「囮」
「ティーファ先生デス。加藤さんの恋の相手は……ティーファ先生デス」
アメリアは顔面蒼白になっている。心配そうに香坂潤がアメリアの肩を抱いた。アメリアは
私は店員さんを呼んで、床に落として割れてしまったガラスのコップを片付けて貰うように言った。部屋に入ってきた店員さんがアメリアの様子を見て、大丈夫ですか?と声を掛けてくれる。貧血です、大丈夫です、と香坂潤が答えた。
店員さんが床掃除をしてくれて、私達は頭を下げた。店員さんが個室から出たのを確認して、私は悟さんに尋ねる。
「悟さんは、この人が、今、何処にいるのか知ってるの?」
「何処って……海外とは聞いてるけど」
「海外じゃないのよ……」
「どういうことだ?」
悟さんの表情が
私は、『イチゴイチエ』の事、ハロルドの事、そしてティーファ・オルゼの事を悟さんに話した。悟さんは中々信じてくれなかったが、私のスマートフォンにあるメッセージの履歴を見て、溜息を
「そうか……じゃあ、アメリアさんは、異世界……アルトリア?という国の出身なんだな」
「ハイ……」
弱々しくアメリアが
「残念だけど、まあ……ティーファとは、昨日知り合ったばかりだし、ダメージも少ないよ。さっさとマッチングを解消しようと思う」
その言葉を聞いて、春日部遥が言った。
「加藤さん、マッチングは解消しないでくれませんか?」
「どういう事ですか?」
「ティーファ・オルゼの目的や動向を探りたいんです。協力して頂けませんか?」
コップに入ったビールを飲み干して、悟さんは、う~んと
「でも、俺がこのままティーファとやり取りを続けると、彼女のレベルアップに繋がるんですよね?それはマズくないかな……」
「確かにそうですけど、ティーファ・オルゼの動きを把握する方が重要じゃないか、と私は思います」
「そうかあ……美咲は、どう思う?」
急に目線をこちらに向けて、悟さんは私に尋ねた。
「難しいところね。レベルアップの速度によるかな……」
「なるほど。一日でレベル3になったって、ハロルド?って男は言ってるんだよな。皆の感覚的には、どの位で、こっちの世界に来るって思う?」
悟さんはコップにビールを注いぎながら、皆を見渡して言った。
「あくまで僕の感覚なんですけど……こちらの世界に来る事が出来るレベルが15……今のペースだと、大体、二カ月くらいだと思います」
香坂潤が、両目を左上に向けて
「そもそも、こちらの世界に来るには、両者の同意がないと魔法は発動しません。ティーファ・オルゼが、こちらの世界に来たいと言っても、悟さんが拒否すれば、彼女はこちらの世界には来られないんです。なら、今はやり取りを続けて、彼女のレベルの把握や、目的なんかを知るのが良いのかも知れません」
「そうか。分かったよ。協力する。俺は何をすればいいのかな?」
悟さんは、決意を固めて何度も頷いた。
「
「いや……今日、チェックアウトしたんだよ。もし良ければ、俺の会社の会議室でも使うか?流石にこの人数で、ホテルの一室って訳にはいかないだろう」
「万が一の事があるし、会社の会議室はマズいかも」
「う~ん。じゃあ、カラオケボックスとかはどうだ?」
「カラオケボックス!?そっちの方が危険じゃない?」
「そうか……」
悟さんが、頭を
「あの……ちょっと遠いですけど、僕の家でどうですか?マンションですけど、会議室やカラオケボックスよりも格段に安全です」
皆が、それがいい!と頷いた。
食事を終えて、香坂潤の車でマンションに向かう事になった。広々とした車内だが、流石に五人で乗るには狭すぎる。悟さんが、俺はタクシーで向かうよ、と言って、香坂潤にマンションの
悟さんが店の人にタクシーを配車するようにお願いしているのを見ながら、店員さんにお会計をお願いした。ランチにしては高額だったが、悟さんには借りがある。香坂潤も、春日部遥も財布を取り出して、食事代を払おうとしてくれたが、ここは
ハロルドから、何時頃に連絡が来るんだろうか。
店を出るとアスファルトから放たれる熱で、少しクラクラとした。午前中は涼しかったが、午後になって暑くなってきた。梅雨も明けて、季節は夏に差し掛かろうとしていた。
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