1章 第24話 初デート
「おっはよー」
翌日、先週純哉達と四人で待ち合わせた場所と同じ駅前に行くと、凛が元気よく手を振っていた。
彼女は今日、白のブラウスにチェックのハイウエストミニスカート、ニーソックスを履いていた。なんだか先週よりは年相応の様な服装だった。もしかしたら俺に合わせたのだろうか。
「おはよ。悪い、待った?」
「んー……十分くらい?」
腕時計を見てそう答えた。かと思うと、
「でもここは敢えてさ、『ううん、今来たとこ♪』と言ってみる」
一転して悪戯な笑みを向けてきた。
「あ、なんかそれカップルっぽくていいよな」
「……ちょっと。『ぽい』って何? 『ぽい』って」
そう答えると、凛は不服そうに言う。
「いや、その……」
恥ずかしかったから、だなんて言えない。恋人と待ち合わせ自体随分久しぶりなわけだし、昨日の自分の気障っぷりなんて思い出しただけで発狂しそうだ。
「傷つくな……」
悲しそうな表情で言う。
「えっと……」
体が熱くなるのを感じたのは、きっと残暑の所為だけではないはずだ。
「ふふっ」
俺が言いよどんでいると、凛は可笑しそうに笑った。
「顔、赤いよ?」
「お前こそ……真っ赤だぞ」
「えっ!?」
慌てて凛は自分の頬に手を当てた。
真っ赤なのは嘘。少し赤くなってるだけだ。
ただ、凛のそういう慌てた表情や仕草が愛おしく感じる。
「お前ってさ……」
「なあに?」
首を傾げてくる。
「……いや、何でもない」
可愛いんだな、凛って。あんまりそういう風には感じた事が無かったんだけど……可愛い。人気が出たのも凄くわかる。
純哉含め、全国の色んな男が凛に憧れてるんだろう。もしかしたら堀高で芸能人の同級生からも好意を寄せられていたのかもしれない。でも、渡したくない。誰にも渡さない。
「あっ、今さ、『こいつはもうだれにも渡さない』って思ったでしょ?」
悪戯な笑みを作って、こちらをのぞき込んでくる。
「ち、ちげーよ……」
いいつつ、目を逸らす。
「ほんとに?」
彼女はそんな俺を逃すまいと、先に回り込む。やや勝ち誇った顔をして。
「ぐっ……」
鋭過ぎんだよ、お前。
よく相談相手として指名されるのも、こういった鋭さ故かもしれない。
「大丈夫だからさ」
「え? な、何が?」
「私は……翔くんだけだから」
ボッと俺の顔に火がついたのが解った。言った張本人の顔も真っ赤になっていた。
「……きょ、今日暑いねっ」
パタパタと手で顔を扇いで誤魔化す凛。
全く……何がしたいんだか。お互いに。ただ、付き合い始めの初日ってこんなものなのかもしれない。
「じゃあ、とりあえず飯食いに行く? この町お洒落なレストランとか無いけど」
「翔くん達がいつも行くとこでいいよ」
うん。何となく凛ならそう答える気がしてた。
俺達は早速駅のすぐ近くの商店街、即ち昨日行ったばかりの天津屋へ向かった。
天津屋の店長は俺を見るなり「また来たアルか」と面倒そうな顔をして言ったが(客が来たのにどうかと思う)、隣に居るのが話題のRINだとわかると一転して態度を変え、タダで料理を出してくれた。
普段とはエラい違いである。タダで料理を出した代わりに、と色紙を慌てて買ってきて、凛にサインを要求するあたりはさすがだ。凛はタダ飯を食らうことには申し訳なさそうだったが、サインに関しては快く承諾していた。『天津屋さんへ』と書かれたサインは、すぐさま店の中に飾られていた。
店長は「なんか都会の有名店みたいネー!」ととても喜んでいた。まあ、凛以外のサインが飾られる事は無いだろう。一方、凛も天津屋の味には満足した様で、「こんな美味しい中華は初めて!」と大絶賛だった。
お互いに好印象。良い事だ。
天津屋で食事を終えた俺達は、商店街をぶらぶらと歩いた。基本遊ぶ場所が無いので、散歩くらいしかやる事がない。本屋に寄って凛が載ってる雑誌を見てからかったり、駄菓子屋でアイスを買って、商店街の外れにある寂れた神社で食べたり。
中には凛を見て驚いたり騒いだりする人もいたけど、先週みたいに問題が起こるレベルではない。
こうして歩いていみると、本当に遊ぶ事がない。喫茶アイビスに連れて行こうかとも考えたが、やめた。もしかしたら愛梨と純哉が今日も勉強しているかもしれない。何て言うか、初デートなんだから出来れば部外者は交えたくなかった。四人で集まったら先週と同じだし。
「ほんとに、なーんにも無いね」
アイスを食べ終えた凛が、大きく伸びをして立ち上がった。彼女は俺の手からアイスのゴミを取ると、自分のと一緒にゴミ箱まで持って行って捨ててくれた。
「だから、そう言ったじゃんか」
俺がこの一年、暇を持て余してきた所以である。暇を潰したいなら自分の部屋か友達の部屋で遊ぶか、後はバイトくらいしかない。そんな場所だ。
「皆服とか何処に買いに行ってるの?」
「まあ、大体先週行った町まで出るか、イワンモールじゃないかな」
「イワン?」
「バスで少し行ったとこにあるショッピングモールみたいなとこかな。美容室もそこにあるし、ゲーセンもあるし映画館もある」
田舎にいくと必ずある全国チェーンのあれだ。
「あ、私そこ行きたいかも」
目を輝かせて言う。
そんな目を見せられると断れない。ただ、イワンモールはこのあたりじゃ唯一のデートスポットや遊びスポットと言っても過言ではない。結構学校の連中もいるので、誰かに見られたら面倒事になりそうである。
「ほら、早く!」
そんな危惧をよそに、凛は楽しそうな顔で、俺の手を引いてくる。
彼女が楽しめているのなら、多少の面倒事なら何とかしてやろう。そんな気にさせてくるから、不思議だ。
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