第14話 妹の平手はご褒美ですか?
「やっと気がついたか。感動の父子の対面だな。さぁ、息子よ。父の胸に飛び込むが良い」
そう言うと、美幼女は腕を広げた。
「父さん!」
カヲルは十四年ぶりに再会した父の元に駆け寄ると――思いっきり顔面を殴りつける。
「てめぇ、ふざけんなよ! 久しぶりに会ったと思えば、なんだよその格好は! ロリBBAじゃなくて、ロリGGIかよ!」
「おっ、うまい事言うなぁ」
「褒められても嬉しくねぇよ!」
実の父親がいつのまにか幼女になっていた。しかも一瞬でもその幼女のことを可愛いと思ったなんて、思い出しただけでも虫唾が走る。
さらに殴りつけようとするカヲルの腕を銀髪美少女の姉が抑えた。
「ハルをいじめたら許さない!」
「いじめてなんかいねぇよ。離せってば、どうせおまえも正体はおっさんなんだろ!」
そう叫んだ次の瞬間、パンと乾いた音を立ててカヲルの頬が鳴った。
同時に鋭い痛みが伝わってくる。
どうやら、銀髪美少女の平手打ちを喰らったらしい。
(殴られたのなんて、いつ以来だ?)
油断していたとはいえ、カヲルに平手を入れられる人間などそうはいない。目を丸くしたカヲルの視界に飛び込んできたのは、さらに驚くべき光景だった。
美少女の青い瞳から、一筋の涙がこぼれていた。
そのしずくは青く、まるで海の欠片のよう。
背後で、父親の声がした。
「あーあ、トウコを泣かせやがった。兄貴失格だな」
「兄貴失格って――」
どういうことだ? そう尋ねようとして振り返ったカヲルの視界に、美幼女妹イコール父親の姿はなかった。
あわてて前を向くと、美少女姉のほうも姿を消している。
「なんなんだよ、いったい!」
さっぱりわけがわからなかった。
十四年前に睡蓮寺を出て行った父親が、銀髪碧眼の美幼女になっていたなんて。
それから、一緒にいたもう一人の美少女。
「兄貴失格って……じゃあ、あの子はオレの妹?」
そのときだった。
非常階段の鉄扉が破壊され、警官隊がなだれ込んできた。
カヲルは考えるのをやめることにした。
睡蓮寺流くのいち忍法が事件に関与したことは、極秘事項なのだ。
(とりあえず退散しよう。考えるのはヨシノブにでもやらせればいい)
カヲルは大急ぎで侵入経路を逆走し、スカイツリーから脱出した。
「たかだか不良グループ相手にずいぶん時間かかったんだな」
世界一の電波塔の下では、相棒のヨシノブがいまや遅しとカヲルの帰りを待っていた。あわてて言い訳する。
「あいつらただの不良じゃなかったんだよ。錬金術とかって変な術を使ってきやがるし、死んだと思ったらゾンビみたいに生き返るし」
「錬金術にゾンビ? 報告書を書くから詳しく聞かせてくれ。後は何があった?」
「あと、スカイツリーにオヤジがいた」
「オヤジって、ハルト様?」
「ああ、しかもオレの妹だっていう女の子を連れててさ。なんなんだよ、アイツは」
「ハルト様が日本にお戻りに? しかも事件現場にいらしたってことは、このスカイツリーが事件現場になることを事前にご存じだったわけか」
ヨシノブは感心したようにつぶやく。
その口調からは、尊敬どころか畏怖の念すら感じられた。どうにも納得いかないが、下忍から成り上がって「紅白梅」を極めたハルトは睡蓮寺の若いくのいちにとってはいまだにカリスマ的な存在なのだ。
(でも、いまのアイツはロリGGIだぞ!)
「そんなことはないんじゃねぇの。たまたま日本に帰ってきて、スカイツリー観光してたところを事件に巻き込まれたんだろ」
ムシャクシャして悪態をつく。しかしヨシノブも譲らなかった。
「何言ってんだ。睡蓮寺史上最強といわれたハルト様だぞ。なにか大きな事件の前触れに決まってる。他に何か変わったことはなかったのか?」
「他に? 他にって……」
ヨシノブに聞かれて、思い出した。
「あった!」
「何があったんだ!」
「サクラちゃんから電話があったんだ。で、明日サクラちゃんの家にお呼ばれすることになったんだよ!」
「はぁ? カヲル姫、任務中に電話出たのかよ」
「別にいいじゃねえか、任務は無事完了したんだから。それよりどうする? 制服やジャージで行くわけにはいかないよな、私服だよな。でも、私服ったっていつもの男の格好じゃダメなわけだろ。マズいぞ。女の服なんてどうすればいいだよ。朝一で隣町まで買いに行くか? 車で30分かかるけど、忍法『風猿』を使えば5分で行けるよな。あ、でもダメだ。オレ一人で店に行っても何を買えばいいかわかんないや。なあヨシノブ、どうしたらいいと思う?」
「知るかよ!」
頭を抱えるヨシノブを尻目に、カヲルはすっかり浮かれモードになっていた。
「女の子の部屋に行くって、もしかしてオレ生まれて初めてじゃね? うぉおおお、どうしよぉおおお?」
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