!やっぱり簡単だったわね。」
はや⁉
っておい、これはなんだ?
「俺は四角って言ったよな?何で三角になってんの⁉つかむしろ三角なんてよくできたな。ある意味才能だわ。」
「そ、そうかしら?えへへ。」
「褒めてない!」
なぜか褒められていると思ったらしいシズを一括し、他のメンバーを確認する。
他のメンバーもなにかしら起きていると身構えて確認に向かったのだが意外と普通に折り作業をしていた。
苦労はしているが変な事にはなっていないようだ。
よかった。
「じゃあ生地を冷やしてる間にちょっとしたものをつくるから見ててくれ。今回作るのは俺だけだけどみんなにも手伝ってもらうから。」
今から作ろうと思っているのはアシェット。
つまり、皿盛りデザートだ。
ただお菓子を作るところを見せても飽きられる可能性が高いので見ていて楽しいアシェットにした。
まあ、見せると言っても使うものはすでに作ってあるからあとは盛りつけだけなんだけどね。
あっ、せっかくだし飴細工でも見せたら喜ばれるかな?
「それは何ですか?」
リズが銅鍋に入っている琥珀色の液体を見てそんな質問をしてくる。
「それは砂糖だよ。砂糖以外にもちょっと入ってるけどね。」
まあ見てて、そう言ってからリュースティアは煮詰めた砂糖を台の上に流す。
化学繊維を使ったシートなどもちろんないのでこちらの世界にある材料を使って似たようなものを創造した。
これで飴を流してもくっつくことはない。
飴ランプもオーブンを作った時と同じような方法で作ってある。
耐性が上がったおかげか素手で飴を触っても熱くない。
これなら耐熱用のぶ厚い手袋をしなくても薄手の物だけで大丈夫そうだ。
しばらくすると飴が冷えて固まってきたので折ってく伸ばしてを繰り返す。
すると琥珀色だった飴が輝く金色へと変わる。
そろそろいいかな?
リュースティアはできた飴の硬さを整え飴細工に取り掛かる。
最初は無難に薔薇にダリアなどの花系。
そのあとは引き飴でリボンを作ったり吹き飴で鳥や球体、その他にもいろいろと作っていった。
久しぶりにやる飴細工が楽しすぎてこのまま永遠に作業してしまいそうだ。
今日はみんなの事もあるしここらへんで終わりにして今度時間を作ってピエスを作ってみるのもいいかもしれない。
「はい、じゃあ飴細工はここまでな。ん、どうかしたか?」
「きれい、、。」
やけにみんなが静かだと思ったら飴細工に見惚れていたらしい。
スピネルが珍しく口を開けたまま呆けている。
そんなに良かったのか?
そう言えばこっちで細工物をあまり見ていないからこういう芸術品もあまり普及していないのかもしれない。
リンゴ飴みたいに飴細工も棒にさして売ったら設けそうだ。
「スピネル?そんなに気に入ったなら今度一緒にやってみるか?」
リュースティアはスピネルだけにそんなことを言う。
視線で二人から猛攻撃をされているが反論するならまともにお菓子を作れるようになってからにしてほしい。
惨劇は今回だけで十分だ。
「うん!」
おっ?
珍しく即答だな。
嬉しそうに返事をするスピネルを見れただけで飴細工をしたかいがあった。
「じゃああとはこれを窯に入れて焼いたら完成だ。」
ようやくアップルパイが窯に入る。
長かった、本当に長かった。
取り合えずあとは焼きあがるのを待つだけだ。
美味しくできているのかはわからないがこれだけ頑張ったんだ、多少くらい不味くてもおいしく食べられるはずだ。
「ふー、お菓子作りって奥が深いのね。」
「リュースティアさんがはまるのも分かる気がします。それよりも楽しみですね、初めて作ったお菓子、早く食べたいです。」
シズとリズが片付けをしながらそんな感想を述べている。
お菓子作りの大変さと達成感をわかってもらえたようで何よりだ。
後は食べて感動を味わってもらいたい。
あと15分。
いい匂いがしてきた。
うん、これならきっとおいしくできてるはずだ。
お菓子の匂いは幸せの匂い。
今日も平和だ。
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