第16話 ガールズトーク?
サクラの部屋は、想像通りのお姫様の部屋だった。
広い室内には天蓋つきベッドとグランドピアノ。家具はピンクと白をベースにしたロココ調で統一されている。
「どうぞ、カヲルちゃん座って」
勧められてフカフカのソファに座ると、なんということでしょう、サクラもすぐ隣に腰を下ろしてきた。
彼女の方からいい匂いが漂ってきて、なんだか――鼻血が出そうになる。
(ヤバイよヤバイよ、あたしは女、あたしは女、あたしは女)
心の中で呪文のように唱えた。
「カヲルちゃん、どうしたの?」
「えっ? ああ、友達の家に遊びに来たのって初めてだから……ちょっと緊張」
「そうなんだぁ」
サクラは安心したようにホッと息をつくと、上目遣いに聞いてきた。
「昨日、仲良さそうにしてた子たちは?」
「えっ? ああ、ミモリとナモリのこと? アレは親戚ってゆうか、分家筋の子。ウチの母親に言われて、学校であたしの監視役をしてるんだ」
「?? カヲルちゃんのお母様って」
「ええと、なんていうか……日本の伝統芸能の家元、かな。一応あたしが跡取りだから、お家の評判を落とすようなことをしないかっていっつも見張られてるんだよね」
「すごい。もしかして、それでみんなからカヲル姫って呼ばれてるんだ」
「まあね。だから、あの二人とは仲良しなんかじゃないよ。てかむしろ仲悪いし」
言い訳がましいカヲルの言葉に、サクラはツンとそっぽを向いた。
「……でも、胸触ってたよね」
言葉が冷たい。慌てて言い訳を重ねた。
「あ、あれも修行の一環でね、伝統を継承するためにしかたなくだから」
自分でも何を言ってるのかわからない。
(女子中学生の胸を揉むって一体何の修行なんだ? オレは乳揉み術の伝承者なのか?)
するとサクラはギュッと唇を噛んで真剣な顔になった。
「あのね、わたし、転校が決まったときもう諦めてたの。中二の五月なんて半端な時期に転校して、きっと友達とかできないんだろうなあって。もともと男の子は苦手だし、女の子だってグループが出来上がってるしね。だからカヲルちゃんと出会えてホントによかった。カヲルちゃんって女の子独特のネチっこいカンジがないでしょ」
(そりゃまあ、ホントは女の子じゃないからな……って、いや違うぞ。今のオレはあたし、女の子だ)
そう自分に言い聞かせながら答えた。
「あたしも同じだよ。村のみんなにはどうしてもお姫様扱いされちゃうから、なんだか壁があるんだよね。だからサクラちゃんと出会えて嬉しいって思ってる」
けれどサクラはブルブルと首を振った。
「ううん、わたしはカヲルちゃんとは違うの。ネチっこいの。ネチネチなの」
「はい?」
「カヲルちゃんが、他の子と仲良くしてるのを見るとヤキモチ焼いちゃうの」
「そ、そうなんだ。でも、そういうことってあるんじゃない? 友達同士でも嫉妬くらいするよね、ハハハ」
とりあえず思いっきり笑顔を作ってみる。
ところがサクラは首を振って立ち上がり、対面にあるベッドに座り直した。
「ねえ、聞いてもいい?」
「何を?」
「カヲルちゃんは、女の子が好きなの?」
「えっ?」
「前の学校って女子校だったから、そういう子たちって結構いたんだよね。だからカヲルちゃんが昨日胸を揉んでたのも、女の子が好きな人だからなのかなと思って」
(何を言ってるんだ、この子は?)
カヲルの目が点になった。
そりゃホントのカヲルは男で、女の子、特に可愛い女の子は嫌いじゃない。
けれど今のカヲルは女で、女の子が好きかと言われれば……やっぱり大好きだった。
「いやぁ、もう男とか女とか何がなんだかわけわかんなくなってきた……そういうサクラちゃんはどうなの?」
「わたし?」
「前にいた女子校で、好きな女子とかいなかったの?」
頭の中にいつぞやのヨシノブの言葉が浮かんだ。「水無川櫻は120%百合」とか「外見に反してベッドではタチになるタイプ」とかなんとか。
(もしそうなら、サクラちゃんは
急激に心拍数が上がってくる。
「そんなわけないよ。だってそれって要するに変態でしょ」
高まるカヲルの期待を裏切り、サクラはあっさりと答えた。
「ですよねぇ」
全身からガックリと力が抜けた。
(何が百合マスターだよ。ヨシノブのヤツ、適当なこと言いやがって!)
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