第10話

 学校の近くの古図書館で調べものをしてから数日。

 俺達は放課後何度もあの図書館へと通っていた。


 初日に俺が取り乱して追い出された時は出禁を覚悟したが、司書さんに平謝りしてなんとかそれだけは回避することができた。


 実はあまり暴れた時のことは覚えていないのだが、里奈とエリカに取り押さえられて色んな場所が柔らかかったことだけは鮮明に覚えている。

 正直最高でした。

 なんならもう一度暴れようかと思ったくらいだ。

 そんなことをすれば本当に図書館を出禁になってしまうのでできないが。


 それに里奈とエリカは俺に魅了されてるからそこまでしたのであって、そんなことは倫理的に許されることではない。

 魅了はしても一線は超えない。

 それが俺のポリシーだ。


 さて、図書館通いしている成果なのだが……


「で、今日も行くの? ついて行ってあげないこともないわよ!」


「俺は行くけどついて来なくていいよ」


「そ、そこまで言うなら一緒に行ってあげるわ!」


「来なくていいって言ってるんだけど」


「私も図書館に用があるのよ!」


 エリカの態度はご覧の有様である。

 残念ながら成果は皆無に等しい。


 あれから魔力関連の本は読み漁った。

 しかし、どうにも今の俺に参考になりそうな本はない。


 あのタンクトップ悪魔の本を筆頭にふざけた本ばかりが出てくる。

 内容はあまり説明したくない。

 ボケないと生きてられないのかってくらいにはボケ倒しだったとだけ言っておく。


 一方で、それっぽい難しい本もたくさんあった。

 しかし中身を読んでみたらニュンペーだのエロースだのアドビーだのサザビーだの、よく分からない単語で埋め尽くされていて理解ができない。

 正直読む気になれなかったってのもある。

 最後の単語とか完全にモビルスーツじゃん。


 過去に親父に教えてもらった時には全く出てこなかった内容がわんさか出ている。

 お陰で俺の頭は大混乱である。


 そうでなくても俺が読める入門書的なやつは例のタンクトップ悪魔が必ずと言っていいほど出てくる。

 あのタンクトップ悪魔はシリーズ化していて俺が読んだ入門編の他にもたくさんあった。

 それらも読んだが人をバカにしたあの文面は変わらず、結果この数日間は俺のストレスが溜まるだけとなった。

 もうタンクトップは見たくない。


「今日はどうする? あの辺のコーナーはほとんど目を通したよね」


 と、隣にいる里奈が質問する。


 ともあれ、里奈の言う通り目を通すだけは通した。

 何百冊もある本を全て事細かには読んではいないが、ざっくりどんなことを書いてあるのかくらいまでは読んだつもりだ。


 その結果として今の成果なのだから、次は別の手を考える必要があるだろう。


「今日からは呪いに関する本を探すつもりだ」


「あっくん最近根を詰めすぎじゃない? ちょっと息抜きしようよー」


「うーん、でもここ数日何も進んでないしな……」


 正直に言えば焦っている。

 それなりに頑張って調べたつもりだ。

 なのに何も結果が得られないというのは面白くはない。

 せめて有識者が傍にいてくれればとも思うのだが、それに該当する親父は海の向こう側だ。

 今までも親父から教えてもらってはいたので、親父がいた所で進捗があるかは分からないが……


「でも後退してるわけでもないでしょ? 焦って調べても見落としがあるかもしれないし。たまにはリフレッシュしよ?」


「うむむ……里奈にしてはまともなことを言うな」


「しれっと失礼なこと言うね!?」


「日頃の行いを振り返ってみるがいい」


 里奈は大体ふざけたことしか言ってないよ。


「私、そんなに変なことばっかり言ってるかな」


「自分の胸に聞いてみろ」


「ふむふむ……Fカップだって!」


「サイズは聞いてねーよ! そういう所だよ!」


 それにしても大きいですね。

 さてはまた成長しましたね?


「今のはあっくんが喜ぶと思って言ったんだよ! 図書館で本読みながらチラチラ見てくるし!」


「みみみみ見てないわ!」


 嘘ですめっちゃ見てました。

 本読んでると疲れるんだもん。

 目の保養は必要じゃん?


「わ、私だってFカップよ!」


「いきなり張り合おうとすんな!」


 エリカが立派なものをお持ちなのは知ってるよ。

 でもこういうことを言うのはやめてほしい。

 解呪しても記憶はある程度残るんだよ。

 後が怖い。


「とにかく、今日は息抜きに遊びに行こー! えーちゃんは図書館に用があるんだよね。だから私とあっくんの二人で放課後デートだね!」


「んなっ……!」


 そういやエリカはそんなこと言ってたな。

 嘘だろうけど。

 でも言質を取られて歯噛みしている。


「ダ、ダメよ! あんたたちを二人きりになんてさせられないわ。飛鳥がセクハラするわよ!」


「あっくんにならセクハラされてもいいもん」


「飛鳥のは環境型セクハラよ! いるだけで害悪なの!」


「誰が環境型セクハラや」


 どこぞのフェミニストみたいなことを言うんじゃない。

 それよりも人前でカップ数をカミングアウトするお前らはどうなんだよ。

 ここ学校だぞ。


「と、とにかく! そんな危険な悪魔を野放しになんてできないわ。私も行くから!」


 と、言うわけで今日の放課後は息抜きすることに決まった。


 $


 さて、息抜きといってもどうしたものか。

 俺達の通う学校からだと遊びに行けるような所は電車を使って行くしかない。

 息抜きのためにわざわざ電車を乗るのも気乗りしなかった。

 里奈かエリカが行きたいと言えばそれでもいいかと思ったが……


「あっくんと一緒ならどこでもいいよ!」


「飛鳥を監視するだけだから場所は気にしないわ」


 こんな感じで丸投げされてしまった。


 俺に任せても女子受けするような場所は選ばないぞ?

 ぼっちは伊達じゃないんだ。

 これまでどれだけ学校と自宅を往復するだけの日々を送っていると思っているんだ。

 里奈とも別に遊びに行ったりしなかったしな。


 しかし少しは考えよう。

 いくらなんでも完全に俺の嗜好というのはよろしくないだろう。

 女子受けが良さそうな所だ。


 まずは電車乗るのは却下だな。

 俺が嫌だ。

 このくらいは二人には我慢してもらおう。


 あとゲーセンも却下だな。

 女子はゲーセンになんて行かんだろう、多分。


 となると、駅の近くには本当に大したものはない。

 ファストフード店かカフェくらいだ。

 この二択ならカフェだな。

 あそこはテラスもあるし、女子向きだろう。


「よし、じゃあ駅前のカフェでのんびりするか」


「「…………」」


「あれ?」


 おかしいな。

 なぜか横から湿った視線を感じる。


 どこでもいいんじゃなかったのか。

 場所を選ばないんじゃなかったのか。


 なんで俺が責められてるような雰囲気になっているんだ。


「と、とりあえずそこでどこに行くかまた考えようぜ。俺も今すぐには思い浮かばない」


「そうね。お茶でもしながら考えましょう」


「うんうん、休憩は必要だよね」


 ほっ……

 これならまだいいらしい。

 こういうことは先延ばしにするに限る。

 どうやら針のむしろならずに済んだようだ。


 ともあれ里奈とエリカに挟まれながら学校から駅に向かう。

 近くには同じく駅に向かって歩く生徒もたくさんいる。


「一色の野郎……またあの二人を侍らせやがって……!」

「美少女でスタイルもいい二人が何故……」

「里奈たんとエリカたんのおっぱいはFカップらしいぞ!」

「勝ちたい時にはエ○カップ!」

「そこは○ーパーカップだろう」


 途中から何の話になってるんだ。

 とはいえ、大声で言うからプライベートな情報がダダ漏れだぞ。

 女子としてどうなんだ。


「最近は三人でデート三昧らしいな」

「一体何をやっているんだ」

「変な呪文を唱えてるのを誰かが聞いたらしいぞ」

「俺はタンクトップがどうとか聞いた」

「一色のタンクトップ……たまらん!」


 おい最後の誰だ。

 タンクトップってあの悪魔のことだろ。

 俺が着るとかじゃねーよ。

 ひょろい俺のタンクトップなんて見れるもんじゃない。


 里奈とエリカがタンクトップ着たらたまらんとは思うけど。

 ……うん、すごいことになりそうだ。

 何がとは言わないけど。


 しかしこうしてひそひそ話が聞こえてきても里奈とエリカは動じる様子が見えない。

 言われ慣れてるんだろうか。

 いや、正確には見られ慣れているというべきか。


 改めて見てみると、二人とも美っ少女だもんなぁ。

 俺と一緒にいなくても色々言われるに違いない。

 そんな子が呪いの所為で俺にべったりなわけだ。


 里奈は今更だからともかく、エリカは色々体裁もあるだろう。

 俺と出会う前は……そういやエリカは厨二ツートップとか言われてたんだっけな。

 既に体裁もへったくれもなかった。

 じゃあいいか。


「飛鳥。なにか今、失礼なことを言われた気がしたわ」


「……気のせいだろ」


 なぜ自分のカップ数の噂はスルーするのに俺の独白には反応するんだ。

 気にする方向が間違ってるぞ。


「邪気を感じるわね」


「いやいや、俺は何も考えてないぞ」


 いやほんとに。

 濡れ衣だ。


「飛鳥じゃないわよ! 近くに悪魔がいるわ」


「おおう!?」


 なんと。

 まさか俺以外の悪魔がいるとは。


「すぐに行かなきゃ!」


「い、今から行くのか!?」


「私は祓魔師エクソシストだもの! 悪魔を退治するのが仕事よ!」


 エリカは高らかにそう宣言する。

 そして周りの生徒がそれをばっちり目撃した。

 そりゃ厨二って言われるよ。


「残念だけど放課後デートはまた今度にするわ! ……べ、別に私はデートのつもりじゃなかったわよ! 勘違いしないでよねっ!」


「いや俺は何も言ってないし」


「残念でもないんだからねっ!」


「分かったよ」


「あ、明日の放課後なら予定空いてるから!」


「分かったから早よ行けよ」


 祓魔師なんだろ。

 悪魔を倒しに行けよ。

 悪魔とどんぱちやってこい。


 ……いや、ちょっと待てよ?


「エリカ。その悪魔退治、俺も行っていいか?」


「えっ、悪魔退治デート?」


「デートから離れろよ」


 なんだよ悪魔退治デートって。

 物騒すぎるだろ。


「そうじゃない。悪魔の実物を見ておきたいんだよ」


「そんなに面白いものじゃないわよ」


「いいんだ。実際に悪魔が魔力を使ってる所が見たい。ダメだろうか」


 そう、実際に魔力を使っている相手を見れば何か分かるかもしれない。

 安直だがそう考えた結果だ。

 親父が使ってるのは解呪以外だと見たことないし、解呪は高等技術らしいから参考にならない。


「……私のこと、頑張れって応援してくれるなら考えてもいいわ」


 エリカは気恥ずかしそうに言う。

 なんだ、少し可愛い所もあるじゃないか。


「そのくらいならいくらでも言うぞ」


「エリカー! 頑張れー! かわいいー! 愛してるー! 結婚してくれー! 俺の童貞を貰ってくれー! って応援してくれるなら考えてもいいわ」


「急にハードル上がったな!?」


 後半とか悪魔退治と全然関係ないじゃん。


「言うの? 言わないの!?」


「善処はしよう」


 とりあえず、頑張れまでは言うつもりではある。


「里奈はどうする?」


「私も行くよ! あっくんの童貞を貰うのは私なんだから!」


「里奈、負けないわよっ!」


「趣旨変わっとるがな」


 というか、もう俺の童貞ネタやめない?

 俺のプライベートなことが全校に広まっちゃう。

 もう手遅れな気がするけど。


「とにかく行くわよ! 急がないと被害者が出ちゃう!」


 こうして、俺達はエリカの悪魔退治に同行することになった。

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